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25 野盗の襲撃2

 風を切りながら、騎馬が二騎、四人が村へ駈け込んでゆく。

 そこには、荒廃した街並み、惨劇の後であった。

 奇妙の瞳が曇った。その瞳がなげききの色に変わる。

「奇妙! 広場だ!」

 氏郷が手綱を緩めることなく叫んだ。

「切り込むぞ!」

 奇妙も瞬足に掛ける馬上で太刀を抜いた。

 そのまま野盗の集団に突っ込んでゆく。

 広場の入口の男たちが向かって来る騎馬に槍を構えた。

「そこをどけー!」

 奇妙は掛けながら、その槍を薙ぎ払うと返す太刀で切り倒した。

 氏郷も槍をかわしてざま、槍を振り下ろして突いた。

 四人は、馬から降りた。

「お前たちは下がって居ろ」

 五徳とせんに告げるが速いか、動くが速いか!

 周囲の野盗を奇妙が切り倒す。氏郷が突いた。

 野盗達も黙っては居ない。

 一斉に二人に切り掛かってゆくが、少年達は歩みを止めない。

 向かい来る男たちを切り倒し、そして突いた。


 少女も騒ぎの方を見た。

「あのお方は……」

 野盗の悲鳴と断末魔の渦の中を来るのは、先ほどの少年である。

 向かい来る野盗を続けざまに切り倒してゆく。

 そこに在るのは惨劇であったが、

(綺麗……)

 少女は、思った。

 歩みを止めずに奇妙は少女の横に立つ。氏郷は二人を背にして、今来た方へと槍を構えて止まった。

「遅れて済まない」

 奇妙が言った。その言葉は、自身への責めの言葉であった。

 



 少女が少年を見た。

 少年も少女を見る。

 ――――。

 春風が激しく二人に吹き付け、髪が流れる。

 少女の瞳に映る少年は、とても頼もしく。心を震わした。

 

 少年が怒りの眼差しを鬼熊に向けて太刀を構えた。

 少女も前を向いた。

「俺は――」「私は――」

「織田菅九郎信繁」「武田の松」

「俺の前で狼藉は許さん!」

「私の前で狼藉は許しません!」

 言葉は同時であった。

 吹き付ける春風に時が止まる。

「・・松・・殿・・」

「えっ・・奇妙・・様・・」

 二人の瞳が重なる。

 

 鬼熊は、二人の気迫に一瞬怯んだように見えたが、

「ガキどもが! 何をゴチャゴチャ言ってやがる! とっとと方付けろ!」

 鬼熊が野盗達に怒鳴った。

 野盗達が、奇妙達に群がる。数の上では、まだ劣勢である。

 迎え撃つのは、四人。

「下がってください」

 奇妙が松に声を掛けて動いた。

「はな殿! 姫様を頼みます」

 言うなり、惣藏も切り込んでゆく。

 それを、合図のように乱戦に突入する。

 突っ込んで来た男を、はなが切り倒すと、

「松様! 菊様! 私の傍に!」

 と、松と菊を守るように背にした。

「ヒュー。やはりいい女だ!」

 その身のこなしを見ていた氏郷が口を鳴らした。

 惣藏は、四・五人に囲まれていたが、一瞬で三人を倒して続けざまに次の相手と切り結ぶ。この少年も並の使い手では無いようである。

 しかし、つばぜり合いになり、一瞬動きが止まった。

 残りの一人が切りつけて来た。

 瞬間、横から氏郷が槍で突いた。

「助太刀するぜ!」

「余計な事を!」

 というと、つばぜり合いから反転して敵を切り倒した。

「かっこつけてんじゃなーよ!」

 氏郷と惣藏は、背中合わせに敵に向かい合った。

 

 巻き上がる土煙の中で、弁丸は少女を抱えたまま動けずに居た。それでも震える手で太刀を翳したままである。

 野盗が少年に向かってきた。

 その時、奇妙が走り寄り風のように切り捨てた。

 奇妙は、梅を抱える弁丸を見た!

「勇気のある男だ! 偉いぞ!」

 弁丸は、奇妙に熱いまなざしを向けた。

 その横で、倒れた亭主にすがるように、うつ伏せる女将が見えた。

 奇妙が、かばうように構える所へ五徳が走りよる。

「女将さん。こっちへ!」

 女将を抱えるように、後ろへ下がる。

「貴方たちも来なさい」

 弁丸を掴んだ。

 そこへ押し寄せる野盗を、奇妙は防いだが、一人を取り逃がした。

 五徳めがけて走り寄る。

 間に合わない! ――その時。

 ドカンという爆音とともに野盗が吹っ飛んだ。

 せんが、鉄砲を放ったのだ。

「にゃはは!当ったりぃ!」

 白煙の登る鉄砲を構えたせんが、鋭い目つきで言った。軽やかだが、その中に残忍さを感じる物言いで有った。

「おいおい!ちゃんと狙ってくれよ!」

 氏郷がボヤキながら、敵と格闘している。

 突然の爆音に野盗達が一瞬怯んだ。

「今だ!押し出せ!」

 奇妙が皆を鼓舞するように叫んだ。



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