第54話 誘拐
お読み頂きましてありがとうございます。
さて、いよいよクライマックス。
とりあえず、2話更新。
アマーリエ様のお輿入れの日が近づくたび、僕の周囲の警備も厳重さが増してきた。ユーティーの姿の僕が王立学園の行き来することにさえ、近衛師団の護衛が付くほどだった。
そんなふうだったからこそ相手は、こんな手段を使ったのだろう。
本当はお輿入れの日が学園で半年に1回の騎士の競技会がある日だったのだが、皆楽しみは分けて味わいたいのか。その前日に行われた。
もちろん、アマーリエ様が居ないためかケイは優勝した。その決勝戦の前に、僕に近づいてきた人物がいたのだ。
本当は、学園内に一般人が出入りするので護衛対象である僕を学園に来させたくはなかったのだろうが、近衛師団が全面協力するこのイベントであることで間近での護衛ではなく、競技会本部での護衛となった。
決勝戦を前に催したので、本部に居た近衛師団の団員に話をしてトイレに向かったところだった。小便器を前に致しているところ、頭を捕まれ強引に手紙を渡されたのだ。
宛て名は、マム宛だったが僕はその場で開封する。
その手紙には、とんでもないことが記述されていた。
『君は、ウォーレス伯爵第5子ロブという恋人が有りながら、国王も篭絡する悪女だ。この国の妃には相応しくない。そこで君の恋人を預かった。返してほしくば下記のところへ1人で来ること。』
手紙には、地図が詳細に記されていた。土地柄から言うと貴族街の外れにあるようだ。期限は明日までのようだ。
すぐにでも駆けつけたいがマムが行かなければ、ロビン先生を解放してくれないどころか殺されてしまうかもしれない。
しかも、僕が動いても護衛たちがぞろぞろと付いてくるのだ。このまま、家に戻って着替えてもマムの姿では、出歩くことさえ禁じられている状態なのだ。
いったいどうすれば・・・。そうだ、明日の誘拐騒ぎを利用させてもらおう。近衛師団の隊員たちが捜索をしている隙に変身道具一式を持って、抜け出せばいいんだ。しかも、馬車でお輿入れを見に行く場所にも近い。
あとはユーティーの姿からマムの姿に戻るときに母の部屋の机の上において置けば、きっと後で駆けつけてくれるに違いない。
僕が潜入して事態を理解した母が娼館の護衛たちと共に駆けつけてくれるまでの暫くの間さえ持たせることができたなら、こちらの勝ちだ。
・・・・・・・
「どうしたのマムちゃん。今日の君は、何処かに飛んで行ってしまいそうなくらい儚げだ。」
ケイの騎士の競技会のご褒美は、またマムとの会話を選択した。もったいない。もちろんマーガレットは居ないが選び放題なのに・・・。
僕は段々と1人で敵の牙城に向かうことに覚悟を決めつつあったのだ。
そう、相手はどんな強敵なのかもわからないし、どれだけの人数を揃えているかも解からないんだ。こんな小娘に対し、そんな大勢を揃えてきていると思いたくはないが楽観できる状態では無い。
それでも、僕はそこが死地だろうと赴かなくてはならないのだ。
そんな思いに没頭するあまり、ケイに見破られたみたいだ。
「そんなことないですぅ。ケイ様こそ競技会のほうは、どうでしたのぉ?」
ケイの勇姿は、間近でみたのだが優勝できたのが不思議なくらい冴えなかったのだ。
「ユーティーになにか聞いちゃったかな。学校でのライバルが居なくなって、寂しいと言おうかホッとしたと言おうか・・・。なんか張り合いが無くなってしまってね。」
「アマーリエ様のことですねぇ。あの方のことですからぁ、王宮に赴けばきっとぉ、訓練に付き合えと仰いますよ。」
「アマーリエ様のこと良くわかっているんだね。そういえば、戦場で一緒に戦ったんだよね。どうだった彼女の戦いぶりは・・・。」
「暗殺者なんか捻り潰してくださいましたわぁ。」
強いことは強かったけど誰かを守りながら戦うのは、苦手そうだったな。戦場でのことに思いを耽っているとなにかを勘違いしたのだろう。
「ご、ごめん。ショックだったよね。ごめんね。」
ショックを受けたことを思い出しているのだろうと誤解したようだ。
「ううん、いいのぉ。あのときは幸せを貰いすぎただけよぉ。だから、あんな目にあった。だから、これ以上何もいらないって言いたいんだけどねぇ。欲張りなの私ってぇ。」
そう、これ以上ないような幸せな時だった。マムになって・・・。でも、ロビン先生の命だけは、取り戻さないとな。
こんなことを言ったらロビン先生に怒られるかもしれないけど、自分の命を犠牲にしてでも、ロビン先生のことは守り通す。そうきめたのだ。
「マムちゃん、好きだよ。その儚げだけど芯があるっていうかな。そんなところが俺は好きだ。俺にできることなら、何でも言ってほしい。」
なにか悩んでいるふうに取られてしまったみたいだ。まあ、マムのお輿入れの日も決っているから、そんなふうに捉えられたのかもしれないけど・・・。
正解。だけど、ケイを巻き込むわけにいかない。ケイの純情も踏みにじっている。僕は本当に悪女だな。どうも、ケイに全てをバレることを恐れているらしい。
「大丈夫よ。大丈夫。」
・・・・・・・
「では、お願いしますぅ。」
打ち合わせ通り、ユーティーの姿で一度抜け出しマムに変身して馬車に乗り込んだ。
もちろん例の手紙は、母の机の上だ。
変身道具一式は、もう馬車に積んである。
それで目標地点に到着後、騒ぎを起す。ここまで計画通りだ。僕はその隙に紛れ、変身道具一式を持って抜け出した。
しばらく、目的地に向かってあるきながら、この計画に穴があったことがはっきり解かったのだ。
変身する場所が無い。
途中、大きな商店があったのでその辺りでトイレを借りて、変身しようと思っていたのだ。だが、商店の主もアマーリエ様をひと目みようと店を閉めていたのだ。
十数店舗が並ぶ街なのに、ことごとく閉まっているのだ。
覚悟を決めたユーティーだったが思わぬところで躓いてしまった。
さあ、どうする。




