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第45話 くそ親父

お読み頂きましてありがとうございます。


今週は1話更新です。

「そうか。やはり、マムちゃんは、ユーティーの娼館の楽士なんだな。」


 久々に学園で同じ授業で見かけたリバー先輩が、授業の後、わざわざ隣の席までやって来て質問してきたのだ。


「はい。マムって生意気でしょう?」


 不思議だったのだ。生意気なことを言ってしまったことは、あっても気に入られる要素は、無かったはずなのに・・・。


「ああ。だが、俺の指導にあれだけ喰らいついてきた娘は、初めてだ。」


「それは、そうでしょう?どんなに厳しくてもその指導が的確ならば、上達しますからね。時折、あいつに腑抜けた指導すると生意気に怒鳴られますから・・・。」


「俺もそれやられた。」


 やられたと言いながらリバー先輩はうれしそうだ。


「僕とのやり取りで慣れているだけじゃないですか。師匠とは、そんなものだと、解かっているんですよ。」


「でも、へこむんだよ。俺に付けられた弟子たちにいつもの調子で指導すると離れていくんだよ。家元か他の講師たちに替えてほしいってね。だから、家元の指導方法を真似ているだよ。」


「全員がですか?」


「ああ、何人かは、残ってくれていたが・・・。それも最近。1人・2人と・・・。」


 先輩は、その何人かの名前をだしていく。ははあん。


「先輩、その方たちは、この界隈の娼館でもトップクラスの娼婦たちです。彼女たちは、解かっているんですよ。自信を持ってください。逆にきちんと指導しないと離れていきますよ。」


「そうなのか。だが、どう指導すればいいんだ。わからなくなってきた。」


「マムに聞いてみればどうですか?」


 僕が答えを言ってもいいのだけど、なぜそこまで解かるんだと突っ込まれかねない。それは、避けたいのだ。


「嫌だ。」


 へっ。


「格好悪いじゃないか。」


 遅いですけどね。


「大丈夫ですよ。人の役に立てるならという人間ですから。曝け出してもらったほうが好感度高いですよ。きっと。」


「そうかなあ。でもなあ。」


 それでも、先輩は踏ん切りがつかないようだ。


「わかりました。僕が聞いておきます。先輩と家元の指導の違いを。」


「お、お願いできるか?」


・・・・・・・


 先輩と家元の基本的な指導方法の違いは、無い。どちらも、的確に指摘してくる。ただ、先輩は、指導の際、感情が前面に出てしまうので厳しく感じてしまうのだ。


 それに相手によって、使い分けも必要だ。ウィロー流に通う娼館のお姉さまたちでも、初心者もいれば、熟練者も居る。二胡の技量を積極的に上げたい人間もいれば、とりあえず、弾ければいいという人間もいるのだ。


 これは、娼館のお姉さまたちに聞いたのだが、先輩は、わずか10歳にして免許皆伝で指導にあたっていたそうで、その子供に指導されるという面でも、大人のプライドが邪魔をして、こういう結果を招いてしまったらしい。


「うん。今考えると勿体無いことをしたわ。彼と今の師では、随分上達スピードが違ったからね。」


 当時を振り返り、同時期に彼に習い出し、今でも彼に付いていっている娼婦と自分との技量の違いがはっきり解かった今、あのとき、下手なプライドで彼を蹴ってしまったことを後悔しているようだった。


「また、彼につきたいと思っていますか?」


「ああ、できることならね。」


「では、僕がお膳立てすれば、戻って頂けますか?」


「こちらからお願いしたいくらいだわよ。きっと、他の娘たちも同じように思っているだろうから、声を掛けてみるわ。」


 実は、ここまでするのには、訳がある。あの合奏の何回か後に、家元の指導を受けた際にとても感謝されたのだ。僕の指導をする前に、ウィロー流の講師を辞めたいと言っていたそうなのだが、僕の指導をするようになってそれを撤回したらしい。


 だが、僕がウィロー流に通えるのには、期限がある。いつ、辞めなくてはいけなくなるかわからない。万が一、僕がマムを辞めたことで、先輩が講師を辞めることになってしまっては、申し訳が立たないのだ。


・・・・・・・


「ユーティー・・・、どうして君は、そこまでしてくれるんだい。」


 もう既に何人かの娼婦たちが彼の元に戻ってきているらしい。やはり、人の口に戸を立てられないようで、裏で僕が動いていることがバレてしまったのだ。


「それは、僕の勉強のためですね。これから、多くの楽士たちに指導していかなくてはいかないのです。先輩の貴重な失敗例がそのまま、僕の糧になるんですから、こんな良いことはないですね。」


 これも本音だ。彼の失敗は、僕の失敗。誰に対しても同じように指導する。きっと、僕がやっていた失敗だろう。僕の失敗は、楽士の将来を一生を左右してしまいかねない。


「マムは、知ってしまったのだな。俺が弱いってところを・・・くそ、親父め。」


また来週をおたのしみに。

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