16 山越え1
昨日は、恵那山の山間の宿場に宿をとった。
生い茂る木々の合間に作られた山道は、下り始めている。
沢沿いの少し開けた場所に出ると、
「少し休むか?」
氏郷が聞いた。
「そうだな」
奇妙と盛信が賛同した。
少年達は、背負っている荷物と太刀を馬車に置くと、袴の裾を上げて沢に入っていくと水浴びを始めた。
「うおー! 冷てー!」
氏郷は、上半身裸で浴びている。
「ふぅー。結構な山道だったな」
奇妙が洗った顔を布で拭いながら言うと、
「信濃の山道の中じゃ、こんなの丘だよ丘!」
盛信が言った。
―――そこへ。
ジャバジャバと水しぶきが飛んできた。
奇妙と盛信は、水をかぶった。
「あははは!」
驚いている二人を氏郷が指差して笑っている。
「やったなー!」
今度は、二人の反撃に氏郷は、冷たい冷たいとピョンピョンとんで跳ねた。
「やっぱ、まだガキねぇ」
馬車から降りた五徳が燥いでいる少年達をみてつぶやいた。
「にゃはは! 楽しそう。私もー」
せんが沢へ行こうとしたその時!
周囲がざわついた。
木々の木陰から十人ほどの男達が姿を現すと、馬車を取り囲んだ。
手には抜身の太刀を持っている。
少女達にも、一瞬で旅人を襲う追剥だと分かった。
せんが、とっさに五徳と馬車の間に入って五徳をかばった。
「なんですか? あなた達は!」
「ほう、これは上玉だ!」
男達の一人が、少女たちを舐めまわすように見た。
「売り飛ばせば金になるな。その前に味見させて頂くとしよう」
周りの男達も、にやついた顔で笑っている。
その時!
「グエッ」
と呻きを上げて一人が倒れた。
石だ! 奇妙達が石を投げている。石投げは、弓や鉄砲より命中精度や威力は劣るが、戦において上等な攻撃手段である。
男たちが、怯んだのをついて、奇妙達は、馬車を背に男たちに向かい合った。
「ガキが調子に乗りやがって! 女とその乗り物を頂こう!」
「野盗か! 悪党ってやつは何処にでもいる物だな」
「下郎ども、この盛信様に太刀を向けるとはいい度胸だ!」
奇妙に盛信が続いた。
言いながら奇妙は氏郷に目で合図した。氏郷は頷くと五徳とせんを馬車に乗せる。
「ガキに用はねえ! 女と乗り物を抑えろ」
野盗の頭らしい男が、仲間に指図した。
その時、
「はいやー!」
と、一声! 氏郷が馬車の手綱を握ると、野党を蹴散らして走り出した。
「逃がすな追え!」
野党たちが駆け出す前に、奇妙と盛信が立ちふさがった。
「人の物は、自分の物か? この悪党ども!」
「ははっ! 俺には、こんな下賤な奴らの考えは分からんな」
多勢に無勢であるが、奇妙達に気負いは微塵もない。
少年達の挑発が頭に来たのか、
「ガキのわりにデカい口を叩く奴らだ。このガキどもを方つけろ」
頭の指図に野党が奇妙た達に向かう。
「そうだな、お前たち悪党を方付けさせて貰うぜ」
「ああっ。テメーら皆殺しだよ」
二人は、言うなり腰の太刀に手を掛けた!
――――その時!
太刀が無い!!
「あ・・・・!」
それに気づいた二人は、今までの勢いは何処へやら、一目散に逃げ出した。
「ああああ! あいつら追って来るぞ!」
「ああ! 止まるんじゃねぇ! 走れ!」