再会からの始まり[その4 ]
誤字を直しました。
ご指摘ありがとうございました。
グレンやマシューの真似をしてマナーを破らないようにと頑張るフェリシアに気付いた二人が、分かりやすいようにとゆっくりとした仕草を心掛けた。
二人の気遣いに気付いたフェリシアは顔を赤らめながら、小さく「ありがとうございます」と感謝を伝えるとにっこり微笑まれた。
ヴィンセントの話は武術一辺倒ではあったが、習ったことも見たこともないフェリシアには新鮮で、ワクワクしながら聞いていた。
いい雰囲気で、でもそろそろお茶会もお開きの時間かというところで、隣のテーブルから全体に聞こえるような大きな声で問い掛けられた。
「そういえばオールポート伯爵令嬢。あ、今はブロウズ伯爵令嬢でしたね?
貴女のような魔力のない方が、何故宮廷魔術師団のブロウズ伯爵家に行かれたのかしら?」
フェリシアは彼女がどこの令嬢なのか、爵位も名前も分からなかった。
ただ、マシューはあからさまに顔をしかめているので、侯爵以下なのだろう。
「私はフェリシアと申します。
ブロウズ伯爵家には、兄が跡継ぎとして養子縁組を。その流れで私も、です」
「ああ、それで。貴族とは思えぬ程魔力がないのにおかしいと思いましたの。Dランクとか」
彼女の発言に、回りはフェリシアを笑っている。Sが最上級で、大抵の貴族はB~Cランクだ。Dランクはほぼ魔法が使えない。
魔力と魔法については、カイルからきつく言われていることがある。
空間収納を人に見せないこと。更に魔力が高いことは隠すこと。
空間収納にごろごろと魔晶石を積んでいたのだが、その質と数が問題だと言う。
光属性以外の魔法封じの道具を使い、フェリシアを誘拐・監禁して、魔晶石で一儲けを企む輩が出てくるはずだ、と。
「フェリシアなら大人一人で易々と拐えるからな。一人になるなよ」と、きつく何度も言われている。
なので、このように笑われても実際の魔力を明かしたりしない。約束したのだから。
「なくても良いと言われてますので」
フェリシアはにっこり微笑み、カップに残っていた紅茶を口にする。
「なっ……」
「確かにジョナス・ブロウズはフェリシアを溺愛しているようだったな」
アレクシスが先程を思い出し告げる。グレンも「そうですね」と頷いた。
「僕は名乗り返さない不作法者の方が魔力の優劣よりも、問題があると思いますけどね」
マシューは視線を向けることなく言い、ため息をついた。
「私もまだ作法を知りませんから」
「フェリシアは今回が初めてみたいなものだからね。初めての者と同等かそれ以下なんて、貴族として恥ずかしくないのかな」
静かに怒るマシューに、先程フェリシアを笑った子息令嬢達は視線を反らした。
彼らは青ざめているが、フェリシアに話しかけた令嬢は青を通り越して血の気が引き白くなり、体が震えている。
「今日はそれくらいにしておいて、マシュー」
「そうだね。次回がない人がいるかもしれないしね」
何故かマシューの言葉にフェリシアの顔が青ざめる。助けてくれているのは分かるのだが、この場の緊張感が怖い。
「マシュー?」
「冗談だよ。フェリシア、そんなに怖がらないで」
「……冗談、ですか?」
「うん。今はね」
フェリシアがちらりとグレンに助けを求めるように視線を送る。
グレンが大丈夫というように頷くと、ほっと息を吐いた。
「今日はこれまでにしよう」
アレクシスはお茶会の終わりを告げる。青ざめていた子息令嬢達はそそくさと逃げるように帰っていく。
そんな中、アーリンがフェリシアの前に来た。
「あの者達も不作法ですけど、貴女にも問題がありますわ」
「問題、ですか?」
帰ろうと席を立ち上がったフェリシアは、突然の言葉に瞬きをする。
「貴女のテーブルが、殿下の将来の側近と言われる方ばかりだもの」
「俺がそういう席次にしたからな」
「まあ」
アーリンはわざとらしく驚く。グレンとマシューはその芝居がかった態度に辟易した。
「あなた方の寵を独り占めすれば、敵愾心を燃やす者も多いでしょう。将来有望な方々ですもの」
「独り占めなんて……」
「次期国王とその側近に愛想を振り撒く女に、厳しいアタリがあるのは当たり前ですわ。
ーー王妃でも狙っているのではないか、と勘繰る人を責めれないでしょう」
王妃を狙っていると言われ、フェリシアは咄嗟に首を左右に何度も振る。更には顔色まで悪くなり、アーリンが少し驚いた表情を見せた。
「王妃だなんて、そんな……」
「伯爵令嬢でしたら王妃になれますのよ?」
「私にはとても……」
胸の前で手を握り、しきりに首を振るフェリシアに、アーリンはため息をついた。全く狙っていないのが伝わり、ちょっと鎌をかけたつもりが震えさせてしまったので、ばつが悪い。
しかし。
「殿下狙いではないとなると、誰かしら」
「狙うとかそういうことは……。それにまだ五歳ですから」
「皆様、すでに将来の伴侶を考えて行動しておりますのよ」
ええ?、とフェリシアが茫然としていると、アレクシスが二人の間に入った。
「フェリシアは今日のお茶会を知らなかったのだから、仕方がない」
「知らなかった?お茶会に参加しているのにですか?」
「前回のことを謝罪したく、私達がブロウズ伯爵に頼んだのです」
「そうでしたか」
その時、軽い声がかかる。
「お茶会はどうだった?」
すでにお茶会が終わっているのを知っているらしいジョナスが、入り口から入ってきてーー表情をなくした。
今にもフェリシアが泣き出しそうな上、顔色が真っ白だ。
ゆっくりとアレクシスに向きなおす。
「何がありましたか」
すでに質問ではないトーンに、しかし答えたのはアーリンだった。
「彼女のテーブルは殿下の将来の側近ばかりで、その上、楽しげな声が響きましたから、令嬢達から嫉妬されましたの。
伯爵家は王妃も狙えますから、嫌味を言われたのですわ」
「それはそれは。ウチは娘を権力者に渡さなくてもやっていけますから、どうぞご心配なく」
ジョナスは言いながらフェリシアの頭を撫でた。フェリシアはぎゅっと抱きついた。
「皆様、すでに伴侶をお探しみたいで」
「伴侶?フェリシアにはまだまだ早いよ。五歳だからね」
「何をおっしゃいますの。すでに婚約をしている方もいらっしゃいます」
「まだ五歳ですよ。相手も似た年齢では、当たり外れが分かりませんからね。そんな賭けしませんよ」
バッサリ言い切るジョナスに、アーリンはわざとらしいため息をついた。
「あなた方お二人がそうおっしゃっても、周りがそういった行動をしておりますからね。面白くない令嬢達も多いでしょう」
「ホント貴族って面倒くさいよね。
……虫除けも兼ねて、誰かに仮りの婚約者をやってもらう?令嬢の嫌味や嫌がらせって、質が悪いからね」
「仮りではなくて、立候補してよろしいですか?」
言ったのがグレンだとジョナスは仏頂面になる。抱きついているフェリシアの顔が真っ赤に染まった。
その様子にアーリンはあらあら、と苦笑する。すでに一人に絞られていたのかと。
「フェリシア。お父さんはちょっとグレン君とお話があるから、あっちに行ってなさい」
「……はい」
有無を言わせない迫力に、フェリシアは頷き少し離れた薔薇の植え込みの方へ向かった。
さて、とジョナスはグレンを睨み、グレンは一歩も引かずに見上げる。
仮りでも自分以外の誰かに婚約者を名乗らせるつもりはない。
「君の独断でアッシャー伯爵家との婚約なんて決められないでしょ」
「父にはきちんと説明します」
「大体、まだ二度しか会ってないよね?」
「今日は沢山話しましたし、私の意志は固いです。
信じていただけないのなら、私が父に言って父から打診が来るだけです」
このガキ、とジョナスが睨んでもグレンは引かない。フェリシアはいい子だから惚れるのは仕方がないと考えているジョナスは、やっぱり親バカだ。
「正式な婚約はまだ早いよ」
「正式な婚約者がいらっしゃらないと、彼女が嫌がらせを受けましてよ」
アーリンの追撃に、ジョナスは顔をしかめる。
それは困る。何しろフェリシアは実母と異母姉のせいで、女性不信だ。更に実父も加わり人見知りだと思っていたが、ローレンスがいうには単に人に会わない生活を強いられていたせいだろうとのことだ。
それがこれから人付き合いを始めるのに、嫌がらせを受けるのはフェリシアにとってマイナスだ。
「……ローレンスにも確認しないと」
「是非お願いします」
爽やかないい笑顔でグレンが頭を下げ、ますます憎たらしい。
「君がフェリシアを守りきれなかったら、さっさと破談にするからね」
苦々しい気持ちでジョナスは最後に付け足し、両家の顔合わせなど今後のことを具体的に話始めた。




