ゲームの始まり[その5 ]
誤字を直しました。
ご指摘ありがとうございました。
「どれだけかかったと思ってるの?!二年よ、二年!!」
肩で息をするカーラを冷めた目で見ているのはマシューとグレンだ。
カーラがかかったと言う時間は、彼らにとっては地獄の時間であるのだ。
「カーラ嬢。二年でアレクシス様とこのように話せるようになって、良かったではないですか」
グレンが上辺だけ笑みを浮かべる。
「二年?それほど気にする必要もなかっただろう。
二人きりで、となると問題があるが、な。学生同士、話すくらい構わない」
すっかりいつものアレクシスに戻っている。
隣のアーリンが涙目なのを見て、小さく「どうした」と囁くように聞き、そっと手を握っている。
ふんわりと笑みになり、「いいえ、なんでもありません」と答えたアーリンは、多分自覚していないが幸せオーラ全開だ。
(二年も駄目だったから、つい使ったのかしら?)
魅了の魔法が禁じられているのは、幼子でも知っている常識だ。
ただ、今回のものはあまりにも弱い効果のものなので、術者のレベルが低いのか、禁止されてる品物ゆえの粗悪なアイテムかーーそこまで考えて、カーラから漂う変に甘い香にはっとした。
(香で魅了するアイテム……香水?)
正直、臭いなぁとしか思わなかった。
(ああ、なんてこと)
二年も駄目にした上に、禁止魔法を使いーー例えアイテムだとしてもーー何の結果も出せていない。
フェリシアは、カーラに狙われた人々とその婚約者と仲がいい方だし、実際グレンは婚約者なのでこんなこと思うのは間違っている、とは思う。
しかし、それでも。
つまりカーラは。
「がっかりヒロインなんですね」
「……え?」
思わず呟いたフェリシアに、カーラがフリーズした。
そして、まるで機械仕掛けのーーかなり錆び付いたーー人形のように、きしんだ音がしそうなほど人間として不自然な動きで視線を定め、フェリシアに向かい一歩二歩と近付いてきた。
(思わずうっかり声に出てしまいましたっ)
だって本当にがっかりヒロインなんだもの、とフェリシアは首を左右に振る。私が悪いんじゃない、と。
「なんでこの世界のあんたが、がっかりヒロインなんて単語を知ってるのよ?!
あんたも転生者なの?そうなんでしょ?何とか言いなさいよっ!!」
(がっかりヒロインを否定しないって……え?本当にヒロイン?)
茫然と怒鳴るカーラを見ていると、グレンがフェリシアを背に庇うように二人の間に入った。
「邪魔しないでよ!がっかりヒロインなんて言われて、我慢しろっていうの?!」
「でも結局、一人相撲だった訳ですし。がっかりヒロインではないですか」
グレンに守られながらも、フェリシアは言い切った。
それはカーラに対してだけではない。女神に会うと言われていた自分に対する結論でもある。
ライバルなんて言われていたから、色々頑張ってきたのだ。中の上と言われた能力値では、必ず高い壁にぶつかる。それでも諦めずに頑張ってきたのだ。
全てはグレンの隣にいるために。
まさかその相手ががっかりヒロインだなんて、と今までしてきた努力が虚しくなっても仕方がない。
(ああ、ヒロインだけではなく、女神そのものががっかりさんでしたね……)
最終的にこの世界の女神ががっかりなんだ、という結論になった。確かに初対面で土下座していたあれは、まごうことなくがっかりさんだった。
「これ以上詳しく話すのなら、場所を移動しないと……」
「……研究室に?」
「まさか!
こんな大声と奇声が私の部屋からしたとあったら、恥ずかしさで死ねます!」
「……フェリシアは正直者な分、容赦がないよね」
握り拳を作って力説するフェリシアに、ため息混じりなマシューのツッコミが入った。
□ □ □ □ □
場所は、アレクシスが滞在している王族専用に作られた寮と言う名の建物に移った。
他国からの身分の高い留学生を受け入れる為にも使う予定なので、アレクシスが使い心地を試している状況だ。
「それでがっかりヒロインとはなんだ?」
真面目くさった顔でアレクシスがフェリシアを見る。
カーラがしたことの現状を知らせ、最近の記憶が曖昧なアレクシスがアーリンに、ヴィンセントがベリンダに謝罪をしてからようやくだ。
「私はヒロインだけど、がっかりヒロインじゃない!」
「……二年も掛けて何にも出来なかったのに」
バッサリ言い切ると、カーラが睨んできた。
(がっかりヒロインなんて怖くない……とは言い切れませんけど)
奇行が怖いので、カーラのことは本当に怖い。
「だって女神と約束したのよ?
実際に乙女ゲーみたいなことしたいって言ったら、こっちの世界に来てみる?って」
「……ヒロインとして?」
「過干渉が禁止されてるから、シナリオは作れないって言ってたけどね。
代わりに能力値を上ってして貰って、あとは人に好かれやすい……まあ魅力度が高めってくらいかな?
ああ。異世界転生の記憶があるのもそうね」
カーラの発言に、七人は茫然とし、それからフェリシアに視線を向けた。
何故あまり驚かずに会話をしているのか。ふぅん、と頷いている。
「……ちょっと待って。
能力値が上?」
マシューがあれ?と首を捻る。
フェリシアは学年が違うので分からないのだが、他の六人も疑問を感じているようだ。
「カーラ嬢は、成績そんなに良くなかっただろう?」
「やれば出来るの!」
「やってない時点で能力値の意味がありませんわ」
フェリシアが哀れんだ視線をカーラに向ける。
「猫に小判、豚に真珠、馬の耳に念仏」
「うっ」
ガックリと項垂れたカーラを満足そうに見ている。
男性陣が若干ひいているが、フェリシアは気付いていない。
なので更に続ける。
「ゲームではなくて現実だと御理解いただけましたか?」
「……うん」
「カーラ様は侯爵令嬢です。貴族としての知識を最低限身に付けませんと、最悪の場合、お家取り潰しになる可能性も……」
「取り潰しっ?!」
「今の暮らしは侯爵家だからこそ、ですわ。
平民になって、前世の記憶があるからといって、どうにかなるとお考えですか?」
「……ならない、かなぁ」
「カーラ様のせいでご家族にまで迷惑をかけれない、というところまでは御理解いただけましたね?」
フェリシアがにっこりと笑顔で聞く。
カーラは顔がひきつっている。
「で、でもさ。能力値高いんだから、やれば出来るよ!大丈夫」
「やれば出来る、ではなくて。きちんとやってくださいね。
……まあ、私は家族でも友人でもない、赤の他人ですので。忠告までしか致しません」
「ちょっ。そんな、見捨てないでよ!」
「すでに禁じられているアイテムをお使いになってますし。
魅了の効果がある香水は二度とお使いにならないでください」
「え?高かったのに。向こうのフェロモンがどうとかいう、あれと一緒でしょ」
「こちらの世界では、あんなバッタもんとは違って効果があるんです。
だからこそ、人の心を操る、魅了の効果があるものはダメなんです。
爵位、没収されますわよ?」
とうとうカーラが周りに助けを求める視線を送った。
しかし、フェリシアの言うことは正しいので、とりなしようがない。
「カーラ嬢って変わり者だけど、貴族のマナーも、最低限必要な知識もないんだね」
「ええっ?!そんなことないですよ!」
「……いや、禁止魔法の魅了をアイテムとはいえ使ったのだから駄目だろう」
アレクシスがため息をついた。
「今回の件は不問にしてやる。しかし、次はない。
やれば出来る、のだろう?きちんと致せ」
「ううううう。もう、分かったよぉ」
カーラ以外の者は、王族にそんな対応すること自体が駄目なのだと、ため息をつく。
しかし、ひとまず問題は解決した、と思ったらマシューがにっこり笑顔で釘をさした。
「あ、カーラ嬢。
私達には、もう近づかないでね」
「は?」
「接触してきたら……手段はえらばないかもね」
微笑んでいるのに漂う威圧感に、カーラは頷くよりほかになかった。
こうして、取り敢えず幕は閉じたのだった。




