26 野盗の襲撃3 奮戦
「そんな子供騙しにビビってんじゃねー!囲め!囲め!袋たたきにぶち殺せ!」
鬼熊も負けてはいない!
野盗達は、形成を整えるように奇妙達を囲むように襲い掛かる。
少年達も村人を背にして弧を描くように並んで野盗を迎え撃つ。
数に物をいわせ野盗達が、氏郷を囲んだ。
氏郷は、怯むことなくその槍で攻めた。一人を突き倒すと、続けざまに回転するように一人をなぎ倒す。
この少年の槍さばきは一目置くものが有る。
しかし、その隙をついて、一人が氏郷に切りかかる。
氏郷が槍を両手で構えて受け止めた。
「うおお!」
力を込めて相手を吹っ飛ばすと槍を振り回して、間合いを取った。
「クッソー!数が多いぞ!奇妙!」
氏郷が叫んだ。
「なんだ!もう怖気づいたのか!」
惣藏が答えたが、鍔競り合いから敵を吹っ飛ばして、攻めに転じることが出来ずに太刀を無暗に振り回して間合いを確保するのに必死である。
「ああ!分かってる!」
奇妙が氏郷に応える。囲むように攻め寄せる野盗の攻撃を続けざまに受け流すと、一気に一人を切り倒した。
しかし、その隙をついて、村人へと切りかかる者があった。
(しまった!)
と思ったその時、黒髪が弧を描くように舞ったかと思うと、野盗が走り寄った勢いのまま地面に倒れた。はなである。
はなは、少女達を背に立つと、こちらは心配ないといった表情で奇妙に頷いた。
奇妙もそれに頷き返すと、横一線に太刀を大ぶりに振りながら野盗達との間合いを取った。
鋭い眼光を向けて太刀を構えなおす。
しかし、切り込む隙が見いだせない。
野盗達は、隊形を組んで詰め寄せている。先ほど、奇妙達の突然の乱入に慌てた野盗達とは違うのである。
(多勢に無勢・・・どうする・・)
奇妙は、焦っていた。持久戦になれば分が悪いのは目に見えた居る。
かといって、引くことは出来ない。自分たちが倒された後、村人は地獄を見るのは、分かっている。
氏郷と惣藏を見た。
「まだまだー!」
「うおぉぉぉ!」
二人も奇妙と同じ想いである。迫りくる波状攻撃を防戦しながら必死で持ちこたえていた。
「あっはっはっは!小僧ども!いつまでその元気が持つかな」
少年達の気持ちを見透かすように鬼熊が言い放った。
「きぇーーー!」
雄たけびを上げながら、敵が奇妙に迫る。
太刀を払いのけて、蹴り飛ばすと、鋭い眼光を放って太刀を構えなおした。
「お前たち!!俺を守れ!」
奇妙の声がした。
「何故おぬしを!」
すかさず答えた惣藏の言葉を、奇妙は打ち消した。
「奴を殺る!」
頭目を見据えて言うなり、奇妙は野盗の群れに打って出た!
「おおぅ!」「承知!」
切り進む奇妙に合わせた二人が、魚鱗の陣のように間を詰める。
広がっていた野盗達もそれに合わせて密集してゆく。
数の劣勢をそう容易く覆せるものでは無い、奇妙の足が止まる。
「負けるなぁーー!」
松が叫んだ。
「いっけーー!」
五徳である。
「おおおおお!」
奇妙が気合をいれる。
群がる敵の波状攻撃を防ぎながらも前に進もうとす。しかし、容易な事では無い。
―――ここまでか。
その様子を、木陰から鉄砲を構えたせんがみていた。
「んんんん……ちッ」
舌打ちすると、鉄砲の構えを解いた。敵味方とも密集していて照準が定まらない。
もう一度構えなおしたその時、土煙がせんを覆った。
せんの後ろを、怒涛の勢いで騎馬の一団が駆け抜けて行く。その数三十騎はあろう。
「二手に分かれる!一人も逃がすな!」
先頭の男が号令すると、一団は広場へ、もう一団は裏手へ回るためか、直進する。
その統率の取れた馬操術、武田の正規軍である。
広場に突入してくる騎馬の一団を見た鬼熊は見た。
「引けぇーー!」
その判断は、早かった。鬼熊が馬に跨ると一気に逃げ出す。野盗達もそれに続いて走り出した。分が悪いと思ったら逃げる。野盗には野盗の理が有るのである。
「抵抗する者は打ち捨てよ!」
先頭を駆ける騎馬武者が号令した。付き従う騎馬武者達も奇妙達の間を縫って追撃に入ってゆく。
「・・・・!」
奇妙達は、突然の出来事に呆気にとられている。
「…………助かったようだな」
少しして氏郷が、状況を把握したように言うと、奇妙、氏郷、惣藏は、片膝をついて、はぁはぁと息を整え、苦笑いをするように顔を見合わせた。
「ありがとうございます! き・・奇妙様・・・」
松が駆け寄ってきた。
奇妙は、片膝を付いたまま、はぁはぁと息を整えながら、
「不甲斐ない……所を……お見せしました……松・ど・の・・・」
と、言いながらも笑顔を見せた。
松に続くように、はながやってきた。
「そちらの殿方も、大そうな武勇ですね。お怪我は有りませんか?」
氏郷を気遣い声を掛ける。
「この程度朝飯前だぜ!心配ご無用!」
はなに褒められ照れたように赤くなって、槍を振り回すと答えた。
「なに、気取ってんだよ!」
惣藏が静かに突っ込む。
「何だと!貴様!年長者に対する礼儀をわきまえろ!」
氏郷には惣藏が、歳下に見えたようである。
「貴様こそ、年上に敬意を払うんだな」
惣藏が言い返した。
「歳は、幾つだ!?」
二人の言葉が重なった!歳などどうでも良いのだろうが、何でも良いから優位に立ちたいのであろう。
「十七だ!」
これまた、二人の言葉が重なった。
「なんだとう!!」
どちらも優位に立てずに、顔面合戦を始めた。
「やめなさい!」
松が一括すると二人は渋々と黙った。