正しい魔法の使い方[その6 ]
誤字を直しました。
ご指摘ありがとうございました。
「……え?」
驚きの声をあげたのは、そのお茶会に参加していた令嬢達だった。
但し、アーリンは表情を全く変えない。
それどころか、アーリンはマシューの言葉を肯定した。
「皆様、ご存じなかったのね」
『リンゴン♪』
「いくらなんでも、あれほど大声で喚いていたら丸聞こえだ」
当たり前だろう、とアレクシスは肩を竦めた。
「ですから、皆様の様子は知られていたのです。
そうなると、ね」
アーリンは苦笑した。これ以上は説明する気はないようだが、する必要もないと考えているのだろう。
「……そんなこと……」
シンディーが呆然と呟いた。
(まあ、彼女は無理でしょうね)
フィリスは肩を竦めた。
ことあるごとに誰かをあしざまに言っていた。高らかな嘲笑の声が、きっと聞こえていただろう。
「あのお茶会に参加していた跡継ぎの方達が、参加していない令嬢と婚約したのには、そんな理由があったのですね」
『リンゴン♪』
フェリシアの呟きは、虚実の鐘に肯定される。
「ああ。だから私がアーリンと、ヴィンセントがベリンダと、グレンがフェリシアと婚約したのは、そういう訳だ」
『リンゴン♪』
「え?あの私は……」
自分と婚約者の名前がないので、フィリスは首を捻り問いかけた。
自分だって、シンディーみたいなことはしていない。
「フィリスとマシューは、茶会よりも前から婚約の話が出ていただろう?」
『リンゴン♪』
「……え?」
虚実の鐘は肯定している。
しかし、そんな話は知らない。フィリスが呆然としていると、マシューが口を尖らせる。
「茶会より前に僕と会ったの忘れてるの?」
「そんなわけないじゃない」
『リンゴン♪』
忘れられるはずがなかった。
男の子だというのに、自分よりも遥かに可愛い子供だったのだから。
可愛いもの好きのフィリスだが、マシューに対しては、男の子をこんなに可愛くする前に私を可愛くすべきでしょ、と神様に不満を述べたくらいだ。
「でも、忘れられてるよ。
だって僕、その時プロポーズしたのに、全然返事が貰えなかったし」
「……冗談かと思ってたわ」
『リンゴン♪』
虚実の鐘の音に、マシューがため息をつく。
「……ひどいよね。
何年も待ってたのに返事もなく、なぜか婚約者を探しだしそうな感じだったから仕方なく先に婚約したのに」
「……だって一回言われただけで」
「普通プロポーズは一回だよね」
「……だってマシューはフェリシアが好きだったじゃない」
『ブッブー』
なぜ否定の音がしたのか、先程からの情報で理解力が落ちているフィリスには、何が事実なのか分からなかった。
「僕がフェリシアと仲が良かったのは、彼女は可愛いからきっとフィリスの好みだと思ったからだよ」
『リンゴン♪』
「……え?」
「フィリスは可愛いものが好きなのに、それを知られるのを嫌がってるからね。
僕が仲良くなって、一緒にいるならいいかと考えたんだ」
『リンゴン♪』
「マシューがフェリシアを好きになることはないだろう。
初めからフィリスだけだったではないか」
『リンゴン♪』
「分かりやすかったですわね」
「今まで気付かれてないのは同情を禁じ得ないが」
アレクシスの呆れたことを隠そうともしない声色が肯定され、フィリスは衝撃を受けた。
アーリンにもバレバレな自分の婚約者の気持ちをまさか自分が一番分かっていなかったなんて。
「でも。アレクシス様とヴィンセント様はフェリシアを好きだったのではないですか」
『リンゴン♪』
シンディーの発言に肯定の音がして、食堂内が今回の件で一番ざわめいた。
フィリスは表情を固くしたアーリンとベリンダ、そして驚愕するフェリシアを見た。
「そんな昔のことを」
『リンゴン♪』
「アレクシス様は政略結婚するのですから、アーリンを愛してなどいないのでしょう?」
「そんなわけないだろ。愛しているから婚約したのだ」
『リンゴン♪』
アレクシスの言葉を鐘の音が肯定し、アーリンとシンディーの口から「え?」と驚きの声があがった。
「シンディー嬢はともかく、アーリンまでも誤解していたとは」
『リンゴン♪』
「あの、でも……」
「祖父の代から国の中枢を担う者達の清浄化は済んでいるからな。何もわざわざ政略結婚など必要ない」
『リンゴン♪』
アーリンは一筋涙を流すと止まらなくなったのか、顔を両手で覆った。
アレクシスはそんなアーリンを胸に抱き寄せ、耳元で囁いた。
「不安がらせていたのだな」
『リンゴン♪』
「これからはこのような思いはさせない。
ーー共にあってくれるか?」
「はい、アレクシス様」
『リンゴン♪』
フィリスには二人の会話は聞こえなかったが、肯定の音がして、二人は仲睦まじく身を寄せている。
(アーリン様……良かった)
あのお茶会の時からアーリンがどれ程アレクシスに思いを寄せていたのか知っているフィリスは、安堵の息を吐いた。
「ベリンダ、お前も誤解していたのか」
『リンゴン♪』
「あの、ヴィンセント様……」
「俺はお前しかいないと婚約を申し込んだんだ」
『リンゴン♪』
「……え?ドイル伯爵家のであってヴィンセント様の御意志ではないのでは……」
「俺が意見を出し、家にも認められた。そういうことだ」
『リンゴン♪』
頬に流れる涙を指で拭い、いつになく優しい声で囁く。
「だから安心して嫁いでこい」
「はい」
ヴィンセントは涙を拭いながら、優しい眼差しを向けている。
(こっちも大丈夫そう)
二組の様子を見ていたら、いつの間にか抱き締められていた。
「よそ見出来るなんて余裕だね?」
「そ、そそ、そんなことないよ?」
『リンゴン♪』
「二人の気持ちはお茶会の時から知ってたから、良かったと思って」
『リンゴン♪』
「僕は?」
「え?」
「僕のことはどうでもいいの?」
視線をあげられると口を尖らせている婚約者がいた。
あんなに可愛かったのに、今だってその面影があるのに、いつの間にか自分よりも背が高くなった婚約者は、それでも少し子供っぽい。
「私、剣だこがあるの」
『リンゴン♪』
「知っているよ」
『リンゴン♪』
「だけど、そんなに強くないの」
『ブッブー』
鐘が否定する。フィリスが首を捻ると、上からため息がした。
「フィリスが強くないと自分を判断した理由が、一つ二つ上の兄弟弟子達なら間違ってるよ」
『リンゴン♪』
「……え?間違ってる?」
「彼らは入ると同時に即戦力として扱われてるほど優秀な近衛師団員だから」
『リンゴン♪』
「……近衛師団って、確かな身分と高い能力が必要とされてる?」
『リンゴン♪』
「そ。彼らと似たレベルで戦えるのは強いんだよ」
『リンゴン♪』
「……」
フィリスは呆然と、マシューを見上げた。
「剣だこがあるとなんなの」
「男子は引くかなって」
『リンゴン♪』
ああほら肯定された、とフィリスは苦笑した。
やっぱりマシューの隣が似合うのは自分じゃない。
なのに頭上からは、大きなため息が聞こえてくる。
「僕はカッコいいフィリスが好きだから気にしないよ」
『リンゴン♪』
「僕が好きなのはフィリスだけなのに、さっきから酷いこと言ってる自覚ある?」
いじけた声をどう捉えたらいいのか、フィリスは分からなかった。
「……みんなしてバカップルじゃない」
『リンゴン♪』
「三組とも大事な場面ですから」
『リンゴン♪』
「……独り身には辛いんだけど」
『リンゴン♪』
「カーラ様はきちんと学べば、侯爵家のお嬢様ですから独り身のままとはならないのでは」
「……鐘の音がしないんだけど」
「いちいち鳴るのも煩いので、終了しました」
じと目で見てくるカーラに、にっこり微笑みを返すフェリシア。
「それであの三人はどうするの?」
「ここまで色々皆に知られてしまったのですし、特に処罰は要らないのでは」
フェリシアがグレンに視線を向け、判断を仰ぐと、苦い顔をしている。
「このまま、か?」
「自業自得ではありますけれど、この状況では婚約も難しいでしょうし。そもそも貴族の交流も、ね」
「……フェリシアがそう言うなら、今回はそうするよーー次回はないけどね」
グレンはフェリシアから鍵を預り、バイロンの手枷を外した。
「思ったのですけど、今回の件で虚実の鐘はとても良い働きをしたと思います。
ただ」
ちらり、と三組の男女を見る。
「……まあ、間違ったことじゃないしね」
「ええ。と言うか、こちらの方が正しい使い方みたいですわ」
そう言って微笑むフェリシアが可愛くて、自然とグレンはその頬に口付けていた。
瞬時に真っ赤になったフェリシアに愛しさが増していく。
「あ、あの。グレン」
フェリシアが見上げると、満足げなグレンの笑顔があり、「ここにもバカップルがいる」とカーラの小さな声が聞こえたが、もうそれに返す余裕などなかった。




