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Ⅱ-ⅳ もう一つの開幕

 真夜中よりも早い時間、ブレッドとカイは連れ立って家路についていた。てっきりそのままブレッドだけ残るかとも思ったのだが、カイが師匠たちより先に帰らなければと言い張ると、案外素直に花屋を後にした。……ひょっとすると元からそのつもりだったのかもしれない。酒を飲むペースがやけにゆっくりだったのだ。泊るつもりなら、考えずに呑んでしまうだろう。

 花屋を出ても、ぽつりぽつりと明かりの灯っている家が多い。何より表の通りには、魔灯と呼ばれる魔法仕掛けの街灯があり、時折この前見かけたような治安隊の人間も夜回りしていて、危険な気配は微塵もなかった。

「夜歩くの初めてだろ?」

カイが物珍しそうに魔灯を眺めていると、ブレッドがそう声をかけてきた。カイは素直に頷いた。

「随分明るいんですね。」

「まあ表だけはな。ちょっと横道入ると大分暗いし、防犯が徹底されてるとは言え夜は出歩かないに越したことはない。」

「そういえば、結局なんで俺の護衛って一人なんですか?」

ジェンヌに指摘されてからものすごい気になっていた。ブレッドの下手な誤魔化し方からして、あまり突っ込まないほうが良い気もしたのだが、それでも気になるものは気になる。

 案の定ブレッドは気まずそうに視線を泳がせた。

「あー……すまん、俺も知らん。」

「は!?」

カイが驚いて言うと、ブレッドは申し訳なさそうに言う。

「いや、色々可能性は考えられるが、どうもしっくりこないんだよな。陛下は『お前以外の人間を下手にあの家に入れられん』とか言ったきり、それ以上説明してくれなんだ。」

「あの家に入れられない、って、どういうことなんだろ?」

一つだけ、思い当たる節がなくもない。だがそれでどうして人選がブレッドなのか甚だ不可解だったので、すぐに心の中で打ち消した。しかしながら勘のよいブレッドも、同じ結論を出していたらしい。

「……あの嬢ちゃん、何者だ?」

「え、えーと、チィさんのことですか?」

思わず動転して、カイの視線が泳ぐ。ブレッドはそんなカイをじっと観察しながら続ける。

「ああ。お前さんの妹弟子というわりに、お前さん以上にレント殿と親しいようだし、何より俺を毛嫌いしてる。」

「え!!よく気づきましたね!」

思わずぼろっと叫んでしまう。アズリルは、ブレッドの見ていないところで嫌悪の表情を顕しこそすれ、傍目から見ればそんな様子は微塵も感じることができない態度を取っている。……思えば幼い姿のチィの演技も、恐ろしいほどよくできていた。最近では彼女の笑顔が恐ろしい。

 「あー、……やっぱりなあ。」

そう言ってブレッドはがっくり肩を落とす。確信はしていなかったらしく、一種の鎌かけだったようだ。とはいえ……まあ、人に毛嫌いされて気持ちよい人間なんていないだろうから当然だろう。

「なんとなくそんな気はしてたんだよなあ。大体の女落とせる小技使っても、全く反応しないから、おかしいと思った。」

「なんですか、その大体の女落とせる小技って?」

単純に疑問に思ってカイが尋ねると、途端ブレッドはにやにやし始めた。

「お、色気づいたか?ま、お前さんなら下手に小技使うよりそのままのが受けはよさそうだな。」

「べ、別にいらないですよ、そんな技。そりゃ俺だって男ですから知りたくないわけじゃないですけど……。」

カイがまごつくほど、反比例してブレッドはにやつく。

「ま、その内奥義伝授してやるよ。お前さんも陛下に言わせりゃ、いい男になる素質あるらしいしな。」

「いい男っていえば……シーナ様って、どうしてあんな花屋で人気あるんすか?」

ブレッド自身も人気者で、行く道々女たちに声をかけられるのだが、声をかけた女の半数くらいが同様にシーナの様子を尋ね、明らかに女王に対しては熱っぽすぎる聞き方であった。

「あー……陛下のあの人気は異常だよなあ……。俺もあれには勝てん。」

しみじみ、呟く。

「文武両道才色兼備、十字傷なけりゃあ普通にお姫様やってても結構悪くない顔立ちだし、剣や武闘も強いが、言語はぺらぺら、楽器なんかも優雅に弾くらしい。ま、奏楽に関しては俺も直接耳にしたわけじゃないがな。王族だから魔法が全く使えないくらいで、欠点らしい欠点がない。

……何より女には無条件で優しいんだよ、陛下は。噂では十年前に死んだ幼馴染の影響らしいがな。」

「え……えっと、シーナ様の乳母子(めのとご)ってやつですか?」

動揺して名前言うのはまずいかと気を遣った結果、随分古臭い言い方をしてしまった。ブレッドも思わず吹き出し、笑う。

「乳母子ってなんだよ、乳母子って。」

「いや、乳兄弟ってのもあんま使う言葉じゃないからつい……。それでその幼馴染がどう影響してるんですか?」

会った時から、天然のタラシだとばかり思っていたのだが……。ブレッドは笑った。

「なんでも死んだ唯一無二の親友を全ての女に重ねて見てしまうんだと。ま、所詮は噂だけどな。」

「はは……そうっすよね。」

アズリルは死んでないのだから、やはり天然のタラシ決定だろう。そんなことを思いながら角を曲った瞬間、ブレッドとの距離が近づく。

「……さすがに……多いな。お前一番近い治安支部の場所わかっか?」

「えっと……まっすぐ行って右の方でしたっけ?」

「そんな感じだ。まあ叫んでりゃ誰か出てくっから。万が一はぐれたら真っすぐそこ駆けこめ。基本離れるなよ。」

「え――?」

聞き返す間もなく、ぬっと、人影が十人、いやもっといそうだ。暗がりから出てくる。……明らかに偶然はち合わせたわけではなさそうだった。ブレッドはさっと見渡し、相手を確認してカイを後ろ手にかばう。

「何の用だい?若い連中がこんな夜分に花屋にも行かず群れてるなんざ、感心できないねえ。」

男たちはにたついて、ブレッドとその後ろのカイを指差し何やら言う。……どうやらラカと違う言語域の人間らしい。言葉がわからない。じりじりと、群れが近寄る。

「そうか……なら……逃げるぞ!」

ぐい、と手が引っ張られ、考える間もなく、足が走りだす。途端連中も追ってくる。

 「え、ちょ、そっち!?」

カイの戸惑いに関係なく、ブレッドは最寄の治安支部に続く街灯の灯る道ではなく、暗がりに入る。……街灯の道の先に、似たような連中が見えた気がしたので間違いではないのだろう。

 しかしその思いはすぐ打ち消された。……辿り着いた先は、行き止まりの袋小路だった。

「お前さん魔法で照明弾打てるか?」

「……やってみます。」

最近はどたばたしていたせいで魔法の修行も進まず、空を飛ぶ以外の魔法は中々修得できていなかったのだが、やり方は知っていた。すぐさま杖を取り出し、ブレッドの背中を見つめながらイメージを練り始める。

 しかしカイの照明弾よりも先に、追手が追いついた。集中するために目をつぶったカイの耳に、剣戟が響く。

 すぐに、呻き声と血の臭い――。思わず目を開けると、ブレッドが屍を乗り越えてきた二人目を相手していた。

「――いっちょあがり!」

あっという間に一人目に二人目が被さる。……照明弾なんて必要なさそうな強さだ。

「坊主!何やってんだ!早く打ち上げろ!」

「はいっ!」

言われて再び目をつむりイメージを練りこむ。

「……テナハキトヲシルシノリカヒ!」

弱々しい明りが、それでもちゃんと上に撃ちあがった。……ブレッドはすでに自ら三人目を乗り越え、四人目を相手にしていた。

 と、激しい風が、ブレッドたちの側から吹き付ける。……おかしい、背後は壁なのに、そんなにも激しい風がどこから来るのか。

 そんなカイの訝しみと同時に、呻き声と叫び声が響く。すぐに、濃厚な血の臭いが漂ってきた。

「……お前の仕業か?」

足元で呻く人間を乗り越えて、戻ってきながらブレッドはカイに言った。カイはぶんぶんと首を振った。

 ……敵ながら幸いと言うべきか、ブレッドとカイを除く連中を襲ったカマイタチによって、死人は出なかったようだ。先にブレッドが切りつけた連中も、わざとだろう、急所を外していたらしく、気絶しているが死んではいない。それでも血の臭いとその光景に、カイは吐き気をもよおした。

「おいおい大丈夫か?ほら、好きなだけ吐いちまいな。」

カイの背中を、大きくごつごつした手がさする。……未消化の花屋で食べた豪華な食事の数々が戻される。その臭いが鼻に入り、また吐く。止まらない。

「……うわっ、なんだこれ……。おーい、照明弾撃った奴はいるかー?」

明りが、細い路地を照らした。

「こっちだ!ちょっと待ってくれ、今行く!」

カイの背中をさするのをやめ、ブレッドは明りの方へゆく。……その方がありがたい。あまり吐いているところを知らない人間に見られたいものではない。

「あ、ブレッド隊長!ってことはこの屍の山は隊長が……?」

「まさか、いくら俺でもこの短時間にこれだけの人数相手にできんさ。それより連中まだ生きてるからひっ捕らえて手当してやれ。」

「はっ!それにしてもこれ、どうやったんですか?いい切り口ばっかですよ。」

ブレッドも先ほど軽く様子を見て回った時に気がついた。……噂で鋭い風でそのような切り傷ができるものだと聞いていたが、ここまで切れ味のよいものだとは思っていなかった。

「魔法使い殿の仕業さ……。悪いんだが、連れが具合悪いんだ。明日改めて事情説明しに行くから、ここは任せてもいいか?」

「はっ!すぐに応援呼びます。隊長の護衛も付けましょうか?」

視線が、倒れているごろつきにゆく。……ブレッド狙いだと思われたらしい。苦笑して、ブレッドは首を振った。

「いや……今夜はこいつらだけだよ。なに、今の俺の寝どこはこっからそう遠くないんだ。すぐ無事に辿り着く。」

「はあ……ならよいのですが。」

尚も心配そうにブレッドを見上げていたが、それ以上言い募ることはしなかった。ブレッドの腕っ節の強さも知っていたし、ブレッドが奥から連れてきた具合の悪そうな小さな魔法使いの仕業であろうものも、目の当たりにしていたからだろう。さっさと治安隊に配布されている照明弾を飛ばして応援を呼び、他の隊員と一緒にその場の収拾を始めた。




 家に戻ると、ちょうどレントとアズリルも戻ったところだったらしく、送りの車が家を離れるところだった。呼び鈴を鳴らせば、すぐに扉が開く。

「……大丈夫か、二人とも?怪我はないか?」

心配そうに、特に具合の悪そうにしていたカイに視線を落とし、レントが尋ねる。

「さすが大魔法使い殿、もう事態を把握しておいでですか。……やはりあのカマイタチは大魔法使い殿が?」

「……ああ、そんなところだ。だが詳しいことはわかってない。……カイ、大丈夫か?」

「だいじょうぶっす。ちょっと気持ち悪いだけですから。俺、先上行って休ませてもらいます。」

それだけ言うと、挨拶もそこそこに寝室のある三階へとあがってゆく。レントは心配そうにその姿を見つめていたが、残って立ちっぱなしのブレッドに席に座るよう促す。

「大丈夫ですよ。初めてあれだけの血を見て、動転してるだけですから。」

「――死人も出たか?」

顔を顰めてレントが言うと、ブレッドは首を傾げた。

「死人は出てませんよ。さすがレント様の魔法だ。私は魔法についてはとんとわかりませんが、剣ではあんな短時間に死人を出さずに方をつけるのは不可能です。」

明らかに、胸をなでおろす。しかしながら顰め面が消えたわけではなかった。

「……何人くらい怪我をしたんだ?」

「十八人、でしたね。しかもどれも異人ばかりでしたよ。」

「異人だと?……ラカ貴族の仕業か。」

その溜息のような確信めいた言葉に、ブレッドも頷いた。

「ええ、王都であんな大勢で襲わせて捕まらないわけありませんからね。襲う方も王都にきたばかりの人間でなけりゃ承知せんでしょう。……その辺の事情を重々承知した上で、わざわざ異人をけしかけるのですから国内の人間でしょうな。」

「そうだな……。」

気を落とす、というよりは考え込む風情で、レントは黙りこむ。ブレッドは黙ってテーブルに置かれたココアを口にした。

 「……あいつを魔術学校に通わせてやろうと考えてたんだが、護衛は増やすべきだと思うか。」

全く予想外の質問だったが、少しばかり眉根を寄せただけで、ブレッドは即答した。

「増やすべきですね。――ただし、増やしたところで校内に入れるのはせいぜい二人か三人が限度でしょう。……魔法使いの連中はプライド高いですから。」

レントの顔に、苦い笑いが浮かぶ。

「――そうだな。魔法使いを一人、腕っ節立つのを二人、ってところか。その場合お前さんはどうすんだ?」

「そうですね、まあ校内の護衛は増員する人間に任せればいいでしょうから、校外の護衛に専念しますよ。」

「それが妥当か――。」

再び、考えこむ姿勢。……今度はブレッドがその沈黙を破った。

「襲撃犯については気にならないんですか。」

「ん?ああ、考えたところで意味がないからな。明らかに様子見るためだけの襲撃だし、俺が考えてわかることなら治安隊の捜査のが確実だろ。尻尾は出ないだろうがな。……増員する護衛に変なのを混ぜるつもりじゃないかだけ心配だ。」

「ああなるほど、そういう狙いだとも考えられますな。」

必要最低限以下の人間しか出入りさせてないレントに、襲撃して護りを強めさせ、密偵を潜り込ませる。……護衛の状況とカイの魔法の実力について探るための襲撃だとばかり思っていたが、そういう風にも考えられる、と気がつかされる。

「まあ本望でなくとも、むしろ本望でないのにこんな地位ついてりゃ命狙われて当たり前だからな。帰ってきて日の浅い俺に貴族の本音なんて見抜けるわけがない。黒幕の思惑なんざにかまってられんよ。」

「それもそうですな。……でも黒幕の見当くらいはついてるんじゃないですか?」

ブレッドが問うと、レントは軽く肩をすくめた。

「大雑把過ぎる見当ならあるにはあるが、まだ口にできるもんじゃない。手がかりが大してあるわけでなし、性急に解決すべきことでもないのに、下手に推測して広い視野見失うのは愚かだろう?願わくば、風の精霊の襲撃をカイ自身の魔法だと勘違いして、手出ししてくれなきゃいいんだがな。」

「風の精霊、ですか。」

……繰り返して言ってみたものの、魔法を全く扱えないブレッドはそれが普通の魔法とどう違うのかよくわかっていない。自らもココアをすすり、レントは続ける。

「……それも魔術学校通うならすぐにわかるだろうが。俺なんかの弟子になったばかりに、魔法に関してはあいつは大した進展をしてないからな。それでも、精霊扱えないラカの魔導師連中には得体のしれない魔法に思えるはずだがな。」

「あれがそんなにすごいものなんですか。」

いま一つ、ピンとこない。精霊だろうと普通の魔法だろうと、常人に見える結果は同じ気がする。レントはもう一口ココアをすすり、コップの中に描かれる渦に目を落とす。

「魔法使い当人の意思に関係なく発現する魔法は、魔法具によるものか精霊魔法のどちらかだけだが、精霊魔法なんざ扱える人間少な過ぎて実態について全く知られてない。……シャシーなら別だがな。シャシーでも精霊魔法を扱える人間は少ないが、精霊使いにとっては想像の難しくない魔法だ。」

「へえ、そんなに違うもんなんですか。ちなみに精霊魔法使える人間って、レント殿以外には誰がいるんです?」

一瞬、レントが微妙な表情を見せたが、すぐに消え、歴代の精霊魔法を扱える人間を頭に浮かべる。

「そうだな……百年前に書かれたテスラという隠者の研究によれば、初代国王ラカ一世もそうらしいが、その後王家に精霊使いが出てないところ見ると、どうも信憑性薄いな。」

「……現在生きてる中ではレント殿ただお一人、ということですかな?」

軽い驚きを持って尋ねると、レントは苦笑した。

「……わからんさ。魔導師連中の目に届く範囲にいれば、原理が知られてなくとも強大すぎる魔法だ。歴代の精霊魔法仕える連中は例外なく兵器扱いされてるしな。ズラード、オルゲン、ソノール……。魔法に興味なくても聞いたことくらいあるだろう?例外なく最強の魔法使いだ。そんなのが魔導師の目に届く範囲にいればすぐに名のある魔導師に仕立て上げられてるだろうが、そうでなけりゃいてもわからん。」

しかしながら魔法の才あれば魔導師の管轄である魔術学校に通うはずである。つまり魔導師の目に届かぬ範囲にそうそうそんな魔法使いがいるわけもなく……。はあっ、と思いっきり、ブレッドが息を吐く。

「つくづく、レント殿がシーナ様の味方でよかったですよ。

 ところでチィ殿のお姿が見えませんが、もうお休みに?」

途端、何やら複雑な表情になった。

「あー……多分な。」

「なんです?また喧嘩でもしたんですか?レント殿は執政官としては優秀だが、女の扱いは苦手と見える。」

くつくつと、ブレッドが笑う。レントはむっとしたが、何も言い返せず溜息を吐いた。……アズリルがブレッドを嫌っているらしいのが唯一の救いだった。

「……なに、なんのかんの言って喧嘩してる内は結局少なからず好意があるってことですよ。本当に嫌っていたら弟子入りなんてしないでしょう。」

「あー……だといいがな。」

溜息を、吐く。……ブレッドがシーナの命令でアズリルがここにいると知ったら、そうも言えないだろう。

 「お、綺麗な月だ――。」

ココアを手に見上げた月は、レントの気持ちを知ってか知らずか、嘲笑うかのような三日月だった。




 三日月はアズリルの部屋の開け放たれた窓からもよく見え、寝台に座る彼女を見下ろしていた。

「……」

誰かと何かを話しているのだが、レントやカイがこの部屋に入ったとしても、何も見えないし聞こえないだろう。

 アズリルの目には夜闇の色を纏い、黄色い月の光を少しだけ帯びた、風の精霊の姿が見えていた。

「……ジャスミンの花の香、それから恋人たちの甘い吐息――。」

手にした缶と、空っぽに見える瓶を、順ぐりに開けてやると、精霊は嬉しそうに漂う香りに身を浸す。

「ジャスミンはわかりますが、恋人たちの甘い吐息なんて何が嬉しいんですの?」

『あら、そりゃ言っちゃえば普通の人間の吐息と変わんないけどさ、なんかロマンティックでしょう?』

「これ集めるのいつも大変ですのよ。見たくもない他人の睦言覗いて、黒猫の体で瓶持つんですから。」

アズリルのそんな姿を想像したのか、くすくす笑いが風に響く。

『人間の恋人っておもしろいよね。私たち以上に気まぐれなんじゃない?』

「そうかもしれませんわね。なんだかんだ言って助けてくれたみたいですから。」

再び、くすくす笑いが響く。……ひどく上機嫌らしい。

『血の匂いってなんだか酔うじゃない?』

「あなた方はともかく、人間が血の匂いに酔うとしたらそれはもう変態ですわ。」

『変態!なんて素敵な言葉の響き!』

……まだ酔いが冷めていないのかもしれない。無限にくすくす笑いが続く。アズリルは吐きかけた溜息をすんでのところで抑えた。……溜息は風の精の最も嫌うものの一つであった。代わりに新しい瓶を取り出す。

「初めての舞踏会に参加するのでうっとりする女の子の溜息」

『あら素敵!いつでも人間の女の子は気まぐれよ。』

「最新の流行を生み出した少女の、愛する人を見つけた日家に帰ってからあげた歓声」

『まあなんて美味しそう!あの例の子でしょう?一昔前より今流行ってるのが私たちも好きよ。』

「他にも色々ありますわ。あなた方の気まぐれを紛らわす香りが。……やはり都の方があなた方のご希望に添いやすいですわね。」

『人間は気まぐれだもの。山は花や木のいい匂いで溢れてるけど、飽きちゃうんだ。』

「……あの子の守護の約束、飽きたからって放置しないようお願いいたします。」

くすくす笑いが響き、風が部屋を駆け抜けた。

『私たちは風、風の娘、時に猛り、時に優しく、何にも縛られず吹きぬける風、約束を違えるのも私たちの自由よ』

謳うようなその声は、そのまま窓の外へと吹き抜けてしまった。後には、ジャスミンのよい香りだけがほんのり残る。

 そこでやっとアズリルは溜息を吐いた。……風の精霊たちはどこにでもいる精霊で、一つに頼めばあっという間に近隣の風の精霊たちにも伝わり、気が向けば頼んだ精霊に関わらず手を貸してくれるのだが、気紛れなのが欠点だった。……もちろんそんな不安定な精霊の他にも、カイの守護に関して契約を結んでいる精霊はいる。今回彼らが動かなかったのなら、大した窮地でもなかったのだろう。

 そう説明しただけで、帰りの車で何故喧嘩に発展するのか。そういうことは前もって言っておけだの、他に何を護衛のために仕込んだのかなど五月蠅い。……シーナ様ならば説明しなくても、任せてくださるるのに、とつくづく思う。なんと器の小さな男だろう。

 ジャスミンの香りが漂う。――それでも、カイくらいには説明しとくべきだったかもしれない。彼は彼なりに忙しいとはいえ、それは家人のすべき家事やら何やらを自らの勉強と共にやっているためで、レントとは忙しさの質が違う。むしろ家を預かる者として、守られる対象として知っておく権利があったかもしれない。レントと違って、いくらでも話す暇も心づもりも見つけられたはずなのだから。

 「我が問いに答えよ、宿る場所の精霊たちよ――。」

暗い寝室が、急にざわめき出す――。

「あの男の動きは?」

『一度出た』『ずっと少年と一緒』『食事をしていた』『掃除をしていた』……

複数の声が一度に答える。……アズリルは必要な情報だけ拾い上げた。つまり、今日も特に変わった行動は取っていない、余計な詮索はしていない、ということだ。

「訪問者は?」

『いない』『住んでる人間』『四人』『小鳥が三羽』『風』……

こちらも特に変わった点はないようだった。アズリルは一息吐き、言った。

「他に何か気付いたことは?」

『暖かくなってきた』『つばめが飛んでいた』『乾いた風だった』……

自然に関することばかりで、特に気を引く報告はなかった。

「わかりましたわ。――引き続き、我が宿りを構成し、見届け、宿る者たちを守護せよ――。」

次第に、ざわめきが消えてゆく。……実のところアズリルが耳を傾ければいつでもそのざわめきは聞こえるのだが、人工物に宿る精霊たちの雑多な集まりのため、こうして魔法で細工しなければはっきりとした声を聞き取ることは難しい。それでもこの家に宿る精霊たちは、年季が入っていて強力な方だった。……館にまつわるいわくも、案外精霊の声を無意識に聞いたところから出たものではないかと思う。修行を積んでいない普通の人間でも、眠っている時など精霊により近い状態になると、稀にその声が聞こえる。夢はそうやって聞こえた精霊たちの声を無意識に心に反映してできるのだと言う。

「……ふあぁ……」

欠伸が出た。疲れているのだろう。明日も早い。……手早く化粧を落とし、寝巻きに着替える。シーナ様も、もう眠りに着いたかしら――。ジャスミンの残り香を抱き、精霊のざわめきに囲まれて眠りについた。

道「ちわーっす、道化です。」

軍「なにサ○エさんの酒屋さんみたいな挨拶してんのよ?」

道「いやあ、君にあまりにマンネリ言われるから工夫してみたよ☆」

軍「はいはい、今日は言伝もあることだしさっさと終わらせましょう。」

道「えー、もうちょっとゆっくり楽しもうよ?主様ぬきでせっかく君と二人っきりだってのに。」

軍「読者がいるから二人っきりじゃないわ。」

道「え、ドクシャ?なにそれ?美味しいの?」

軍「あんたも作者も主様を見習ってもっと読者を大事になさい。」

道「いやいや、だからそれ言っちゃうとさあ……。まあいいけど。」

軍「ほんと中途半端な男ね。用件を伝えるわ。『とりあえず予約投稿ここまで。ちょっと時間ある時にまたまとめて予約投稿したいけど今週から忙しそうで体力的に厳しいかも……。ほどほどにがんばります。』」

道「あいかわらずのダメ人間だねえ。しかも今週から、って読者読む頃には先週だよ?わかってないなー。」

軍「ほんとね。さ、用事も済んだし帰るわよ。」

道「えー、だからもうちょっと……ってもういないでやんの。ちぇー。あ、そうだ僕からも。このコーナーで登場させてほしいキャラクターとかいたらどしどし希望してみてちょ☆なるべく期待にそう、ってさ☆あ、もちろん他の人の作品キャラクターは勝手に登場させられないけど、まあ、それはないか。

じゃあ、またみんな、元気でね☆」

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