魔力と魔法の向上を[その2 ]
翌日からフェリシアは、水属性を伸ばすために庭に水をまき、無属性のために庭の隅に小さな結界を張ることになった。
一番魔力を伸ばしやすいということで、光属性の魔晶石作りに精を出すこととなった。攻撃魔法ではないので、何度か作って慣れるとまるで刺繍をするかのように、部屋の中でまたは庭で、どこででも作れるようになった。
「大分慣れてきたね」
リオンには光属性がなかったので、魔晶石の作り方はライナスから教わった。
その魔晶石は無属性の空間収納にしまっている。無属性の魔法はライナスではなく、リオンに教わっている。
小さな結界を張ってその上に座るという無意味な遊びを教えてくれたのも、リオンだ。
「伯父様。この質の魔晶石でも使い物になりますか?」
「簡単な魔道具に使うにはちょうどいいと思うよ。今度ジョナスが来たら聞いてみようか」
「はい」
嬉しそうに笑うフェリシアの頭を撫で、ライナスも笑った。
昨日リオンから見せられた水晶は、フェリシアの魔力がどれほど溢れているのかを示していた。属性もおまけみたいな一つを含め三つ使えるのはいいだろう。
「旦那様」
「どうした、ウォルト」
家令のウォルトが足早にやって来た。
「ファースの牧場で家畜の体調が芳しくありません」
「いつからだ」
「死亡例はないのですが、昼前からだそうです」
死亡例がないということは、緊急性が高くないのか。
ふいに、そこでフェリシアが視界に入った。
「フェリシア。これから家畜を診に行く。ついておいで」
「え?私もですか?」
ライナスは頷くとウォルトに馬車の用意をさせようと振り向く。
「すでに馬車は準備出来ております」
「リオンも連れていく」
「すでに伝えあります」
養父の代からの家令は仕事が早く、ライナスは戸惑うフェリシアの手を引くだけしかすることがすでになかった。
ファース牧場に着くと、リオンとフェリシアはライナスの後に着いて回った。
ライナスは牧場主と獣医から牛の様子を聞き、特に体調の悪い牛を診た。
「中毒症状が出ています」
獣医の発言にライナスは頷いた。
体調の悪い牛は数頭いるが、他の牛はいたって健康だそうだ。
「何か身体に悪いものでも食べたか?」
「今の時期は、外で牧草を食べていますが 」
「毒草でも混ざっていたか」
「おそらく」
ぼうっとして虚ろな目をしている牛が三頭。口元に吹いた泡がついている。
「取り敢えず、解毒してみよう」
ライナスはフェリシアに見ているように言うと、牛に手を当て魔法を発動させた。
微かに光に包まれた牛の目の焦点が、だんだんと合ってきた。
しばらくそのまま手を当てていると、目に光が宿る。
「もう大丈夫だろう。一応診てくれ」
「はい」
「フェリシア、見た通りにやってごらん」
「……はい」
解毒した方は獣医に任せ、ライナスは一頭フェリシアに任せてみた。
フェリシアが手を当てると、目を閉じて集中し始めた。
ライナスより鈍い光が牛を包み、次第にその光が澄んでいくと、牛の虚ろな目に光が宿る。フェリシアは不快な何かが牛に流れなくなるまで、そのまま手を当てていた。
「ふぅ」
フェリシアが手を離すと、ライナスが牛に手を当て状態を確認する。少し時間がかかったが、大丈夫そうだ。
「こっちも診てくれ」
「はい」
「フェリシア。まだ大丈夫ならもう一頭やってごらん」
「はい、伯父様」
獣医が二頭目を診て、フェリシアが牛の解毒を始めると、ライナスはリオンとこの牧場主ファースを向いた。
「ファース。どの辺りで食べていたのか、リオンを連れていけ」
「畏まりました」
「リオン。何が毒草か、きちんと見て覚えてくるように」
「はい、父上」
返事の後、すぐに出て行く二人を見送ってライナスはフェリシアを見守った。大分様になってきた。
ライナスは見逃してなかった。
フェリシアが解毒している最中、リオンは自分がその魔法を持ち合わせていないことを悔しく思っていた。表情にはかろうじて出していなかったので、及第点をやっていいだろう。
しかし、ライナスの跡を継ぎこの地を治めていくのならば、リオンは自分が出来ることを見極めて進まねばならない。出来ないものに拘って、時間も労力も無駄に割いてはならない時も、こないとは言えない。
まだ少年のリオンには辛いかもしれないが、何もかも出来てしまうというのは、必ずしもいいことでもないのだ。人を頼る、信頼することが土地を治めるには必要になる。
「ふぅ」
「まだ慣れないから仕方ないけど、呼吸は止めないようにね」
額に汗を浮かべるフェリシアに、苦笑した。
「こっちも診てくれ」
「畏まりました」
見れば大丈夫そうではあったが、獣医に任せる。
「フェリシア。私達も放牧地に行くよ」
「はい」
ライナスは小さな手を引いて、リオン達の元へ向かった。