表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/42

23 悪い予感

 高遠へと続く緩やかな上り坂を進みながら、氏郷はぼんやり空を見上げていた。

「いい女だったなー」

 氏郷が、言っているのは、はなの事である。

「冬が怒るぞ……」

 奇妙が、氏郷の妄想に水をさした。ものの、氏郷の妻で奇妙の妹は、まだ十二歳である。大人の女性に憧れる気持ちは、奇妙にもわかる。

「お前も、さっきの娘が気になるんじゃねーのか?」

 氏郷が、奇妙を茶化した。

「まぁな……」

 奇妙の答えは、意外なものであった。

「あははは! お前もやっぱ男だな!」

 氏郷は、友の肩をバンバンと叩きながら勝手に納得している。

しかし奇妙が気になると頷いたのは、村から出るときの怪しい一団を思い出していたからだ。

「さっきの怪しい一団だよ……村の男たちは、戦に駆り出されているって宿屋の主人も言ってたからな……」

 奇妙は不安を友に話した。

「確かに。村を襲うには丁度良いか……」

 氏郷は、納得した。

先ほどの旅の一行は、そろそろあの村に差し掛かる頃であろうと思った。

 その時、風に乗って鐘の音がかすかに聞こえて来た。

「ねぇ見て! 煙が上がってるよ」

 せんが、見つけて指をさした。

 奇妙達の高台から見えるそれは、あの村の方角だ。

 奇妙の、不安は的中したらしい。

 

 ――――。

「氏郷!!」

「ああ! いい女だったからな!」

 奇妙は、友の名を呼んだだけであるが、氏郷にはそれで伝わった。

「ちょっと、どうする気よ! ここからじゃ間に合わないわ!」

 五徳が言ったが。その発言は、的を得ていた。

「馬を外すぞ!」

「ああ!」

 奇妙が言うが早いか氏郷も馬車に取り付いて連結を解いた。

「お前たちは、ここで待て!」

 馬に跨って、奇妙が五徳に言う。

「嫌よ! 梅ちゃんが心配だわ!」

 腕組した五徳が強い瞳で言った。

 ――――――。

「来い!」

 奇妙の差し出した手を五徳が掴んだ。

力強く妹を懐に抱き寄せると友を見た。

 そこには、馬上に槍姿の氏郷、その後ろには、鉄砲を担いだせんがつかまっている。

「一気に駆ける!」

 奇妙が力強く言うと、

「おおう!」

 氏郷も力強く答える。

「ヤァァッー!」

 と、声を上げて、二頭の騎馬が駆け出した。

 馬上で妹は、兄に抱かれてその顔を誇らしげに見上げた。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ