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15 旅は道連れ

 一行が関所を通過しようとすると関所の兵達は、先ほどとは打って変って奇妙達に一礼した。

 奇妙達も礼をして関所を通過しようとすると、

「おい! 待てよ!」

 呼び止めたのは、盛信であった。

 奇妙は、またイチャモンを付けられるのかと思ったが、五徳が先に言った。

「まだ何か言いたいわけ?」

「まぁまぁ。……さっきは悪かったよ」

 両手をハタハタと振って五徳をなだめた。

「お前たちは、面白いな! 俺も一緒に行くぜ!」 

 そう言うと何食わぬ顔で共に歩き出した。

 

 この先の街道は、下伊那まで恵那山のふもとの山越えの道である。

 一行は、しばし無言で有ったが、

「いいのか?」

 氏郷が奇妙に聞いた。

「ついて来るものは、仕方無いだろ」

 奇妙の言い分はもっともだと氏郷は、黙った。

 沈黙を破ったのは、盛信であった。

「俺は、仁科盛信だ」

「誰よ、それ!」

 五徳がいつものように突っかかった。

「信濃の豪族、仁科家を知らないのか? ……尾張の者なら知らなくても当然か……」

 盛信は困惑したが、

「信濃の国は、四国から成るんだ。その一国、筑摩郡を総べるのが俺の仁科家ってわけよ!」

「わぁー凄い!」

 せんは、無邪気に感心した。

「俺は、官九郎だ。こいつは忠三郎。そっちが、五徳に……」

「せんでーす」

 奇妙の紹介にせんが割ってはいった。


「お前たちは、尾張の商家だと言ったな、俺は、武田の侍大将だ! お前たち俺の家臣に成らないか?」

 盛信は、尊大な物言いで二人を誘った。

「あはは! それも良いな」

「おい! お前本気か?」

 氏郷が突っ込みを入れた。

「あんた、豪族だか何だか知らないけど、さっきから偉そうね!  だいたい歳は幾つなの?」

 盛信の物言いに、五徳がさらに偉そうに返した。

「十六だが」

「ほう。俺と同じ歳か」

 奇妙が言った。

 

 ―――そこへ、

「はん。まだガキね!」

「なんだと!」

 奇妙と盛信の声が重なった。

「些細な事でムキになって、これだから子供はやーねー」

「むむっ・・・」

 奇妙が黙っている様子を見た盛信が、

「元気のいいあまだ!」

「はぁ、女だからって舐めた言い方したら、承知しないんだから! また叩かれたいわけ!」

「官九郎お前も何か言い返したらどうだ! 何なんだ! こいつは!」

「妹だ・・・」 

「・・・妹・・か・・」

 盛信は、妹という発言に反撃の言葉を失ったようである。

 同情するように盛信は、奇妙の肩を叩いた。

 二人は、振り返るとトボトボと歩き出した。

「俺にも妹が居るが、妹という奴はどうしてこうも……」

「それは、御愁傷様だな……」

 肩を寄せて歩く二人を馬車の荷台から見ていたせん(・・)が、

「にゃはは! お二人さん意気投合したみたいですね。五徳ちゃん偉い!」

 せんが、五徳のさらさら流れる髪をクシャクシャとなでた。

「そうだな」

 氏郷も微笑ましそうに、せんに答えた。



 最初は、余所余所しかった一行は、直ぐに打ち解けた。

 同世代の少年達である、家柄も素性もさほど気にならないのであろう。

 少年達は、都の話題で盛り上がっていた。


「俺は国を出たことが無いからな、都の話をもっと聞かせてくれよ」

 盛信は、二人に楽しそうに聞いている。少年が都に憧れるのは、いつの世も変わらないのであろう。

「今都で話題といえば、小町隊って踊り子の一団がいるぞ!」

「おー! それで」

 氏郷の話に、盛信が食いついた。

「中でも葵って踊り子が、これもんでよー。なぁ官九郎!」

 氏郷が、踊り子の真似をして見せた。

「そうだな」

 奇妙が、興味無さげに答えた。

「なんだ! その余裕は。少し気に入られたからっていい気になるなよー!」

 氏郷が悔しそうに拳を握った。

「お前、その踊り子に気に入られてるのか!?」

「少し、話した事あるだけだよ」

「おおー羨ましいぜ!」

 今度は、盛信が悔しそうに拳を握っている。

「何がそんなに、いいのかしら?……ねぇ? せんちゃん」

「にゃはは! 楽しそう! 私も、踊ろうかな?」

 五徳が同意を求めたが、せんは、興味ありげに振付をして見せている。



「あんた、武田の大将なんでしょ? 私たちに付き合っていて良いわけ?」

 五徳が、都の女の話で盛り上がる少年達に水をさした。

「予定より早いが、北の上杉に備えるために、家に帰る所だったんでな」

「本当かしら? 友達が居なくて寂しかったんじゃないの?」

 五徳の発言はいつもの、相手の気分を逆なでする物であったが、あながち的を外していなかったようである。

「皆、私には気を使うのでな…………」

 盛信の言葉は、素直な気持ちであつた。

「ははは! 盛信! こんな好色エロ話で良けりゃいつでも付き合うぜ!」

「お前、そんなに男気一杯に言うことか? ……って言う事か……」

「これは頼もしい友が出来た。よろしく頼む」

「あはは! 何だそれ! あははっははっ!」 

 友情の一場面であったが、内容のバカっぽさに、皆笑い合った。





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