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21 伊那道中2

 盛信と別れた一行は、東山道を更に北へ進んだ。

 北伊那の街道沿いにある小さな村で宿をとった、ここは、高遠から少し離れた里村である。

 そして、また一日旅路につこうとしている。

「よーし! 今日は、高遠の峠を越えて、一気に諏訪までいくか! 気合入れて行くぜ!」

 氏郷が、元気よく宿屋の入口から飛び出した。

「おい氏郷。元気なのは良いが、秋山殿の書状は持ってるだろうな?」

「ああ! バッチリ懐に入ってるぜ!」

 ここに来るまで、大島城、飯島城、春日城の関所を無事に通過できたのは、ひとえに秋山虎繁の書状のおかげである。

「ほんと、秋山殿には感謝しないとな」

 奇妙がしみじみと言った。

 見たことも無いような風変わりな馬車を引く一行が怪しまれないわけがない。しかし、書状を見せると何とも素直に通過できたのだ。

 それは、秋山虎繁が先日まで大島城に滞在して伊那郡の郡代であつた事が幸いしたと言える。

 

 宿屋から先に出た二人の元へ、五徳とせんが現れ、それに続いて店主が見送りに現れた。

「何やら賑やかですが、祭りでもあるのですか?」

 村の様子を見ていた奇妙が店主に聞いた。

「はい。冬を越えた祝いに、桜の咲くこの季節に、皆で祝いをするのが、恒例でして、大した物ではないのですが、みな楽しみにしていましてね」

 村の中央には、立派な桜の木が花を咲かせているのが見えた。

「そろそろ行こうぜ!」

 氏郷が、店の外から声を掛けた。

 奇妙が店主に礼を言って店から出るとき、奇妙の脇を女の子が追い抜いて駆け出した。歳は、四・五歳であろう。

「うえぇぇん。お姉ちゃん行っちゃうの?」

 せんに抱き着いて泣いている。昨晩からせんと五徳に遊んでもらい、一緒に風呂に入って同じ布団で寝た。別れを惜しんで居るのである。

「梅! 梅!」

 と、女将が追いかけて来た。少女の母親である。

「我がまま、言っちゃいけませんよ」

「ごめんね、お姉ちゃん達、先を急いでるから」

 五徳が、せんに抱き着く女の子の髪をなでた。

「あっ! そうだ! じゃ良い物あげる」

 せんが、思いついたように馬車に行くと、ヒョイっと鉄砲を持って見せた!

 思いもしない兵器の出現に若夫婦が怯んだ!

「………じゃなかった、ほら!」

 と、馬車から取ったのは、風車である。

「せんちゃん・・そりゃ笑えないよ・・・」

 せんなりに笑いを取ろうとしたボケで有ったが、奇妙が冷静に突っ込む。

「ほら、ふぅふぅって!」

 せんが、息を吹きかけて風車を回してみせると、梅も真似してやった。

「わぁ! すごーい!」

 ご機嫌は、治ったようである。

「もし、よろしかったら今日は、皆で酒盛りがあります。ご一緒にどうです?」

 店主が、娘を気づかってか、一行を誘った。

「先を急いでますので、お気持ちだけ頂いておきます」

 奇妙は、丁重に断ると、

「さぁ、参ろう」

 と皆に言った。

「またね、梅ちゃん」

 五徳とせんが、名残惜しそうに梅に手を振った。

「また来てね!」

 と、懸命に笑顔を作る少女が無邪気に、手を振る。

 その横で、宿の若夫婦も笑顔で見送った。


 奇妙達一行が村から出ようとする時、異様な風貌な一団とすれ違った。

 騎馬の者が十人ほど、それに付き従う男達が二・三十人程である。

 馬に跨り先頭を行く男は、派手な出で立ちであった。

 武田の兵かと思ったが、それにしては、軽装である。

 この当たりの、ごろつきであろうか?

 祭りにやって来た一団であろうか?

 自分たちは、一介の旅人である。素性を問い正すわけにもいかない。

 奇妙が一団を見ていると、騎馬の男が睨んできた。

 その、無頼な顔つきに、普通の村人なら目を背けるだろうに、奇妙に気負いはない。

「相手にするなよ」

 氏郷が、奇妙に言った。

 言われて奇妙は、そうだなといった感じで歩き出した。

 村から大分離れてから、奇妙は何気に振り返ったが、また旅路へとつくのであった。

 

 


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