正しい魔法の使い方[その4 ]
誤字を直しました。
ご指摘ありがとうございました。
意地悪な笑みを浮かべ、アレクシスが聞く。
「たかが手紙ごときで虚実の鐘とは大げさではないか?」
「アレクシス様。
私はグレンの婚約者ですのに、他の方と噂が流れるなど矜持が許せませんの」
バン、とテーブルを叩き立ち上がる。
「お慕いしている方がいるのに、他の方と噂が出るなど、貴族でも庶民であっても、一人の女子として許せないのですわ!!」
わぁ、と食堂内の女子が賛同するようにあちこちで頷く。一人の女子、という言葉が身分に関わらず支持を受けているみたいだった。
この瞬間、フェリシアは誤った噂に傷つけられたか弱い女子と周りに認識させることに成功した。
「なるほど。
ーーそれでは始めるか」
アレクシスがその流れを作る手伝いをしていたことに気付いた者は、ほんの僅かだった。
□ □ □ □ □
フェリシアがまず虚実の鐘を発動させた。
瞬間、食堂内が淡い光に照らされる。
『光を浴びた者達。彼らの言葉に、虚と実を知らす鐘を鳴らす。
気高き魂であらんことを』
光と共に声も消え、傍目には普段の食堂と変わらないだろう。
「では、手紙を……バイロン様にお願いしてよろしいでしょうか?
私が触れるのは避けなければなりませんから」
「……分かった」
バイロンは渋々手紙を残魔力測定機にかざす。
一通ずつ丁寧にーー全部で六通にもなったがーー全ての手紙で表れた魔力のみをフェリシアは空中に表示した。
「六通全ての手紙に残された魔力は、二種類。片方はバイロン様ですから、もう片方が私を騙った犯人のものです。
では、バイロン様の魔力を測定してください」
バイロンは測定機に手をかざす。
すると当然、先程全ての手紙から検出した魔力と一致した。
「これで特定出来ます。ご協力ありがとうございました」
フェリシアが満面の笑みで言い、残った魔力のデータを記録用の魔晶石に記録する。
「それだけでは、どなたのか分かりませんわ」
アーリンがそっとため息をつく。
それを受けて、フェリシアがデータを記録した魔晶石をかざす。
「これがあれば、皆さんが幼い頃にされたーー魔力測定の時のデータと合わせて人物の特定は可能ですわ」
魔力測定は、なにも魔力の質や量を測るためにあるのではない。
個人が特定されてしまうことに対する批判はあるが、これにより政治がらみの冤罪が激減したのも確かだ。
「これは後日、照らし合わせた結果を公表いたしましょう」
「それはちょっと、おかしくない?」
シンディーが声をあげた。
「貴女が自分に都合のいい嘘をでっち上げない保証がないわ」
周りの生徒達もシンディーに同意する囁きをしていて、食堂がざわざわとしばらくうるさくなる。
フェリシアはう~ん、と考えるように首を傾げたが、すぐに微笑む。
「では、それもここで解決出来るよう頑張りますわ」
食堂にいる人々が「ええ?!」とフェリシアを見る。頑張りますと言うだけで、方法を示していないのだから仕方がない。
「まず、バイロン様」
「なんだ?」
「貴方はこの手紙を書いた人をしっていますね?」
息を飲む音の後、食堂は水を打ったように静かになった。
「……ああ、知っている」
『リンゴン♪』
「フェリシアが書いたのだろう?」
「私ではありませんわ」
『リンゴン♪』
「私ではないこともご存じでしょう?」
「……」
「バイロン様?」
フェリシアは首を傾げて、バイロンの答えを促した。
静かに二人のやりとりを見ていた周りの生徒達が、ざわめき出した。
なぜ黙りこむのか、それはーー誰もが簡単に答えを導きだし、それゆえさらにざわめきを生んだ。
「お答えいただけないのでしょうか?」
忌々しげに舌打ちし、バイロンはフェリシアから視線をそらした。
それを肩を竦めて分かりやすく呆れたことを表し、フェリシアは視線をごく自然にローザとシンディーに向けた。
「ああ。お二人は仲が良かったのですね」
「ええ」
「存じ上げていますわ」
『リンゴン♪』『リンゴン♪』
食堂内の全員が虚実の鐘の影響を受けているので、こんな内容でも鐘が鳴る。
こんな変哲のない会話でも、わざわざ虚実を明らかにする。
「バイロン様とも?」
ローザとシンディーが、笑顔をひきつらせた。
フェリシアはまた首を傾げ、答えを待った。
「バイロンとも仲がいいのか。
それでは二人も手紙を書いた者を知っているのか?」
アレクシスの問に、二人は青ざめた。
王族からの問いかけに答えない訳にはいかない。
しかし、視線が定まらずに焦心が表れていた。
(アレクシス様も人が悪いなぁ)
バイロンと例えば仲が良くても、手紙を書いた者を知っているとは限らない。
しかし、今の聞き方ではその事に答えない訳にはいかなくなった。
それにしても。
(フェリシアは……鎌をかけたのかな?)
バイロンと二人が仲がいいなど、今の流れのどこにもない。
ないが、虚実の鐘がある。
わざわざ下調べしなくとも、この場で明らかになる。
「黙ると勘ぐられるよ?」
マシューもフェリシアの芝居に参加してみた。
先程から、近い間柄の者だけは分かっていたが、アレクシスが実に楽しそうにこの舞台に上がっている。
「では新たに……そうですね。
お二人にこのハンカチを持っていただいてもよろしいでしょうか?」
最早逃げ場はなかった。
フェリシアがこんな魔道具を持ち歩いていると誰も知らなかった。
多分うやむやなままフェリシアを責めるつもりだった二人と、フェリシアを手中に納めるつもりだったバイロンは、自分達の迂闊さに身動き取れなくなったのだろう。
「……お前は伯爵令嬢だ」
「ええ、そうです」
『リンゴン♪』
「伯爵令嬢ごときが」
バイロンがフェリシアとの距離をつめて胸ぐらを掴もうと伸ばした手は、その手首を掴まれ捻りあげられる。
その流れに逆らえず、バイロンは床に這いつくばった。
それでも言葉を止めない。
「伯爵令嬢ごときが、公爵の令息の俺に歯向かうだと?
俺が手元に置いてやると言っているんだ!今すぐこっちへ来い!!」
「いつまで令息なのですか!」
冷やかな眼差しは、静かな怒りの色が見えた。
「来年で卒業でしょう?
どんな爵位であっても、ずっと令息を名乗るなんてあり得ません!
貴方は何になるのですか?!」
「お、俺はっ」
「彼女の婚約者、グレンは跡継ぎだし財務省にだって入れるでしょ。頭も良いんだから。
ーーでも貴方は?今は令息だなんて言えるけど、それも学生の間だけよ。その先がないじゃない!」
「俺は公爵家の人間だぞ?!
それをこんな……」
「爵位を持ち出すのなら、きちんと義務を果たしなさい!
公爵家の名の元に、貴方がどれだけのことを成したと言うのですか!」
マシューは思わず笑ってしまった。
彼女がバイロンを床に這いつくばらせながらも振り返った。
「マシュー?」
「さすが見事だと思って。相変わらずだね、フィリス」
マシューはフェリシアを庇い、バイロンを押さえ込んでいる自分の婚約者の名を呼んだ。




