第47話 モノホン
お読み頂きましてありがとうございます。
今週は2話更新です。1話目。
「へえ、だから、リラが送ってきたのね。」
「母さん、リラ様を知っているの?」
「何を言っているの。この子ったら、でも、覚えていないか。ユーティーが子供のころによく遊びにいらっしゃてたでしょう。そうねぇ、今日のような鎧姿ではなくて、制服を着ていたからね。」
なんか、思い出しかけたような・・・。もしかして。
「もしかして、いつも、ゴディゾフのケーキを差し入れてくれるお兄さん?」
「お姉さんなんだけどね。お兄さんにしか見えないだろうけど。でも、あれは、迷惑料代わりだったのよ。」
「迷惑料?」
「そうよ。うちの娼婦たちにまで、手を出す始末でね。ぽぅ・・・となって、仕事ができなくなった娘がいったいどれだけいたか。」
そう言って、母さんは溜息をつく。
わー。
あれは、冗談じゃなかったんだ。
モノホン???
「あなたも、ぽぅ・・・として、正体を知られないでちょうだいね。」
「大丈夫だよ。僕は、ノーマルだもの。女性がいい・・・ってあのひと、女性だっけ。」
もう、ややこしいったらないな。まあ、大丈夫だろう。僕の好きな女性は、ロビン先生だもの。
・・・・・・・
「さっきから、うるさい、何様なんだ。貴様は。」
翌日からマムとして遠方に外出するときは、リラ様が護衛に付いてきた。近場の場合は、娼館の護衛たちが送り迎えすることで話はついている。流石に四六時中、傍に居られては、マムのことがバレてしまうだろうからだ。
もちろん、二胡のおけいこもその一環だったのだが・・・。
護衛が女性だということで、問題なく同じ部屋まで付いてきたのだが、僕が間違う度に、リバー先輩の叱責と指導と共に、リラ様が手取り足取り教えてくれるのだ。
「あら、なにか間違ってて?」
「ぐっ。」
リラ様も二胡については、かなりの腕前らしく。その指導方法も、リバー先輩以上に的確なのだ。
「あんな指導をしていたのでは、生徒さんに逃げられましてよ。」
「・・・・・。」
さんざん今まで逃げられてきた経験をしてきたのだから、黙り込んでしまうしかないようだ。
「あら、もう逃げられてしまってたようね。ごめんあそばせ。」
「マムちゃんのためには、俺が教えるのがいいんだ。あんたがどれだけの腕前か知らないが、マムちゃんは、師範代、いやそれ以上になる逸材だ。素人には、任せておけない。」
どうやら、その言葉が、リラ様の琴線に触れたらしい。
「では、勝負しましょう。どちらがマムに教えるのに相応しいかどうか。」
「やめてくださいぃ。」
「マムちゃんは、黙っててくれ!家元の息子としては、負けられないんだ。どんな勝負でもう受けようではないか。」
「そうねえ。じゃあ、正確性でいきましょう。『エルムの涙』にしましょう。」
「なに。あんたにそれが弾けるのか?」
『エルムの涙』というのは、昔、エル国とルム国が同じ国だったときに後宮に入った側室の物語だ。全3節からなり、全て弾くと2時間にも及ぶ大曲なのだ。
元々、ドウガ流もウィロー流も1つだったころから、家元の就任の際には、必ず弾かれる曲で、その良し悪しで当代の家元の技量が解かってしまうという過酷な曲でもあるのだ。
「えっ。弾けないの?」
もしかすると、次期家元といえど就任するのは、現家元が引退するときだ。あと何十年も先の話だから、リバー先輩といえどそれほど練り上げていないかもしれない。
「バカにするな。よしっ。俺様の完璧な技巧を聞いて驚くなよ。では、どちらからいく。」
「まあまあ、慌てないで。そうねえ。第3節を同時に弾きましょう。外したら、一発でわかるでしょう?」
「わかった。二胡は、好きなのを使ってもらってかまわない。」
「そう。じゃ、待っててね。」
リラ様は、そう言うと部屋を出て行くとしばらくして戻って来た。
「これで、弾くわ。少しウォーミングアップさせてね。」
そういって、今まで僕が習っていた曲を弾き出す。
すごい。僕が弾いていた二胡とリバー先輩の二胡とも全く違う。技巧も凄いが、その楽器の音色が全く違うのだ。
「おい!それをどこから、持ってきた。」
「一番奥の部屋のオジさんに言ったら、貸してくれたわよ。」
一番奥の部屋というと家元の部屋だ。
「おい親父!ソコに居るんだろ!」
「なんだ。バレていたのか。」
そう言って家元が出てくる。
「コレって、親父の演奏会用のだろ。なんてものを貸してくれるんだ。誰の味方なんだ。」
「もちろん、綺麗な女性の味方だよ。知ってるだろう。」
「ちっ。これだよ。それで、俺は、どれで弾けばいいんだ。」
「技巧の勝負なんだろ。手馴れたやつで弾けば勝てるぞ。」
「バカか?勝負に勝って、演奏で負けたら、どうするんだ。出せよ!その後ろ手に持ってきている二胡を。」
「コレか。これで弾くのか?というか、弾けるのか?棹の太さが違うぞ。大丈夫か?」
「仕方が無いだろ。ソレしか、音色で匹敵するのは、無いんだからな。」
とうとう、取り合いに発展。
マムはいったい誰のモノに・・・。




