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女神の趣味に付き合わされて  作者: 五月女ハギ
美味しいお祭りの女神
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下ごしらえの前に[その1 ]

 リオンがブロウズ伯爵家のカントリーハウスに空間移動してきた。

 学校は長期休暇の夏休みに入ったところで、グレンは将来に備えて、アッシャー伯爵領で領地経営を学んでいる。

 よってフェリシアはデートとはいかず、カントリーハウスで甥と姪の相手をしたり、魔法の練習や勉強、料理に励んでいた。


「忙しいところが悪いけど、ウチに来て欲しいんだ。カイルおじさんが急用だって」

「カイルおじ様が?」

「用があるのはフェリシアだけか?」

「う~ん。ローレンス兄さんかジョナスおじさんがいた方がいいかなぁ。フェリシアを借りたいみたいだから」

「じゃあ、父にするか。帰ってきたら行くように言うから、それまでに条件をほぼ詰めといて」


 ローレンスは伯父のライナスに領地経営を学んだり、まだオールポート家であった時から色々と世話になり、また尊敬もしているので、デイトン家からの話は基本的に断らない。

 そこにフェリシアを溺愛する養父ジョナスが関わると我が儘を言い出すのを知っているからこその判断だ。

 宮廷魔術師団から帰ってきてからデイトン家へ移動となると、夕方か夜に生るのでちょうどいいだろう。


「準備が済んだら行こうか」

「今から大丈夫ですよ」


 フェリシアが手を伸ばすと、リオンが両手を繋いだ。


「ローレンス兄さん、フェリシアを借りていくね」

「ああ。伯父さん達によろしく言っといて」

「はい。領地を巡るんだよね」

「ああ。その時勉強に行くよ」


 次回の約束をして、リオンとフェリシアは空間移動を発動させた。




 □ □ □ □ □




 あっという間にデイトン家に着くと、そのままライナスの執務室へと向かった。

 すでにカイルは来ており、ソファーに足を組んで座っている。


「ローレンスは?」

「ジョナスおじさんが帰ってきたら、こっちに来るよう言ってくれるそうです。

 あと、領地の巡回は勉強に来ると言ってました」

「なんでジョナスなんだ?」

「フェリシア絡みになると……先に条件を詰めておいて、と」


 カイルは苦々しい顔をして、リオンの言いたいことを理解した。


「それで、カイルおじ様。絵本の話ですか?」


 フェリシアが甥と姪に手製の絵本もどきを作り読み聞かせしていたところ、カイルが興味を持ち、バーシェス商会で販売をする運びとなったのは、半年前だ。

 フェリシアとしては、前世の記憶から童話や昔話をしていただけだったので、売上の内自分の取り分を孤児院への寄付する物品の購入費用に充てている。

 それが人気が出て、新作をと言われていた。


「それもあるが、今日呼んだのは別口だ」

「豊穣と平和を願う祭りは知っているよね」

「はい。美味しい食べ物を配るお祭りですよね?」


 あの女神が企んだに違いない祭りだとフェリシアは思っている。

 なぜなら、フェリシアにあの能力を付けたあとに神殿で神の御告げがあって出来た祭りだからだ。


 ただ、領地経営が上手くいっていないところなどでは、単に教会での炊き出しを一回この祭りにあてるだけだ。

 建前上、誰でも食べられるのだが、そういった領地では配る相手を決めてしまっているのが現状だ。


「ブロウズ伯爵領でも配りますよ」

「いや、配る話じゃないんだよ」

「各国が持ち回りで美味しい食べ物を競いあう、品評会を知らないのか?」

「話だけは聞いたことありますけど」


 フェリシアは首を傾げる。品評会の会場は各国持ち回りだが、今年はエイジャー国ではなかったはずだ。


「……ケンカを売られた」

「は?」


 カイルの言葉に思わず呆けた声が出た。神の御告げがきっかけの祭りでケンカとはなんてことか。

 しかしカイルの表情は真剣だ。


「品評会の会場は隣のリドホルムでやるんだが、そこで大手の商会が、米を食うなんて貧相な国だと抜かしやがった」


 フェリシアがパエリアを提供してから、デイトン伯爵領とブロウズ伯爵領では、米に対する拒否感は大分減った。

 ただ単に、貯蔵の仕方と脱穀の技術の低さから、味が悪かっただけなのだ。

 そこの改善が終わり、今では米が旨いまま流通しており、主食として普段から口にする機会も多い。


「そんな時代錯誤な人が、よく商人としてやっていけてますね」


 エイジャーの王子であるアレクシスが、実はいなり寿司好きと知らないのだろう。知っていて言ったのなら、各国にあるアレクシスのファンクラブを敵に回すのだが。


「そこで、だ。米を使った料理を出したい。今年はバーシェス商会がエイジャー国の代表で出ることになったからな」

「その料理のレシピをフェリシアにお願いしたいそうだよ」


 ライナスに言われ、フェリシアは考えこんだ。

 米料理は沢山知っている。

 しかし、この世界は箸の文化がないため、例えば巻き寿司を箸で食べられないし、手で持つ文化もないので、掴んで食べる、ともいかないだろう。

 アレクシスがいなり寿司を手掴みで食べるのは異例中の異例だ。

 初めは渋ったが、旨さの前に抵抗を放棄したそうだ。


「……小さなライスコロッケとか。

 あ、揚げ物はこの時期大変ですね」


 すでに新しい物好きの貴族は、ブロウズ伯爵領かデイトン伯爵領でパエリアは食べているだろう。

 そうなると、似た印象になるピラフとチャーハンはなしだろう。


「う~ん。難しいですね」

「難しい?どの辺りが?」

「審査員って貴族ですよね?

 いなり寿司や太巻きやおにぎりは、手で持つので印象が良くないでしょう?」


 再びう~んと唸り悩むフェリシアに、カイルはため息をついた。


「どうにか一泡吹かせたかったんだがな」

「そうですよね。

 ええと。品評会ってどのくらい参加者いるのですか?」

「参加者は各国二組だから十組だな」


 祭りの参加国が五か国だ。


「じゃあ、審査員は沢山の量を召し上がることになるのですね」

「いや、たいてい一口二口だ」

「あれ?配るのは一食分ですよね?」

「配布はな。審査のはもっと少ない」


 ふうん、と頷きしかしまた考えこむ。


(さすがに無理だったか)


 カイルはもう一度ため息をつき、ソファーの背もたれに体重をあずけた。

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