出会いと転機と[その4 ]
ジョナスにブロウズ家のタウンハウスに飛ばされ、その後フェリシアはローレンスの部屋に戻ってきた。
「おかえり、フェリシア」
「あの、お兄様……」
フェリシアはまだ理解しきれていない話をなんとか説明し、ローレンスを伺い見た。
デイトン伯爵家に行ったはずなのに、なぜかブロウズ伯爵家との養子縁組の話が持ち上がったのだ。
「……取り敢えず、口添えと口利きは良かった」
その時ノックされた。
「入れ」
「失礼します」
先程の二人の侍女と家令がいた。
扉が閉まったのを確認して、ローレンスは家令に聞いた。
「……何人だ?」
「八人です。名前はこちらに」
家令したらリストを貰い確認すると、ライナスの「二人が信頼する者」という条件はクリア出来ている。
「先程デイトン伯爵家のライナス伯父に口添えと口利きの打診をした。
……この使用人なら、伯父の出した条件も大丈夫そうだ。明日出立前に渡すから、ここに皆来てくれ」
「畏まりました」
「今夜はもうこことフェリシアのところはいいよ」
これから出掛けるので、誰も来ない方が都合がいい。
ローレンスは三人を送り出し、鍵をかける。
「フェリシア、そのブロウズ伯爵家へ行こう」
「はい」
フェリシアがぎゅっと抱きついてきたので、受けとめる。呪文が唱え終わったのか、浮遊感にフェリシアを抱きしめる手に力が入る。
光に目を伏せ、眩しさが消えたので目を開けると、部屋の中に人がいた。
「……フェリシアが甘えてる」
その人物が何かを呟いた。茫然としているようだ。
「フェリシア、こちらが?」
「はい。ブロウズ伯爵のジョナスおじ様です」
「フェリシアに色々教えてくださり、ありがとうございます」
「え?ああ、うん。
フェリシアから聞いたと思うけど、良かったらウチに養子にこない?」
「……ブロウズ伯爵家には、親戚がいらっしゃるかと」
「爵位は男子しか継げないよね……遠縁の子供が数人いるけど、ハズレだから」
肩をすくめるとジョナスは自分の向かいのソファーを勧めた。ローレンスはフェリシアの手を引いて座る。
「では、ブロウズ家縁の方と婚姻するということですか?」
「一応会ってみる?いい子がいるけど。
僕としては、ライナスに指導を受けてる君が領地運営してくれて、フェリシアの魔法の指導が出来るならそれでいいんだけど」
飄々とした目の前の人物にローレンスは眉間に皺を寄せた。
「それは……」
「フェリシアは魔力が高いから、リオンと一緒に色々教えがいがあるし」
「……可愛いし?」
「……僕にはそんなに甘えてくれないけど」
ずっとローレンスの手を握っているフェリシアに視線を向ける。ローレンスの皺がより深くなる。
「……ブロウズ伯爵はそういう趣味が?」
「いや、そういうのはないよ。
ライナスのとこもカイルーーバーシェス商会のだけど、どっちも男の子しかいないから、フェリシアの反応は新鮮でね」
ローレンスはどうしたものか、とフェリシアを見る。フェリシアは首をかしげる。
冷静に考えれば、ライナスが変な話を持ってくるはずがない。
ローレンスは、息を整え、ジョナスを見た。
「こちらの都合に付き合わせることになりますが」
「その辺はライナスがなんとかしてくれるから」
ローレンスは苦笑した。この掴み所のない人物が養父となるのだ。
「私は何をすればいいのでしょうか?」
「僕の代わりに領地運営を。
宮廷魔術師だから、ずっと王都で仕事だしね」
「フェリシアもカントリーハウスで暮らすんですよね?」
「うん。僕もフェリシアも空間移動出来るから問題ないよ」
言いながら、ジョナスは目を細め、ローレンスを観察する。
「君も無属性あるよね?
多分、ここからカントリーハウスまで行けるはずだけど」
「空間移動は試したことがありません」
「じゃあ、養子縁組が決まったら特訓だから。
ここと向こうを往き来出来ると、便利だし安全面も考えるといいことづくめだよ」
「分かりました」
「えっと。いつ家を出るの?」
「明日です。
あの……色々ありがとうございます」
ローレンスは立ち上がり、深々と頭を下げた。フェリシアも隣でローレンスの真似をする。
「うん。君が常識人で、きっとウチの家令が喜ぶよ」
「はあ」
ローレンスは曖昧に頷いた。先程からの口調といい、養父になる人物がそうではないことは確定している。
「では、私達はこれで」
「これからどうするの?」
「伯父のところに。辞職する使用人の紹介状を書いていただきに」
「僕も呼ばれているから、一緒に行こうか」
ジョナスがフェリシアにおいで、と言うと、フェリシアは左手でローレンスの腕を抱きしめ、右手でジョナスの手を取った。
明らかに落ち込んでいるジョナスに、ローレンスは助け船を出す。
「途中で離れると危ないから、そっちもちゃんと掴んで」
「はい」
フェリシアがぎゅっと抱きついて、ジョナスの機嫌が一瞬で良くなる。
ローレンスが苦笑するとジョナスが呪文を唱え、デイトン家へと飛んだ。
そのデイトン家ではライナスとリオンが待っていた。リオンも大まかな話は聞いていたらしい。
ライナスとジョナス、ローレンスで話をつめることになり、話は夜遅くまで続けられたのだった。
翌朝、早い時間にローレンスの部屋で数人ずつ紹介状と少しの退職金を渡した。デイトン伯爵家の紹介状もついていて、使用人はローレンスに頭を下げる。
それを八人分見て、自分の不甲斐なさを噛み締めるが、家令は現当主があれでは仕方がないと慰めてくる。
そんな早朝が終わり、ローレンスは馬屋に自分の愛馬を連れにきた。
両親と異母妹へは先程話を済ませた。
廃嫡の手続きが済むまで、王都のデイトン家に滞在すること、終わり次第王都を出ること。
出ていけと言われ手続きもせずにいたら、後から面倒ごとに巻き込まれかねないというのが、昨夜の見解だ。
そのため、廃嫡は口約束ではなく、法務省にてきちんと手続きすることにしたのだ。
「フェリシア」
門で待っていたフェリシアを抱き上げ、横抱きにして馬に乗せる。
フェリシアの表情は暗い。
ローレンスは右手で手綱を取り、左手でフェリシアをぎゅっと抱きしめる。
「大丈夫。これで良かったんだよ」
昨夜から何度も繰り返し言ってきかせているが、フェリシアは頷くだけだ。
フェリシアが笑顔を取り戻すのは、廃嫡の手続きが済み、その後ブロウズ伯爵家との養子縁組が終わりカントリーハウスへ行ってからだった。




