美味しいお祭り[その2 ]
マルティナを信用していたのだが、当日になるとやはり問題が発生した。
(さすがにあれで回避とはいかなかったのね)
隣に座るカイルが怒鳴っている。きっと一段高い会場にいたら張り倒していたに違いない。
単に隣のフェリシアが腕を掴んでいるから、その場を動かないだけだが。
(わざわざアイコンタクトしてからとは、大根役者もいいところだわ)
バーシェス商会の調理スペースの側には、何故かライバル商会のストークマン商会の調理スペースがあった。
その時からちょっと嫌だな、とフェリシアは思っていたのだが、こんな幼稚な手に出るとは。
「これではバーシェス商会は料理を提供できないでしょう。ここで棄権ですね」
「なんだと!」
更に熱くなるカイルを今度は両手で掴む。
フェリシアだって、この言い方は納得出来ない。
しかし。この品評会の司会をしている者は、バーシェス商会に問うことなくーーまるで台本があるかのように大げさな声音で喋った。
「では、バーシェス商会はこれで棄権とーー」
「発言等の許可を頂けますか?」
最後まで言わさず、フェリシアは右手を上げた。
甥や姪に我慢させながらも頑張ったのに、何を勝手に終わらせようとしているのか、怒り心頭だが、勿論そこは表情には出さなかった。
「許可する」
フェリシアに許可を出したのは、リドホルム国の第二王子エルランドだ。
フェリシアは今現在、町娘に見える質素なワンピースを着ているが、相手は王族なのでスカートを摘まみ挨拶をした。
(発言等、と聞いたし。相手は許可するとだけ言ったわ)
逃げ道は確保して、フェリシアは微笑んだ。
こっそり発動させた。なにも発動時に音をさせる必要はない。
わざわざ品評会運営委員が魔道具を持って来た。形は違うけどこれマイクね、とフェリシアは手に持つ。
「まず、貴方」
司会者を指し示す。
「はい。なんでしょう?」
にっこり笑顔だが、目が笑っていない。あと少しでバーシェス商会を棄権に出来たのに、フェリシアが割って入ったのだから面白くないのだろう。
「一つの鍋は踏みつけられて歪んでいます。更に一つの鍋は、煮込んでいた中身が床に全て放り出されています。
ですが」
フェリシアはゆっくり首を傾げる。
「バーシェス商会は棄権すると言っていないのに、勝手に棄権を宣言する権利が貴方にあるのでしょうか?」
観客がざわめく。
隣のカイルは、「棄権する必要なんてないだろ?」と小声で確認してきたので、「勿論です」と答える。
「しかし、ですね。鍋が駄目になって、片方は中身が駄目になったのですよ?棄権するしかないでしょう?」
「棄権はしねぇ」
フェリシアの持つ魔道具を使い、カイルが言いながら司会者を睨み付ける。
「ですので、棄権を勝手に宣言されては困ります」
「き、棄権しないで何が出来るのですかっ」
「料理は出来上がるまで内緒ですよね?ですので、棄権はない、とだけ」
もうこの人には用はないので、視線を他に向けた。
「ストークマン商会の、ぶつかった方」
「俺か?」
『リンゴン♪』
鐘の音がすると、ライナスとリオン、それからリドホルム国のエルランド王子とこのフィルップラ領の令息ヘイノが目を見張った。
「ぶつかる前にわざわざそちらの方とアイコンタクトされてましたね?」
「はぁ?そんなわけないだろ?」
『ブッブー』
エルランドとヘイノが顔を強張らせる。なにしろこの祭りは、神託により始まったのだ。
その祭りで、自国民が何かしでかしたのは明白だ。
「では、ぶつかったリドホルム国のサポートの方」
「は、はい」
「同じ質問ですが、アイコンタクトされてましたね?」
「い、いいえ」
『ブッブー』
確実に二人から証言を取ると、リドホルム国の王子と令息だけでなく、ライナスとリオンも顔をしかめる。
「バーシェス商会の調理の方」
「はい」
『リンゴン♪』
調理長が軽く手を上げる。
「特に不備はなかったですか?」
「材料が揃ってなかったな」
『リンゴン♪』
まさかそこからか、とフェリシアがついたため息まで魔道具に乗って辺りに響いた。
マルティナも仲間だったのかーーそう思ってがっかりしていると、『リンゴン♪』と鐘の音がした。
「……マルティナ様?」
「材料はきちんと揃えました。私が確認しています!」
『リンゴン♪』
「だが、俺達が来た時には足りなかったぞ!」
『リンゴン♪』
悲鳴のようなマルティナの答えに、調理長が怒鳴る。が、どちらも正しいことを言っている。
「マルティナ様が確認なさったあと、誰かが処分したのでしょう」
『リンゴン♪』
多分あの名乗らなかった運営委員の彼女だ、とフェリシアは姿を探した。
見付けて目が合うと、そっとそらされた。
「殿下にお願いがあります」
「申してみろ」
「バーシェス商会が材料と調理道具をこれから購入することと、時間の延長。
それから、ぶつかった二人の排除とーーバーシェス商会に一人の加入を許可を頂きたいのです」
エルランドは長いため息をついた。その間に入り込んだ者がいた。
「待ってください!その女もバーシェス商会縁の者ではないですか!」
『リンゴン♪』
「その言い分を鵜呑みになどーー」
「黙れ」
「しかし」
「黙れと言ったのが聞こえぬか!!」
バン!とテーブルを叩いたエルランドに、不承不承口をつぐんだのは、ストークマン商会の社長オーケだった。
「彼女が虚実の鐘を使った。先程から二つの鐘の音がしていただろう。それにより、誰が嘘を述べていたのか、すでに分かっている」
『リンゴン♪』
「今のこの音が肯定の音だ」
『リンゴン♪』
先程嘘の発言をした者達は
一様に青ざめ、中には膝をつく者もいた。
(う~ん。このままだとお祭りが台無しですわね)
どうしようかしら、と首を傾げるとエルランドがフェリシアに気付いた。
「バーシェス商会の購入と一人の補充を許可する」
「ありがとうございます」
「衛兵、そこの二人を連れていけ」
「はっ」
二人が連れて行かれる間に虚実の鐘の効果を終わらせ、フェリシアは運営委員に魔道具を返した。
「料理するのは駄目だよ、フェリシア」
カイルとは逆側に座っていたライナスに声をかけられた。
「これ以上フェリシアが注目を浴びたらローレンスやグレンに怒られる」
「でも……」
フェリシアが心配そうにバーシェス商会の面々を見上げる。
ライナスだって意地悪で言っている訳ではない。しかしフェリシアが今回頑張っていたのも知っている。
「……助言だけだ。手は出さないこと」
「伯父様ありがとう!大好き」
フェリシアは満面の笑みでライナスに抱きつき、頬に口付けた。
自分もフェリシアに甘いな、とライナスは苦笑するしかなかった。




