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女神の趣味に付き合わされて  作者: 五月女ハギ
プロローグよりも前に
18/52

婚約した日

 ジョナスとグレンの話し合いの結果、互いのタウンハウスで顔見せをしてそのまま婚約することになった。

 先日はアッシャー伯爵家で会い、今日はブロウズ伯爵家で会うことになっていたがーータウンハウスから空間移動でカントリーハウスにまで来ている。補助の魔方陣を配置しているので、それほど魔力は消費しない。


「さすが宮廷魔術師団ですね」


 グレンの父、グレゴリーはジョナスに感嘆していた。


「タウンハウスではフェリシアの様子が分かりにくいですからね」

「こちらで生活をしているのかい?」

「ええ。息子のローレンスが領地運営をしているので、毎日帰って来てます」

「アッシャー伯爵、お久し振りです」


 扉が開き、ローレンスがグレゴリーに挨拶する。


「ローレンス、フェリシアは?」

「まだあそこに。確か予定ではあと一時間ありますよね?」


 あと一時間と聞き、グレゴリーが眉を寄せた。約束の時間通りに来たのだが、まるで早かったかのような言い方だ。


「それは丁度いい。

 グレゴリー様、グレン。フェリシアの普段の姿を知って下さい。それを受け入れられなければーー今回の話はなかったことにして下さい」


 何があるのか?

 グレゴリーとグレンは顔を見合せ、頷いた。




 □ □ □ □ □




「静かに」


 ジョナスは言うと、こっそりと扉を開けた。部屋にはフェリシアがいてーーエプロンをしている。


(エプロン?)


 鼻歌を歌いながらオーブンを開け、鉄板を取りだし数枚敷かれた鍋敷きの上に乗せ、確認している。


「これとこれはちょっと焦げてるから外して、と。残りは大丈夫」


 皿に並べているのはクッキーだった。今取り出した以外の種類もあるということは、他にも作ったのだろう。


(作ったーーえ、誰が?)


「あ。そろそろ着替えないと」


 エプロンの紐をほどきながら振り返ったフェリシアは、そこにアッシャー伯爵親子を見て、そのまま茫然と固まった。




 □ □ □ □ □




「お父様、酷いです」


 上目遣いに拗ねられて、ジョナスは「可愛いね」とまるで気にせず笑っている。


「フェリシアが料理をするとは知らなかったよ」


 グレゴリーの言葉にフェリシアは困ったように曖昧な笑みを返した。

 料理は貴族の娘がすることではない。非難されて婚約にいたらないかも、と覚悟をした。


「財務大臣でしたら噂が耳に入っていると思うのですが。

 ブロウズ伯爵領とデイトン伯爵領の最近の話ですが」

「目新しい調味料と料理の話かな?」

「はい」


 ローレンスはにっこり微笑む。グレゴリーはそれだけでおおよそを察した。


「フェリシアがレシピを?」

「何かで見たりしたことがあると思うのですけど……どこでかは分からなくて」

「自分で作ったレシピではない?」

「はい。どこかで見聞きしたものです」


 ふむ、とグレゴリーは腕を組んだ。フェリシアがびくびくとグレゴリーの反応を気にしているのは分かっているが、少し考えたかった。

 料理をするくらい別に構わない。グレゴリーはそういった貴族の矜持に拘りはない。


「このことを知っているのは?」

「ブロウズ家とデイトン家、またその使用人と、バーシェス商会のカイルさんですね」

「バーシェス商会?」

「調味料の製造・販売に関わっています」

「カイルは私とライナスの友人で、以前から色々領地運営に協力して貰ってます」


 バーシェス商会かここ二十数年で頭角を表した商会だ。その背景にブロウズ伯爵とデイトン伯爵があったのか、と納得した。


「さて、フェリシア」

「はいっ」

「私は貴族の令嬢が料理しても構わない。ただ、このことは表に出さない方がいい」

「当家でもそのつもりです。

 あと、フェリシアは光属性がありますーー質のいい魔晶石が作れるのも、一部の人間しか知りません」

「賢明な判断だ。まだ小さい子どもだ。誘拐の危険性がある」

「大人になったらなったで、綺麗で可愛いフェリシアを拐おうと言う不届き者が出るかもしれないけどね」


 真面目な顔をして頷くジョナスに視線を向け、グレゴリーは軽く額に手をあてた。ローレンスはすまなそうな顔をしたので、大人の話は彼としよう、とグレゴリーは内心思った。


「それで婚約ですが。このままするのか、なかったことにするのか。

 当家はアッシャー伯爵家の決定に従います」


 ローレンスにグレゴリーは顔をしかめる。


「この話を聞いたからと言って、断るつもりはないよ」


 フェリシアがほう、と息を吐き出し、グレンと目が合うと互いに微笑んだ。

 それを視線でローレンスに伝えると、困ったように苦笑した。


「二人がこれでは、選択肢がないですね」

「君の手腕も聞いているよ。すでに婚約者もいるようだから、煩わしい令嬢からのアプローチに気を使う必要もないとは羨ましい」

「お褒めに与り光栄です」

「アッシャー家の領地はここからだいぶ距離があるのが残念だな」


 グレゴリーはローレンスを高く評価した。

 まだ十六歳とは思えない。

 子ども同士も相思相愛の上、息子の義理の兄が優秀なのは僥倖だ。

 フェリシアの不器用さも、グレゴリーには微笑ましい。

 唯一問題点があるとすればオールポート伯爵家だが、廃嫡した家がゴタゴタ言い出したらガツンと痛い目に合わせればいい。


「さて、正式に婚約をしようではないか」


 これ程気分が高揚するのはいつぶりか。

 グレゴリーは心から笑わずにはいられなかった。

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