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女神の趣味に付き合わされて  作者: 五月女ハギ
プロローグよりも前に
1/52

女神の説明会

 フェリシアが初めて『女神』を自称する彼女に会ったのは、五歳の頃だった。

 初対面にもかかわらず、彼女は何故か土下座をした。


「?」

「いや、あの、ちょっとした手違いがあってね」

「手違い?」


 フェリシアはショックを受けた出来事からあまり時間が経っておらず、ぼんやりとしていた。


「うん。間違ってこっちの世界で転生させちゃった」


 てへ、と作り笑をする彼女が、何を言っているのか分からなかった。当たり前だ。だって五歳なのだ。

 でも、何か引っかかるものがあり、フェリシアは彼女に問いかけた。


「テンセイが何か分かりかねますが。ひょっとして魔力測定の件にも関係がおありですの?」


 びくん、と彼女の肩が震えたのを見逃さなかった。その瞬間、フェリシアの中から溢れ出た真っ黒な感情は、何と言い表せばいいのか。


「納得のいく答えを下さらないかしら?」



 □ □ □ □ □



 エイジャー王国では、五歳になると魔力測定が義務付けられている。

 うっかり暴走させて回りの建物や人に被害を出さないためだ。


 庶民は教会や集会所などで行うが、上流貴族は毎年王宮での測定もすることが出来るようになっている。フェリシアも王宮のものに参加していた。


「この測定器……水晶を手に乗せて魔力を注ぎ込んで下さい」


 言われるまま、受け取った水晶を掌に乗せた。しかし、魔力の注ぎ方なんて習っていない。

 どうやって、と問いかけようにもその人はすでに他の子供に水晶を渡しに行ってしまい、フェリシアは首を傾げながら、掌の水晶を見つめた。

 しばらくすると他の人がやってきて、乗せている水晶を見て眉を潜めた。


「……こんなもんか」


 その呟きは、良くない内容だと子供にさえ分かる。そしてすぐに自分の理解が正しかったことを知ることになってしまう。

 測定値が出るなり、両親に手を取られ、さっさと帰宅することになった。


「この恥さらしが!」

「連れていくのではなかったわ!」


 両親とも魔力が高いわけではない。しかし、低いわけでもない。フェリシアの上の兄は魔力が高い方だし、姉も普通にはある。

 なのでぼちぼちかと思っていたら、まさかの十人ほどのなかで、下から三番目と低い魔力であった。

 その事実に両親は激怒してフェリシアを罵り、更にはしばらく顔を見たくないと母エイダの実家デイトン伯爵家へと馬車に乗せられた。


 実家とはいっても、デイトン伯爵は養子で母とは兄妹ではない。女性では爵位を継げないため、遠縁の魔力の高い子供を養子にしたのだ。

 この世界では魔力が高いと子供が出来にくい。それゆえ魔力が高い者が跡を継ぐとの家訓があるデイトン伯爵家では養子が盛んだった。

 それでもエイダが実子であるのは間違いがないので、デイトン伯爵はことあるごとにこうして巻き込まれている。


「……お久しぶりです、伯父様」


 一日半ほど馬車に揺られ、デイトン伯爵家にたどり着いたフェリシアは、馬車で少し泣いてしまった。目が赤くないことを願ったが、伯父の表情からするとバレバレであるようだった。

 伯父のデイトン伯爵ーーライナスは、穏やかな笑みを浮かべ、フェリシアを抱き上げ、その頬に口付けた。


「よく来た、フェリシア」


 両親がフェリシアを疎ましく思うたびに、デイトン伯爵家へと放り出される。ライナスはフェリシアが来づらくならないようにと、毎回歓迎の意を表していた。

 この小さな姪が壊れてしまいそうな危うさをライナスは心配していた。


「いらっしゃい、フェリシア」


 ライナスの養子、リオンもにこやかにフェリシアを迎えた。

 リオンはフェリシアの異母姉と同い年、兄より二つ下である。フェリシアより八歳上のため、小さな従姉妹の扱いも察していた。


「しばらくゆっくりしていきなさい」

「ありがとうございます」

「今日はもう遅いから、食事と風呂くらいにして、早目に休みなさい」

「遅くなったので、食事は済ませて来ました」

「では風呂に入って休みなさい」

「はい、伯父様」

「フェリシアの部屋はこっちだよ」


 リオンが手を引いて案内する。フェリシアは自分に歩調を合わせてくれていることに気付いた。全然息が上がらない。

 それに。

 フェリシアがこうやって両親からデイトン伯爵家に追い払われるのは初めてではない。部屋なら分かっている。


「……リオン兄様、ありがとう」

「どういたしまして。今日はゆっくり休んで」

「はい」


 リオンと部屋の前で別れると、いつもフェリシアの面倒をみてくれる侍女達が今日もついてくれた。

 手際よく風呂に入れたり、その間フェリシアが持ってきた服などをクローゼットに移したり。慣れた手際のよさは、しかしフェリシアを思うと決していいものではなかった。




 入浴後に移動の疲れからか、フェリシアはすぐに眠ってしまい、そして自称女神と対面している。


「そういえば、何故部屋に貴女がいるのかしら?」


 しかし見渡すとライナスに宛がわれた部屋ではなく、床も壁も天井も全てが真っ白だった。


(ここはどこ?)


 ちらりと辺りを伺うと、彼女は困ったように頭を掻いた。


「ここは現実空間じゃないの。う~ん……夢の中とでも思ってもらえる?」

「夢の中?」

「まあ、それはともかく。ちゃんと説明するわね」


 彼女は言うなり、説明というか言い訳というか、とにかく話し始めた。


「私はこの世界の神様。

 たまたま遊びに行っていた神様は別の世界を管理しているの。

 で、私がうっかり寝ぼけてて遊びに行ってた先の魂を転生させちゃって」

「テンセイ?」

「人生が終わってから、生まれ直すことよ。

 私が転生させられるのは、管理している世界ーーここだけなの。

 だから別の世界の魂の貴女をうっかり転生させちゃったら、こっちの世界に来ちゃったの。

 いや~ごめんね」


 両手を擦り合わせて謝るが、態度が軽すぎる。


「……それと魔力測定とどのような関係が?」

「よかった、許してく」


 許してくれて、と続きそうだったので即座に否定した。


「いいえ。まずは説明を。何も分からぬま判断は下せません」

「うっ。五歳にしてこうくるか」


 フェリシアには彼女がどう考えていたのか分かった。五歳ならうやむやに許されると今、会うことにしたのだと。


「転生させるついでに、向こうの世界で流行ってて私も最近はまってる、恋愛ゲームを実際に見てみたいなぁ、なんて思っちゃって」

「レンアイげーむ?」

「恋愛小説のヒロインが、自分で色々選択して叶えたい未来を切り開いていくような感じよ」


 胸の前で手を合わせ、うっとりとしている。意味は分からないが、取り敢えず先を促した。


「魂に書き込んじゃって。

 ちょうどいい具合のライバルキャラとして、大体の能力が中の上って。」

「……私の魔力は下だったわ」


 言いながら、フェリシアはぎゅっと手を握りしめた。下だったからデイトン伯爵家に今いるのだ。らいばるきゃら、が何を示すのかは分からないが。


「だって、あの夫婦が何も習わせてないでしょ?それは私のせいじゃないもん」

「習わせてない?」

「上の二人には家庭教師がいたから、魔力測定の仕方も知っていたのよね。

 あの夫婦は、上の二人が大丈夫だったから三人目の貴女には何も習わせなくても、問題ないと考えていたみたい」


 そんなわけないのにね、と彼女が笑っている。自分達のためにお金を使いたいからってケチったのよ、とあくまで他人事だ。


「魂に書き込みって?」

「神様が決めた大体の人となりとか人生のあらすじとかかなぁ。神様の言うとおりになりすぎないために、大雑把にしか書き込めないけど。

 貴女に書き込んだのは、全てが中の上の能力ってのと、ヒロインとその攻略キャラに出会うこと。

 でも、貴女の元々いた世界の神様が怒っちゃって。なんで勝手に違う世界へ行かされて能力が選べないんだって。

 でも、一回書き込むと消せないから、何か追加で書き足せって言われたのよ」


 フェリシアは覚えていない向こうの神様に感謝した。少なくとも目の前の彼女と違い、ちゃんとしている。


「私の能力は、中の上なのですか?」

「そ。努力しても、それ以上に発展するのは難しいわ。全くないわけじゃないけど」

「見た目も?」

「見た目も」

「……私が両親に疎まれるのも?」

「それは貴女の両親のせいだから。私の書き込みのせいじゃないわよ」


 そう、と呟いてフェリシアは目を伏せた。しばし考え、彼女を見上げた。


「追加で書き足せるのは、どんなことでも、ですか?」

「人の心は変えられないわよ」


 まるでフェリシアが何を求めるか分かっているようだった。いや、この流れで分からないはずがない。


「貴女自身のことしか貴女の魂には書き込めないのよ」

「……では、見た目を綺麗に。

 それから、将来独り立ちしても困らない何か……」


 首を捻り考える。

 ライナスの友人で宮廷魔術師のブロウズ伯爵ーージョナスから聞いた話を思い出した。

 キラキラ光る石を見て、「何の宝石?」と聞いたら魔力の籠った魔晶石だと言った。値段はぴんきり。

 でも、売れるものを作れるのなら、それで生活していこう。他に何も思い浮かばないし。


「質のいい魔晶石を作れる力を」

「……まあ、貴女は光属性を持っているから大丈夫だけど」

「なら、持っている属性の力を最高級にして下さい」

「……は?」

「最高級に。それと魔力も」

「いやいやいや。あのね……」

「美人にして、魔力と魔法を最高級にして下さい」


 フェリシアが言い切ると、彼女は深くため息をついた。


「……ついでに、一度食べた物を再現して作れるようにしてあげるわ」

「え?」


 フェリシアは驚いて瞬きした。貴族の令嬢である自分は料理をしない。


「こっちでもあの世界の料理を食べたいのよ!たま~にお忍びで地上に降りても食べる楽しみがないんだもんっ」


 そんなこと言われても、フェリシアにはどうのしようもない。


「じゃあ、そーゆーことで」


 終わったとばかりに彼女が手を振る。


「ええ、ではまた」

「……また?」


 怪訝な表情をする彼女に向かい、フェリシアはにっこり笑った。


「まだ五歳ですから。全部は分かってません」

「……」


 彼女がため息を長々とつき、初めての説明会は終了した。

設定ミスを直しました( ̄▽ ̄;)

スミマセン

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