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女神の趣味に付き合わされて  作者: 五月女ハギ
美味しいお祭りの女神
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下ごしらえの前に[その2 ]

「じゃあ、色々道具を作ったりしても大丈夫ですか?」

「は?道具?」


 てっきり無理だと投げ出すかと思っていたカイルは、慌ててフェリシアの話を聞く体制をとった。


「はい。食べ物って見た目も大切なので、型抜きがあると便利なんですけど」


 首を傾げるフェリシアに、カイルは安堵の息を吐いた。どうやら何を作るか決まったようだ、と。


「なんとかなりそうか?」

「う~ん。少し酸っぱくても受け入れられますか?」

「酸っぱい?」

「お寿司を作ろうかと思いまして。

 巻き寿司やちらし寿司とか、あの辺りの味付けってリドホルム国では受け入れられそうでしょうか?」

「もう少し酸味を控えめにした方がいいな」

「でしたら、味付けはその様に」


 フェリシアがデイトン伯爵家の家令ウォルトに書くものをもらい、何やら色々と書き始めた。


「何を作るつもりだい?」

「今回は見た目を華やかにしたいので、押し寿司を」

「押し寿司?なんだ、それ」

「う~ん。代用品を使って、一回作ってみましょうか?」


 言葉で説明するのは難しいと思い、フェリシアが提案するとすんなり許可が出た。


「少量ならお茶の時間に食べればいいだろう」

「……緑茶とは合いますけど、紅茶はちょっと違うかもしれませんわ、伯父様」


 微妙な表情を浮かべフェリシアは眉を寄せた。




 □ □ □ □ □




 フェリシアは一旦試作品を作りにブロウズ伯爵家へ戻って行った。

 フェリシアを溺愛するジョナスにより、色々調理道具は揃っているので、デイトン家のキッチンを借りるより、使い勝手がいいのだろう。


「押し寿司ってなんだ?」

「さあね。でも見た目が華やかなのはいいだろう?」

「ああ。アイツらはいつもこっちを見下しているからな」


 隣国リドホルムは、文化水準が高いと周辺各国に有名だった。

 だった、と過去形なのは、周辺各国の水準が肩を並べるくらいにまで上がったからだ。

 更に、エイジャー国はすでにリドホルムよりも技術力に長け、各種芸術も盛んとあってはリドホルムに見下されていい存在ではない。


「あの国は過去の偉人に拘り過ぎだな」

「才能を枯れさせる天才だからな。そりゃ国外留学を理由にして、そのまま移住する芸術家がゴロゴロ出る訳だ」


 保護も支援もなしにやっていけるほど、若い芸術家の暮らしは良くない。楽器や画材や諸々費用がかかる。


「ジョナスが何かやってなかったか?」

「フェリシアが気に入った絵を描いた青年が、王都で家賃が払えなくて追い出される寸前だったのを支援したんだよ。

 最終的には、アパートを一棟買い取って、若い芸術家数人に無料で貸し出してるはずだ」


 絵を買った時に「これでご飯が食べられる」と呟いた青年に、フェリシアが驚いて話を聞き出した。

 おろおろするフェリシアを見てられなくて、ジョナスが珍しくローレンスに命令してやらせた。

 絵を買った時以上に喜んだと聞かされたのは、五年ほど前か。


「フェリシアに会ったときは、あまりの空腹にとうとう天に召されて天使に会ったと思ったらしい」

「教会の壁画の修復士になったって、それでか」


 今ではエイジャー国内を師匠について、あちこち忙しく回っているらしい。

 始めての仕事がデイトン伯爵領の教会だったため、修復が終ったあと直ぐにローレンスとリオン、フェリシアを連れて行くと、今度は「女神だ……」と言っていたが。


「ライナスには天使でも女神でもないか」

「フェリシアは姪だしね。可愛いと思うけど」

「甘やかさないしな」

「……ジョナスが甘やかし過ぎだからな」


 ライナスが顔をしかめる。

 カイルはそんな親友に豪快に笑った。


「まるで甘やかしたいって言ってるようなもんだ」


 珍しく反論出来ないライナスは、少しばつが悪そうに肩をすくめるだけだった。




 □ □ □ □ □




「……押し寿司?」


 カイルは目の前に置かれた二層のご飯の塊を前に、呆然とした。

 ご飯の間はスモークサーモンの薄いピンクが、表面は黄色と緑とオレンジが綺麗だ。


「今日は小さいですけど、品評会の時はもう少し大きく作ると迫力があるかと思います」


 言いながらフェリシアは切り分け、それぞれの前に皿を置いた。

 まだ三分の一ほど残っている。


「残りは?」

「あとで父が来ますし、現物があった方が説明しやすいでしょうから、カイルおじ様が持ち帰る用です」


 一口大に切り分けられた押し寿司を食べ、ライナスとリオンは美味しいと頷いている。

 しかしカイルは苦々しい表情だ。


「味のインパクトが足りない」

「インパクトはパンや麺類の方が出ますよ。ご飯ではなかなか」

「これならパエリアの方がインパクトがあるだろうな」

「見た目も派手ですしね」

「もっとこってりしたのは……」

「他の方達もこってりしたものをお出しになるのなら、あっさりもいいと思いますけど」


 フェリシアは首を傾げる。

 暑い最中、品評会の参加者が全員こってりした料理しか出さなかったら……地獄絵図ではないか。


「審査員の方達は、皆様お若いのでしょうか?」

「若いのはリドホルムの王族と領地の息子くらいか」


 それではやはり胃もたれするのではないか。


(でもこってり、かぁ)


 方法がない訳ではない。配布の時に少し面倒だが、出来ない訳ではない。


「カイルおじ様は、こってりしたものになさりたいのですよね?」

「ああ」

「こういったものはどうでしょう?」


 フェリシアが始めた説明に、段々とカイルの顔に笑みが増していく様が、まるで悪巧みしているようだ、とライナスは思った。

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