正しい魔法の使い方[その1 ]
誤字を直しました。
ご指摘ありがとうございました。
珍しく不機嫌さを隠そうともしていないグレンが、公爵家の令息を睨んでいる。
(うん、まあ仕方がないけどね)
先程から、わざとグレンに見せびらかすように手紙を振りかざしているのはアボット公爵家の五男バイロンだ。
最近の貴族には珍しい五男なのは、公爵夫人がどうしても娘が欲しいと頑張ったかららしい。
長男は跡継ぎ、次男は近衛師団、三男は文官、四男はこの学校の教師だ。
長男と次男はそれなり。三男はギリギリ文官に入り込み、四男は研究者になれるほど学はないし文官が務まるほどコミュニケーション能力がなかった。
しかし教師としては程よく、アボット公爵としては学校が設立されて有りがたかったことだろう。
そんな中、五男の良いところなしが声高に自慢している。
なんでも「俺のフェリシアから手紙がきた」とのことだ。
「あれとフェリシアって知り合い?」
「……聞いたこともないね」
クラスメイト達はグレンの様子に関わらないよう、バイロンから距離をとる。
何をどう考えても、バイロンとグレンならどちらにつくかなど明白だった。
「ああ、そうだ」
何を思ったのか、バイロンがニヤリと笑い、こちらにーーグレンに近づいてきた。
「仲良くしてくれているみたいだが、ほどほどにしといてくれよ。
ーー俺のフェリシアだから」
フェリシアからだという手紙でグレンの側頭部をはたく。
(こいつ馬鹿なのっ?)
思わず叫びそうになるほどグレンの視線は鋭く、マシューでさえ思わず視線を反らした。
□ □ □ □ □
最近恒例になったお茶会は、相変わらず食堂の一角で行っていた。
アレクシスとヴィンセント用に小ぶりなパン類と、他の人用にスイーツが用意されている。
週に二~三回と頻度が高めなのは、女性陣がフェリシアに胃袋を掴まれたのが大きな理由だ。
「今日は空豆とベーコンのパイとパウンドケーキです。
パウンドケーキには、ドライフルーツとナッツが入ってます」
「……お酒の香りがするわ」
「一度ドライフルーツを漬けているんです。焼いてますし、強くないので大丈夫ですよ」
すでに一切れずつ切り分けられていて、フェリシアは各人の前に取り分けていく。
その様子はいつもと変わりない、とみんなが安心しているのに気付き、マシューはあの馬鹿があちこちで言い回っていることを苦々しく思った。
「フェリシアも変な人と知り合いだよね」
思わず出た本音に、フェリシアが首を捻る。
「私の知っている変な人は、先日の彼女だけですわ」
給仕が済むと、迷いなくグレンの隣に座る。
みんなが一挙手一投足を見ているのに気付いたのか、眉間に皺を刻む。
「なんだか皆様、様子がおかしいです」
少し訝しむように辺りを窺う。
食堂なので周りに他の学生達もいるが、彼らも窺うようにこちらを見ていたので、ますます表情が曇る。
「……フェリシアはアボット公爵家と仲が良いのか?」
単刀直入に切り出したのはアレクシスだった。隣でアーリンが息を飲んだ。
(聞くにしても聞き方があるよ、アレクシス様)
マシューがどうフォローしようかと思っていると、フェリシアが「アボット公爵家?」と首を傾げる。
「仲良くしてくださってる公爵家は、アーリン様のスノー公爵家だけですわ」
「いや、あのアボット公爵家だ」
「あの、と仰られましても……」
フェリシアが眉間に刻む皺を深くしただけだ。
「バイロン・アボットだよ。
……どこで知り合ったの?」
グレンが口を挟むと、やっぱり首を傾げる。
「……私達の同級生だよ」
「グレンと同い年のなのは貴族年鑑で知ってはおりますけれど、面識はありません」
一緒にお茶をしているメンバーだけではなく、周りも驚いている。
「いや、フェリシア。
あのアボット公爵家の五男バイロンだ」
「……はあ」
しかし全く思い浮かばないらしい。
あまりにも不思議がるので、一時的にマシューは話題を変えることにした。
「クラスメイトとは上手くいっている?」
「彼女の一件もありましたから、今はまだ。でもなんとか」
笑顔を見せるフェリシアに、まだ誰も気付くことが出来なかった。




