第51話 夫人の影
お読み頂きましてありがとうございます。
2話目です。
今日は、ウォーレス伯爵に食事に招かれた。ここもロビン先生が所有するレストランの1つで今日も、ロブの姿で切り盛りしているのが見られた。
「これはこれは、アスター子爵夫人、ようこそいらっしゃいました。」
えっ。
入り口に背を向けているせいで姿は、見えないがロビン先生と挨拶している声を聞いたかぎり、たしかにあの御婦人のようだった。
そして、どうやら隣の席についたらしい。
「おう。アスター子爵夫人。久しぶりだ。子爵は、ご健在かな。」
ウォーレス伯爵は、御婦人の知り合いみたいだ。
「ええ、あの人も60歳になろうというのに、領地で精を出しておりますわ。つい先日も、今年の羊毛は、最高の出来だとか申しておりましたわ。」
「アスター子爵家の羊毛製品は、すばらしいからな。」
「あら、そちらの可愛らしい方を紹介して頂けます?」
「楽士のマム君だ。いつも、素晴らしい歌声を聞かせて貰っている。」
僕は、慌てて席を立ち、恭しくお辞儀をする。
「あら本当に可愛らしい方ね。この子は、末っ子のダニエルよ。ほら挨拶して。」
はっきり言って怖い。どんな言葉が帰ってくるのかとビクビクして待っていると意外なことに優しい言葉が帰って来たのだ。
「ぼ、ぼく、ダニエル。・・・ねえねえママ、本当に可愛い。お人形さんみたい。」
挨拶そっちのけで御婦人とお喋りをしている。僕と同じくらいの年齢なのに、おどおどしてあまり格好良くない。
「私は、マムよ。娼館『チェリーハウス』で楽士をしているのぉ。よろしくねぇ。」
そうにっこりと微笑む。
「ママ、声も可愛いよ。鈴の音みたい。」
褒められているようだが、あくまで会話は、御婦人なのだ。貴族のこの年齢の子供は、これくらいなのかもしれないな。庶民や下級貴族の子供では、ありえないが・・・。
「ごめんなさいね。ご挨拶のできない子で・・・。でも、マムちゃんって・・・あの?」
「ああ私は、この娘を立派な声楽家に育て上げたいんだが、陛下がな。どうしてもと。」
「マムちゃん?貴女はどう思っているの?後宮は、怖いところよ。」
「あのっ・・・。」
「大丈夫よ。正直に言っても・・・。」
言ってもいいのだろうか。でもここで発言することでいいように捉えられかねない。
「マム君は、娼館のオーナーに恩があるそうで、出来れば楽士として返したいそうだ。」
横から伯爵が助け舟をだしてくれた。ああ、助かった。
「はい。その通りですぅ。」
僕は、そのまま肯定するだけにした。
「陛下が無理を言っているのね。あの方も困ったものだわ。」
「もうどうすればいいか。解からなくて。」
つい思わず本音をポロっと零してしまった。
「解かったわ。私は、貴女の味方になってあげる。あんな奴ぶっ飛ばせばいいのよ。」
またもや、意外な言葉が返ってきた。
なんなのだろう。この人は、僕のことを悪く思っていたのじゃなかったのか?
それとも、なにか裏があるのだろうか。この笑顔の裏に。余り考えたくはないが用心にこしたことはないだろう。
僕は、その言葉に苦笑いで返す。
「ごめんなさい。貴女の立場じゃ、無理よね。では貴女、子爵家に嫁に来ない?この子の上にまだ片付いていないのが居るのよ。」
「えーっ。ぼくに頂戴よ。ママ。」
「それとも、誰か好きな人がいるの?」
僕は、思わず視線を伯爵から、傍に控えているロブに移す。
「あらそうなの?ここのオーナーってことは、伯爵家の方よね。」
夫人は、その視線で気づいたようだ。ロビン先生のほうに向かって言う。
「はい。第5子ロブでございます。」
「ダニエル。諦めなさい。伯爵家では、勝てないわ。それにこんなイケメン・・・。」
「えー。そんなあ。」
・・・・・・・
「はっはっはっ。そうかマム様は、ロブのことが好きだったのか。つくづく、王家の人間は・・・。あっ・・・と。」
「伯爵様。リラ様のことでしたら、知っています。」
「そうか。そうだなリラ様が喋らないわけがない。あれだけ、開けっぴろげな方もめずらしいんだが。」
「すみません。ロブ様を使ってしまって・・・。ロブ様のことは、大好きですけど。そういう意味では、ないですから。」
いつまでも笑っている伯爵に釘を刺す。
「ならば、ロブの演奏で1曲お願いするかな。」
僕の言うことを無視して、伯爵がお願いしてきた。仲睦まじいところを見せ付けろといった感じか。
そこで1曲だけとは、言わず5曲も歌った。先生の演奏は、学園で散々やっているのでピッタリだった。もちろん、演奏するロブに絡む姿も見せ、伯爵はおおいに喜んでくれた。
今日は、これで終わりです。
前話と正反対な展開。怪しいですよね。二重の意味で(笑)




