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12 屋敷1

 四人が連行されたのは、城下の武家屋敷の一室であった。

 ここに来るまで、虎繁とお直は、一言も口を利かなかった。

 その様子が奇妙を不安にさせたのは言うまでもない。

「おい!五徳! おめおめと付いてきて、どうすんだよ!?」

「何よ! 私は、命の恩人よ。感謝しなさい! あんた達二人でどうにかできる状況じゃなかったでしょ」

「さすが五徳ちゃん! えらい!」

 せんは、いつものように陽気に言った。

「命は長らえたが、喜べる状況じゃないな、このままここに囚われる事になるかもな……見てみろよ」

 氏郷が、障子に隙間から外を見ながら言った。

 屋敷は、武田の兵達に取り囲まれていた。

「逃げ出すにも、刀は取り上げられちまったしな……俺達をどうするつもりだろうな? バレたか?……」

「おつや殿は、何も言わなかったぜ」

 氏郷が、腕組しながら奇妙に答えた。

「ちょっとあんた! お通夜(・・・)殿って、そんな呼び方したら、叔母様が可愛そうでしょ!」

 岩村城主であった、お直の夫、遠山景任とうやまかげとうは、昨年亡くなっていた。

 そのため景任の妻であった、お直が城主になったのである。

 織田家では、お直の事を未亡人の意味で、お通夜の方と総称していたので、氏郷に悪気は無かったのであろう。

「そっ。そうだな……」

 氏郷はバツが悪そうに、五徳に答えた。


「叔母様は、みんなが居たから何も言わなかったんだわ――きっと」

 五徳が、話を戻して、お直の心情を語ったが、

「そうかもな……しかし、坊丸の事もある」

 奇妙は、頷きながらも思案している。

 坊丸とは、奇妙の弟である。城主、景任亡き後、この城に養子に入っていたのである。

 お直の方は、武田に付いた折り、坊丸を人質として甲斐の国に送っていた。

 坊丸は、七歳の子供であった。

「俺たちの運命は、お直殿の胸三寸ってことか……」

 氏郷が歯ぎしりするようにつぶやいた。

 

「一同、待たせたな」

 一時いっときほどして、虎繁がやって来た。

 奇妙達の間に緊張が走ったが、続いてやって来たお直の行動は意外なものであった。

 五徳の所に小走りで走り寄って優しく抱きしめたのだ。

「叔母様・・・」

 嬉しそうに五徳が言うと、

「五徳ちゃん、大きくなって、それにこんなに綺麗に!」

「お久ぶりでございます」

 五徳は、子供が母に甘えるように頬擦(ほおずり)している。

「お直殿は尾張の出身であったな、知り合いの娘ですか?」

「はぁあぁい」

 虎繁の問いに、お直は嬉しそうに答えた。そしてコクリと笑顔を作った。 

「私は、秋山虎繁だ、この岩村の武田軍を預かっておる」

「私は、菅九郎といいます」

「忠三郎でございます」

「せんでーす」

 三人も名を告げた。

 

 そこに廊下から屋敷の侍女と思われる者が声をかけた。

「こちらで、よろしいですか?」

 そう言うと、数名の侍女が部屋に入って来た。手にはお膳を持っている。

 虎繁は、膳を並べるように指示すると、

「皆で頂こう」

 と言って、その男前の顔をニッと笑顔にして見せた。

「わー凄い御ちそう!」

 せんは無邪気に喜んだが、奇妙と氏郷は困惑した。

「気にすることは無い、先ほどの騒ぎの礼じゃ」

「さっ、五徳ちゃんも頂きましょう」

 お直が五徳の手を取り膳の前に座った。

 

 上座に向かって左に、虎繁、お直、五徳、右に、奇妙、氏郷、せん、と向かい合うように座った。

「さっ召し上がれよ」

「ありがとうございます」

 奇妙は礼を言ったが戸惑っている様子である。

「せっかくだ、頂こうぜ!」

 氏郷は、手を合わせてから、ガツガツと口にほうばった。

「これは、猪肉だぜ! お前も食って見ろ」

 嬉しそうに、氏郷が奇妙に進めている。

「ああ。これは美味い!」

 少年にとって肉は御ちそうである。

「このふきぼこの汁、美味しいよ五徳ちゃん!」

「そうね。おじ様ありがとう」

 五徳が虎繁に礼を言うと、

「それは、良かった」

 と、男前がまた笑顔を作っている。

 和やかな場であった。

 だが、お直だけは、浮かばない顔で奇妙をみると、

「信長殿は、さぞやお怒りでしょうね?」

 と、言った。

 ―――なんと答えるべきか…………

 奇妙は思案した、自分たちは旅の商家のを装っているのだ。

 お直の発言は、織田奇妙への物言いであった。それに、ここに居る虎繁は、信玄の側近であるのだ。






岩村城主は、おつやの方で有名ですが、ウィキペディアを見たところ、お直という名も有りましたので、こちらを採用しています。

おつやの方は、お艶やの方。つややかという名前の解釈も有るようですが、

今回は、私の解釈では有りますが、おつやの方という呼び方は、お通夜の方、未亡人の意味、ではないかと考え、使わせて頂きました。


記号について、自分が後で直す時の覚書も兼ねて書かせていただきます。

「叔母様・・・」ふんわりした沈黙。

「叔母様……」不安なイメージ?

上記の方がイメージが伝わりやすいかなと思い試しに使ってみました。

氏郷の、「バレたか?……」「バレたか? ……」

セリフのすぐ後に思案するような沈黙がほしかったので、前者にしてみました。

奇妙と、五徳の「おい!五徳!」「何よ! 私は」

前半はスペースなし後半はスペースありの方が、台詞のテンポが伝わりやすいかなと考えました。お試しです。



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