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女神の趣味に付き合わされて  作者: 五月女ハギ
初恋のこじらせ方
30/52

正しい魔法の使い方[その5 ]

誤字を直しました。

ご指摘ありがとうございました。

 自分の婚約者が楽しげに笑っている間も、図体がデカいだけの見かけ倒しな公爵家令息を床に這いつくばらせている。


「さすがですわ。フィリス様」


 自分が守った少女ーーフェリシアが、顔を上気させながら胸の前でまるで祈るかのように手を握っている。


(え?なんで?)


 フィリスは状況を把握出来ないまま、しかしずっとバイロンを取り押さえている。そろそろ、何とかしないと。


「少しお待ち下さいませ」


 フェリシアはまた鞄から魔道具を取り出し、かちゃりと後ろ手につけた。

 単純な手枷に魔封じが施されているものだ。


(用意周到だわ)


 何かおかしい。

 フィリスの記憶の中では、フェリシアは儚くしかし優しいイメージなので、魔道具が次々出てくるなど、あり得ない。


 手枷がつけられ、逃亡しないと思い、フィリスはバイロンから離れた。


「ありがとうございます、フィリス様」


 なぜだろう、語尾にハートマークが見える。

 背が高く剣術を心得るフィリスは、たまに少女達から恋愛の情を向けられることがある。それに似ているのだ。


「あの、フェリシア。

 貴女はグレンの婚約者だよね?」

「はい、勿論」

『リンゴン♪』

「好きなのはグレンだよね?」

「はい、勿論」

『リンゴン♪』

「……」


 この流れの中で、なぜにっこりこちらを見るのか。

 いやしかし虚実の鐘は真実だと告げている。なのでフェリシアが好きなのはグレンで間違いない。ないのだが。


「……フェリシア。こっちへ」


 グレンがフェリシアを隣に呼んだ。

 フィリスが近かったし反応の差もあまりなかったのでバイロンをのしてしまったが、グレンもフェリシアのために動き出していた。

 ついカッコいい場面を奪ってしまったな、とフィリスは反省する。


「フィリスは相変わらずカッコいいね」


 婚約者がそう言うと、グレンの隣でフェリシアがくるりと半身を返し、口を開いた。


「オス○ル様よ、オス○ル様。素敵!!」


 しかし声はずいぶん奥から発せられた。


「あら、がっかりヒロイン様」

「誰ががっかりヒロインよ?」

「カーラ様に決まってますわ」

『リンゴン♪』

「……」


 虚実の鐘が肯定すると、周りが肩を震わせ、笑いを堪えた。


「そんなことより。貴女も分かってるんでしょ?」

「分かる前から、フィリス様はカッコいいと思ってましたわ。

 私も剣術を学びたいとお願いしたのですけど、父が猛反対で叶いませんでしたの」

『リンゴン♪』

「え?カッコいい?」

「はい。フィリス様は初めてお会いした時からカッコいいです」

『リンゴン♪』


 カッコいいと返されて、フィリスは呆然とした。

 自分だって女子なのだ。カッコいいはあまり誉めてないだろう。特に婚約者が言っている辺り。


「さて。まずは今回の件を片付けましょうか」


 フェリシアはローザとシンディーに振り返り、小首を傾げた。


「わ、私は何もっ。

 手紙だって書いたのは彼女で」

『ブッブー』『リンゴン♪』

「ちょっと!人のせいにしないでよ!」

「何もしていないに関しては否定の音が。手紙を書いたのはエイムズ子爵のご令嬢だと肯定の音がしましたわね」


 鳴った虚実の鐘の説明をし、フェリシアは腕を組む。


「まあ、この音がなくても皆様ご理解されてましたけど」

『リンゴン♪』


 周りで見ていた生徒達が肯定するざわめきがおこる。

 中には彼女達を中傷する言葉も少なからずあり、みるみるうちに彼女達の顔に怒りが表れた。


「……貴女のせいよ」

「何が、でしょう?」

「貴女が私達クラスメイトを蔑ろにするからよ!」

『ブッブー』

「蔑ろ、ですか?

 私がアレクシス様達に、クラスメイトを友人として紹介しないことだと仰るのなら当然です」

「当然?!」

「私を利用してアレクシス様達にすり寄ろうとする人達は友人ではありませんもの」

『リンゴン♪』


 息を飲む音が食堂のあちこちでした。

 フィリスが視線を向けると、どうやらフェリシアのクラスメイトか。

 フェリシアが、彼女達の思惑を分かっていたことに対して、不安そうな顔をしている。


 ローザは何か言おうとするが、フェリシアを睨みつけることしか出来なかった。


「それで言えば、シンディー様とはその様なこともなかったはずですが……

 それほどグレンに思いを寄せてらしたのですか?」

「そ、それは……」


 シンディーが顔を青ざめる。誰かに助けを求めてか、視線が揺れているが、誰も彼女を擁護しない。


「エイムズ子爵のご令嬢は、私を好きではないよ」

『リンゴン♪』

「彼女が好きなのは、今の自分よりも爵位をあげられる存在だからね」

『リンゴン♪』


 グレンが皮肉げに口角をあげる。なんだ知ってたの、とフィリスは肩を竦めた。


「なるほど。フェリシアとして手紙を書き、バイロンに思いを寄せていることにして、婚約解消を目論んだのか。

 ーー自分がグレンの相手になるために」

『リンゴン♪』

「バイロンはフェリシアに横恋慕して、手に入れようとした、ということだな」

『リンゴン♪』


 アレクシスが意地悪な笑みを浮かべている。


「グレンがシンディー嬢を好きになることはない」

『リンゴン♪』

「そんなこと、いくらアレクシス様でも分からないではないですか!」

「分かるから言っているんだよ?」


 にっこりと笑って、自分の婚約者は爆弾を投下した。


「王宮でのお茶会の令嬢側の控え室の会話は、全部僕たちに筒抜けだったから」

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