ゲームの始まり[その4 ]
誤字を直しました。
ご指摘ありがとうございました。
自分達が出来ていた対策が、何故アレクシスとヴィンセントには効かなかったのか。
考えるまでもなく、答えは単純だった。
「あの二人、甘いものが駄目だったよね」
「甘くない御菓子にしますか?」
今日のおやつはアップルパイだ。バニラアイスがないのはちょっと残念だとフェリシアは思う。
「甘くない御菓子?」
「お煎餅とか。串団子の……磯辺団子とかポテトチップスとか」
フェリシアは色々考えてはいるが、元々甘いものが好きなので甘くないスイーツがなかなか思い浮かばない。
しかも、レパートリーがない。
「軽食でもいいと思うよ?」
「サンドイッチや調理パンですね。ーーそれなら色々出来そう」
今日は甘いアップルパイだったが、パイだって甘くないーー例えばミートパイなどがあるのだ。
「じゃあ、明日からお茶を一緒にするってことで……一緒にね。はぁ」
「そんなに嫌がらなくても」
フェリシアの苦笑に二人は力なく首を振る。
「この二年間、どれだけ地獄だったか」
「……そうだよね。フェリシアはまだ昨日今日だからそんな事が言えるんだよ」
「え?いえ、あの……スミマセン」
確かにあれが二年間は……辛すぎる。
しかし。明日からはカーラも含めてみんなでお茶をしてーーアレクシスとヴィンセントにも、祝福と解除の効果のあるものをとってもらう予定だ。
(二年……それにしては、攻略が進んでいないんじゃないかしら?)
アレクシスとヴィンセントは覇気がなくカーラの側にいるのだが、だからと言って愛を語らうこともない。
何か贈り物をしていることはないらしい。
(二人の攻略がまだなのに、グレンとマシュー様にもしつこいのは……あの猫なで声からして逆ハー狙いだわ)
許せない、と思わず拳を作ってしまう。
では誰か一人だけならいいのかと言うと、全員婚約者がいるので勿論駄目だ。
「本当は、王宮で状態異常を解除した方が早いんですけど」
「それだとアレクシス様に傷がつくからね」
「なるべく穏便に済ませたいんだよね」
このことは、国王や重鎮には知られないまま済ませたい、というのご二人の希望だった。
アレクシスが国王となった時にあれこれ難癖をつけられる隙を、減らしたいのだとか。
最悪、フェリシアが全力で魔法を使うことで食い止めるとグレンとは話し合っていた。
魔力測定の時に低い値が出たので、今も魔力が低いふりをしているーー高いのがバレると厄介なことに巻き込まれるとジョナスが心配するので。
マシューにも知らせていないので、出来ればこの手は使いたくない。
「取り敢えず、明日からが勝負ですわね」
フェリシアは、早速仕込みにかかるのだった。
□ □ □ □ □
初日こそフェリシアがいることを警戒したカーラだが、一週間を過ぎるとまるでお茶する時の侍女かのように気にもとめなくなっていた。
(私がいるとはいえ、グレンとマシュー様と一緒に過ごせるのは彼女にとって好ましい状況なのでしょうね)
あんまりにもグレンの腕にない胸を押し当てるのは、腹立たしいがここは我慢だ。胸なら私の方がちゃんとある、と訳のわからない対抗心を燃やすフェリシアは、しかしきちんとお茶や軽食を準備している。
お茶を煎れる度に、アレクシスとヴィンセントのものには祝福をかける。
場所は迷ったが、食堂の一角を借りることにした。他の人にも見せるためにも、個室ではない方がいいと判断したからだ。
(今日で十日目。そろそろなんとかしないと)
四人がカーラに首ったけなどと言う迷惑な噂が出始めている。
(事情を知っている私はともかく、三人の婚約者は嫉妬するでしょうし……)
マシューの婚約者は留学中だが、アレクシスとヴィンセントの婚約者はこの学校に通っている上に、同学年だ。
(あら?あれは……)
三人の令嬢がやって来る。
アレクシスの婚約者アーリンとヴィンセントの婚約者ベリンダ、二人と親しいカミラ。
確実にここに向かっている。
「アレクシス様。少しよろしいでしょうか」
アーリンの声と表情は固い。
そんな彼女を見て、カーラは嘲笑するかのように言う。
「アレクシス様は今、私と……」
「アーリンか。
お前もお茶をするか?」
しかしそんなカーラの言葉を遮り、アレクシスが席を勧めようとして……自分の隣がカーラだと気付いた。
それはアレクシスだけではない。
「カーラ嬢、一つずれてくれ」
ヴィンセントが横に一つずれながら言うと、カーラの顔がひきつった。
(アレクシス様とヴィンセント様の間で、前にはマシュー様。マシュー様の横にグレンがいたけど。
ずれてくれ、って……?)
新たな三人にお茶を煎れ、一ヶ所からでは取りづらいだろうと、軽食を二ヶ所に変更する。
カーラは嫌々ながらも席をずれていた。
「どうした、アーリン?座らないのか?」
「……あの、隣でよろしいのでしょうか?」
「変なことを言う」
アレクシスは、ちょっと意地悪に見えるいつもの笑みを浮かべる。
「お前は俺の婚約者なのだから、隣に座るのが当たり前だろう」
「!」
素知らぬ顔でフェリシアは三人の前にお茶を置こうとして、ベリンダがヴィンセントの隣ではないことに気付いた。
「ベリンダ様はあちらでは?」
「そうだな。何故そっちに行ったんだよ」
「!」
二人の婚約者とカーラだけではない。周りの学生達も息を飲んだ。
(苦節十日。成果が出た?)
ウキウキする気持ちを悟られないように、表情を引き締める。
グレンのお茶がなくなりそうだと気付いたので、側に寄ると手からポットを奪われ、抱き締められた。
(え?ええ?)
硬直していると、マシューがため息をつく。
「だからさ。もうバカップルみたいじゃなくて、バカップルそのものだよ」
「……ちょっと嬉しくて」
「僕も嬉しいけどね」
「……明日は甘いものでもいいですね」
「うん。ただその前に、フェリシアも離れようよ」
グレンとフェリシアが離れると、生暖かい眼差しをアレクシスとヴィンセントから送られていたのに気付いた。
その隣のアーリンとベリンダは、婚約者の表情を窺い見ている。
(学校に来てから、二人に表情があるの、初めてかも)
出来れば魔法できちんと解除したい。研究室なら問題ないのだけれど。
これからのことをあれこれ考えていると、唸るような低い声がした。
「……ざけんじゃないわよ」
「え?」
「ふざけんじゃないわよ、あんた達!」
バン、とテーブルを叩きつけカーラが立ち上がった。




