第53話 旅立ち
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2話目です。
「そうですかぁ?それは、寂しくなってしまいますぅ。」
アマーリエ様がわざわざ、挨拶に立ち寄ってくださったのだ。
アマーリエ様は、マクシミリアン様へのお輿入れが正式に決まり、その準備をするために自分の国に戻るのだという。
敵の捕虜と交換に両国のモノとなった鉱山の引渡しのため、派遣されることとなった伯爵の部隊と同行し、国境付近でルム国の部隊と合流し、引き渡されたのを確認することを最後にルム国王女としての役目が終るそうである。
その後、ルム国の一部部隊と共に、国に戻り支度を整えお輿入れのご一行として再びエル国へやってくるのだということだった。
「では、3人の結婚式でお会いしましょう。」
そうなのだ。マクシミリアン様とアマーリエ様だけでなく、僕も一緒に結婚式をあげる予定が組まれているのだ。
母さんもまだ正式に返事をしていないにも関わらず、勝手にドンドン話が進んでいく。
もう失踪するしかないのか?
いや、ダメだ。失踪なんかしたら、マクシミリアン様のことだ。母さんもなんらかの咎めを受けるだろうし、娼館が潰されてしまう。
母さんの言うとおり、このまま一生後宮で軟禁されるしかないのか?
いったい。どうしたらいいんだ。
「伯爵様も無事のご帰還をお待ち申しております。」
「もちろんだとも、たとえ相手があ奴だとしても、マム様の花嫁姿を見るまで死にはせぬ。安心してくだされ。」
それ全然、安心じゃないですけど・・・。なんて言えないので、微笑みかけておく。
・・・・・・・
「うーん。そうねぇ。誘拐されたことにすれば?失踪じゃなくて誘拐なら、咎めを受けなくて済むと思うの。」
「それって、母さんの演技力に掛かってくると思うけど、大丈夫なの?」
母さんは、演技することが得意のタイプではない。夜の世界の住人のくせに嘘をつくのも難しいというタイプだ。嘘泣きなんてバレバレすぎて・・・見るに耐えなかったりするのだ。
「大丈夫よ。」
母さんは、いとも簡単に言う。
「時期は、いつにするの?」
不安は残るが母さんの言うとおりにするしかないようだ。
「そうねぇ。アマーリエ様のお輿入れが王都に来るタイミングなんてどうかしら。」
それならば、確かに僕の周りは、手薄になるに違いない。
「でも、うまく信じてくれるかなあ?」
「それならば、大丈夫よ。ちょうど、そんな脅迫状も沢山来てるしね。」
母さんは、そう言って手紙を見せてくれる。
今は、近衛師団の一部が配備され娼館の警備が手厚くなっているので娼婦たちに危害が加えられていないけど、母さんも含め娼婦たちにも危害を匂わすような手紙もなかには、あるのだ。
もちろん、危害を加えると宣言されているトップは、マムだ。単なる嫌がらせのような、手紙も多いがどれが何処まで本気なのか手紙からは、全くわからない。
マムとして外出するときは、リラ様もいっしょだから、意外と怖い思いをしていなかったが、こんなに沢山の脅迫状が送られてきているのだな。
と思うと背中がゾクゾクっとしている。このまま、マムを続けるということは、常に命を狙われることに繋がるのだ。なんとしても、この機会にマムに消えてもらうしかないようだ。
・・・・・・・
娼館の護衛たちとも綿密な打ち合わせをした結果。誘拐の手はずは、以下の通りになった。
まず、マムのわがままでアマーリエ様のお輿入れの行列を見に行きたいと言い出す。
そして、娼館でどこからか借りてきた馬車に近衛師団の隊員たちが見ている前で僕・・・ユーティーが先に乗り込む。
馬車には、からくりがあり抜け出せるようになっており、そこから僕が抜け出して、マムに化けて乗り込む。
そして、行列に到着する前にユーティーに戻って、猿轡や縛られたようなフリをして馬車から僕が助けを求めるという手はずだ。
近衛師団の隊員たちは、走り回ることになるだろう。当然僕には、警護など付かないはずなので、証拠隠滅も簡単に済むはずだ。
あとは、そんな馬車があるのかというと大昔に作ったものが倉庫に眠っていたのだという。昔トップ娼婦が居たころに、2人のお客さまにどうしてもダブルブッキングがあり、馬車を乗り換える手段として使っていたという話だった。
・・・・・・・
翌日、ロビン先生の教室にこの手はずを知らせに行くと先生は、休みだった。
まさか、これがあの大事件が起こる前兆だとその時は、全く思いもしなかったのだった。
次章が最終章です。
いったいどんな運命がマムに待ち受けているのか。お楽しみに。




