出会いと転機と[その3 ]
ローレンスの部屋へ移動し、侍女達を下げた。
「俺は部屋を片付けているよ……本当に大丈夫か?」
「はい。デイトン家とブロウズ伯爵家のカントリーハウスを往復したことがあります。大丈夫です」
フェリシアはにっこり微笑み、呪文を唱え始めた。まだ時間は夕方だから、迷惑な時間帯ではない。
「行ってきます」
光を放ち、フェリシアは出掛けて行った。
「……ちょっと見ない間に、成長するもんだな」
年寄染みたことを言い、ローレンスは部屋の片付けに取りかかるのだった。
□ □ □ □ □
フェリシアが飛んだ先は、デイトン伯爵家でいつもフェリシアに宛がわれている部屋だった。
乱れた息を整え、扉を開けるとーーリオンと目が合った。
「……フェリシア?」
「リオン兄様。伯父様はいらっしゃいますか?」
「父上なら、執務室に……」
「ありがとうございます。ご在宅で良かった」
リオンは階段を下りていく従妹をぼんやり見送った。
フェリシアが一階に着くと家令のウォルトが一瞬目を見開き、しかしすぐに冷静さを取り戻した。
「フェリシア様。いかがされましたか」
「あの。突然でごめんなさい。伯父様にお願いがあってやって参りました。
……取り次ぎをお願い出来ますか?」
「畏まりました。仕事も一段落着く頃ですから、執務室にご案内致します」
「ありがとう」
フェリシアを連れてウォルトは執務室へ行き、ノックをする。
「旦那様。フェリシア様がお見えです」
「……フェリシアが?すぐに連れてきなさい」
「今ここに」
言いながらウォルトは扉を開け、フェリシアを中へと促した。
「突然ごめんなさい、伯父様」
「構わないよ。
……しかし、ジョナスの教えがさっそく役立ったみたいだね」
ライナスは微笑むとフェリシアにソファーを勧め、自分も腰を下ろした。
「急用なのかな」
「はい。あの……」
そこから三十分ほど、フェリシアは自分と兄が廃嫡されること、その際に辞める使用人が出たら口利き、口添えをお願い出来ないかと話した。
今は兄の部屋にいることになっており、こちらに来ていることは兄しか知らないことも伝えた。
ライナスは途中から眉間に皺を寄せ、頷くだけだった。
話終わってもしばらくそのままだったので、不安がったフェリシアが視線をさ迷わせると、ウォルトがため息をつく。
「旦那様」
「……今回きりだ」
「えぇ、そうですね」
「ああ。ローレンスとフェリシアがいなくなるオールポート伯爵家には関わる必要がない」
「伯父様?でも母の実家はここですし……」
「エイダには婚姻の際、一生暮らせるほどの持参金を持たせているよ。
以降、デイトン家に無心しないことを約束させて、ね。
あれで足りないのなら、使いすぎだ」
聞いたことのない話にフェリシアは目を瞬かせる。
無心しない約束だから、娘を送り付けるのは別に構わないとでも思っているのか、と不思議だった。
「口利きと口添えは、君たち二人が信頼している使用人ならしてあげるよ」
「ありがとうございます、伯父様」
「それとは別に……」
ライナスが真剣な眼差しをフェリシアに向けた時、突然扉が乱暴に開けられた。
「緊急事態だよ、ライナス!」
ジョナスが突入してきた。しかし二人を見て、さらに大声をあげる。
「なんでフェリシアが?」
「……いいから座れ」
「いや、フェリシアが茶会でアレクシス殿下に暴言吐かれたんだって?」
「いえ、あの……」
「暴言?」
「許しを出すまで俺の前に顔を出すなって」
ライナスの目が細められた。
「ジョナス。なぜそこまで知っている?」
「本当は僕が警備の一員だったんだけど、急用が出来て後輩と代わったんだよね。
そしたら、後輩とフェリシアがいい雰囲気だと殿下が誤解しちゃってさぁ」
「……いい雰囲気?」
フェリシアが首をかしげる。知り合いでもないのに、いいも悪いもない。
「……殿下の誤解はこの際置いておく」
「えぇ?!」
「ジョナス、お前の跡継ぎ問題はもう解決したのか?」
「それはまだだけど……そんなことよりフェリシアが」
「今回の件で、フェリシアが廃嫡されることになった」
「フェリシア、本当?!」
ジョナスに肩を掴まれ前後に揺さぶられる。フェリシアは何度も頷いた。
「私と、兄も一緒に廃嫡に」
「なんでフェリシアのお兄さんも?って言うか、フェリシアにお兄さんいたんだ?」
「ローレンスは私が色々領地運営を教えているよ」
ジョナスがピクリ、とライナスの発言に反応する。
フェリシアから手を離し、ライナスに視線を向ける。
「……もしかして、それって」
「あの家と二度と関わらないでいいように、廃嫡が済んでから事を進めることになるが。
一度会ってみるか?」
「もちろん」
ジョナスに解放されたものの、まだぼんやりしていたフェリシアは、話の流れが分からなかった。
「フェリシア。口利きと口添えは先ほど言った通りだ」
「はい」
「それから、ローレンスとフェリシアに、ジョナスのところーーブロウズ伯爵家との養子縁組の話があると、ローレンスに伝えなさい」
「え?」
「なんなら今からブロウズ家のタウンハウスで会う?」
「え?」
「そうだな。一度ローレンスと会っていた方がいいな」
「じゃあ今からウチにフェリシアと飛んで、フェリシアが家に戻ってお兄さん連れて僕のウチにおいで」
「ジョナス。その後ここにもこい。打ち合わせるぞ」
「了解。行ってくるね」
ジョナスはまだ理解しきれていないフェリシアの手を取ると、さっさと飛んで行った。
「……騒々しかったな」
「ですが、ローレンス様とフェリシア様には良かったかと」
「ブロウズ伯爵家にとってもね。ジョナスがいい人材を連れてくるとは思ってないだろう」
「しかしブロウズ伯爵家の縁のある方々がどう動くか……」
「デイトン家との繋がりが強くなるんだ、満更でもないだろう」
ライナスが笑うと、ウォルトも頷いた。そもそも、親戚の男児は使えないとジョナスが判断したのだから、仕方がないだろう。
「さて。うるさいのが帰ってくる前に、今日の仕事を終らせるよ」
「畏まりました」
ライナスは机に戻り、あと少し残っていた書類を手にした。




