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第55話 アスター子爵夫人という人間

お読み頂きましてありがとうございます。


本日2話目です。

 僕がその場で立ち尽くしていると肩を叩く人間が居た。


「どうした。ユーティー君。」


 目の前には、女装したリラ様が居た。いや普段着なのか。想像もしていなかった姿に思わず硬直する。


「ああ、この姿か。尾行するには、うってつけなんだよ。普段礼服や鎧姿だからこの姿になるとただの地味な女性にしか見えないらしくってな。・・・君の尾行も簡単だったよ。」


 たしかにあの馬車から離れるとき、近衛師団の鎧姿や制服、そしてリラ様の礼服姿をそれとなく注意しながら、離れたのだ。まさか、リラ様が女装しているとは、想像も付かなかったと言おうか想像以上と言おうか・・・。


 僕は、ここまでリラ様に付けられていたらしい。しかも、肩を叩かれるまで気づかなかったのだ。なんて間抜けなんだ。ということは、誘拐騒ぎに僕が関与していると思われているのか?


「ああ、ごめんごめん。そんなに警戒しなくても大丈夫だ。フローラから全て聞いて知っているんだ。ユーティー・・・いや、マムちゃん。」


 ・・・・・  がーーん。 ・・・ いや僕がショックをうけることじゃないのか?


 なんだ。なんだ。なんだ。今までの全てお芝居だったのか。


 思いっきり頭の中がクエスチョンマークだらけになって混乱する。


「いいのか?娼館から離れたこんな場所に来るということは、何かあったんだろう。昨夜からおかしいってフローラにもバレていたぞ。だから、私が付けられたんだが・・・。」


 僕はもう諦めて、全てを話してしまった。ロビン先生が誘拐されたこと、そして、手紙を母の元に置いてきたこと・・・。


「わかった。今から変身するんだね。わかった。知り合いの家が近くにある。そこへ連れて行こう。大丈夫だ。君も知っている人物だ。」


 そうして連れて行かれた家で出迎えてくれたのは、アスター子爵夫人だった。


「いらっしゃい。ユーティー君だったわね。」


「よろしくお願いします。」


「すまん。姿見があるところへ連れてってくれ。」


「はいはい。それにしても珍しい姿ね。何十年ぶりかしら、その姿。貴女が後宮に入ってきたときだから、三十年ぶり?」


「うるさい。二十八年前だよ。」


「あのときは、地味な女が入ってきたもんだと思ったけど・・・ある意味、先王の一番近しい位置を占めるとは思わなかったものね。」


「もういいだろう。さっさと連れてけよ。時間が無いんだ。」


「はいはい。では、こちらにいらっしゃい。」


 夫人が鏡の前に案内してくれる。だが、その場を離れずジッと僕の方を見ているのだ。


「ああ。夫人も知っているから大丈夫だよ。さあ着替えて着替えて。」


 えっ。この人も知っているんだ。


 でも、この間お会いしたときは知らない様子だったけどなあ。


「ああ、もちろん教えたのは、最近だけどね。」


 僕の顔が疑問だらけに見えたのだろう。すこし補足してくれた。まだまだ疑問だらけだったが、今はロビン先生を助けに行くことが優先だ。


 僕は覚悟を決め、化粧道具を手に変身を施していく。そして、カツラを被り、櫛を入れて少し調整すれば終わりだ。


 ほおーー。ほおー。


 2つの溜息が聞こえてくる。


「やっぱり、似てるわね。」


「でしょう?」


 きっと皇后さまのことなんだろう。


「では、行きましょう。」


 道具はそのまま、この家に置かしてもらうことにする。


 そのまま、夫人も付いてくるらしい。


「いいのよ。今日の報酬に少しだけ、見逃してあげてくれない?」


 リラ様は、また謎の言葉を吐いてくる。まったく、訳がわからない。


 とにかく、行くしかないんだ。



・・・・・・・



 僕がその家の門に入ろうとすると、リラ様に静止させられた。



 どうやら、先に子爵夫人の出番のようだ。



 子爵夫人が門をどうどうと入っていく。そして、玄関の前でなにかを言い合いをしているようだ。


 パン。


 大きな頬を張り倒す音が聞こえてきたかと思うと、夫人よりも大きな男性の耳を引っ張りながら出てきたのだ。


「どういうことママ!なんで、この女がここに居るんだ。こんな女たちのお陰でママが苦労したんだろ!」


「違うわ。違うのよ。私は、辞退したのよ。私の後援者だった侯爵家は、あんな酷いことをしておいて誰も謝らなかった。だから、替わりに私がマクシミリアン様に謝りに行ったの。マクシミリアン様と王は言って下さったわ。私に侯爵家を継いでほしいと。」


「えっ・・・なんで・・・どうして・・・?」


「そう・・・でも、断ったの。そんなことできる訳ないじゃないの。私の身内は酷い人間ばかり悪いことをしても謝りもしない。そんな中で私が侯爵家を継げば、そんな酷い人間が大手を振って貴族のままで居られるのよ。そんなバカな話は無いわ。」


 子爵夫人が血を吐くように叫ぶ。


「だから、謝りなさい。この場で土下座してマム様に謝るのよ。わかった?それしかもう道は無いの。できなければ、この場で私が殺してあげる。」


 そう言って子爵夫人が短剣を取り出す。そういうことなんだ。やっとリラ様の言葉が解かった。子爵夫人の子供をこの場から遠ざける。それを見逃してあげてほしいということだったのだ。


「わー。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさーい。」


 その男・・・夫人の子供なのだろう。なりふり構わず、土下座して謝ってくれた。


「わかりました。許します。それで、中には何人の人が居るのですか?」


 その男は、全て洗いざらい話してくれる。ロビン先生は、奥の部屋で捕まっているらしい。


「では夫人、手はず通りお願いしますね。」


「近衛師団の隊員たちが来ればここまで案内すればいいのね。わかったわ。」


真実はそんなことだった。


書きながら思わず泣いてしまうところだった。

そんな設定など無かったのに、なぜかふっと湧いてストンと嵌りました。


不思議だよね。小説を書くって。

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