第6話 噂の真相
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食事が終り、マクシミリアン様の顔もやや元に戻ったところでこの店のオーナーらしき人物が出てきた。
その人物は、男性なのだが何処かで見た顔をしていた。思い出せず苦しんでいるとその人物が国王様に挨拶をされた。と、その声でピンと思い出した。学園の声楽の女性講師の顔にやや似ている。声も若干低いが、喋り方が似ている気がするのだ。きっと、親戚かなにかだろう。
「ホールを借りてもよいか?」
「はい。宮廷楽士をお連れになっていられるので?」
「いや、彼女に歌ってもらうつもりだ。マイルズに楽器を担当してもらう。良いな。」
僕をこの店に連れてきた男性がマイルズという名前なのだろう。
「はっ、お耳汚しでございますが。」
「マイルズ様が弾かれるのですか?私もご相伴に預かってもよろしいでしょうか?」
「かまわん。」
「ありがとうございます。」
僕がおさらいをしたポピュラーな曲名を告げるとマクシミリアン様も頷き、マイルズさんも頷いた。
楽器は、店に置いてある弦楽器を使うようだ。あれなら、いつも母が使う楽器だから、歌いやすい。曲が始まり驚いた。母よりも随分、楽器の腕が上なのだ。これなら、この店のオーナーが聞きたがるのも頷ける。
僕が歌い踊りだすと今度は、この店のオーナーが目を見張っていた。きっと、たいしたことのない声だと思っていたのだろう。
続けて3曲が終ると案の定、アンコールが掛かる。しかし、これ以上は、おさらいをしていない。昨日歌った曲ならあるが、きっと、弾けないだろう。家の娼館のみで歌われている曲だからだ。
僕がそうマクシミリアン様に伝えると今度は、マクシミリアン様が弾くらしい。先ほどのマイルズさんには、劣るもののマクシミリアン様もかなりの腕前だ。母は足元にも及ばない。
でも、この曲が弾けるくらい家の娼館に通いつめた結果であることは明白だ。やはり、思ったとおりのエロおやじらしい。
・・・・・・・
「き・きさま、その声楽法は、誰に習った!」
マクシミリアン様が席を外した隙に、この店のオーナーにいきなり、詰め寄られた。マイルズさんも同行したようでオーナーとふたりっきりだ。
何のことかさっぱりわからない僕は、悲鳴を挙げた。
「お前、なにをしているか!」
悲鳴に反応したのだろう。マクシミリアン様が駆けつけてくださり、僕を庇うようにして剣の切っ先を相手に向けている。いや、うっすらと頬の一部が切れているようだ。
「俺の客とわかっての狼藉、許しがたし!」
「マクシミリアン様、私は、なにもされていません。剣をお下げくださいませ!」
確かに助かった。だが、マクシミリアン様が剣を抜くと思わなかったのだ。僕は、必死に後ろから止める。僕のせいで刃傷沙汰など見たくないからだ。
「そうか。マムがそういうなら、この場は、引こう。だがなぜ、マムに詰め寄ったのだ。マムがなにかしたわけでもあるまい。この店は、ウォーレス伯爵家所有のはず、お主名前はなんと申す。」
「はい。ウォーレス伯爵第5子ロブでございます。」
「もう一度問う。マムに詰め寄った訳を申せ、ふざけた内容なら処罰するぞ。」
「はっ。先ほど、お聞かせ頂いたマム様の歌い方で、私の母方においては門外不出の声楽法を取り入れられておりました。」
「そんなことか。わかった。マムよ、心当たりがあるか?」
「はいぃ。私の師がおそらく、そちらの家系のどなたかにご教授頂いたと思いますぅ。」
「まあ、そんなところだろうな。マム、ロブにお主の師を教えてやれ!」
「娼館『チェリーハウス』のご子息、ユーティー様にございますぅ。」
「ユーティーは、王立学園に通っているそうだ。おそらく、そこの講師に習ったのだろう。ロブ、なにか心当たりがあるのでは、ないか?」
意外と僕のことをマクシミリアンが詳しく知っているようだ。まさか、マムが僕だと知っていてからかっているのだろうか。いくらなんでも、それは、飛躍しすぎか。きっと、母から聞いたのだろう。
きっと、娼館の息子が王立学園に居るとは思わなかったのだろう。ロブさんは、少し驚いた顔をした後、その場に膝付いた。
「申し訳ありません。私の心得違いでございました。お許しください。」
「謝る相手が違う。マムに謝れ!私の客に非礼をした場合の謝り方は、知っておろうな。」
「はっ。」
噂は、本当だった。マクシミリアン様のご友人がどんな身分の方であれ、謝る側が貴族であっても、土下座を強要するという噂は、本当だったのだ。
伯爵家第5子ならば、将来は子爵か男爵を就爵するだろう。その貴族が、目の前で土下座で謝っているのである。
しかも噂では、土下座をしなかった貴族の爵位を取り上げる処罰や処刑された例もあるというのだ。
「あと、わかっておると思うが、今後、このマムやユーティーに対し、なんらかの行いをしたことがわかった場合、伯爵家にも被害が及ぶぞ。」
マクシミリアン様は、普段温厚なのだが、こと自分が大切にしている人間に対する非道に対しては、沸点が低いらしい。僕も気を付けなくては・・・。これは、絶対に明日には、マムが居なくなる必要がありそうだ。いや、マムがいなくなったら、僕や母が処罰を受けるのか?
ああ、いったいどうすれば・・・。




