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第44話 合奏

お読み頂きましてありがとうございます。


今週は2話更新です。2話目。

「よろしくお願いしますぅ。」


 今日は、家元が忙しいのか。息子さんが教えてくれるというので、離れにお邪魔したところだ。


 うっ。リバー先輩じゃないか。


 目の前で不機嫌そうな顔をして立っていたのは、王立学園で奏術科の1年先輩のリバーさんだった。声楽科と奏術科では、重なる授業も多く学園でいっしょの授業を受けたこともあり、割とよく知っているほうだったりするのだ。


 割と優しい先輩だったのだが、同じ授業を取っているはずなのに、最近姿を見かけないのだ。


「あれっ・・・・・・。ゴメンゴメン。マム君だったね。では、はじめようか。」


 危ない危ない。ここに通うときは、薄化粧だからかつらで髪の毛が変わっているとはいえ、ユーティーと大差ないのだ。今度から、もう少し、厚化粧にしたほうがいいだろうか。


「ちゃんと教えてくださいぃ!」


 それから、リバー先輩が教えてくれるようになったのだが・・・失敗しても指摘もなく。よいよいと言うばかりで、ぜんぜん教えてくれないのだ。とうとう、僕のほうがキレてしまったのだ。


「おまえ、俺にそんな口を効くなんて、覚悟しているんだろうな。泣いてもしらんぞ。ビシビシいくぞ!いいんだな?」


「はっ・・はいぃ!」


 それからのリバー先輩は、鬼教師と化した。しかし、指摘箇所は、的確で文句を言う筋合いではない。学園での教師と生徒の関係と大差ない。あのロビン先生でさえも、これ以上に厳しいのだ。その分、終った後デレるが・・・。


「よし。今日は、これまで!」


 帰り支度をしていると家元が現れた。


「どうだ。マムちゃんの様子は?」


「そうですね。ようやく、折り返し地点に差し掛かったところでしょうか?」


「そうか・・・。そうだ、2人でこれをやってみないか?」


 そう言う家元が1曲の譜を差し出す。


「こ、これは・・・。」


「そうだ。久々の新曲だ。合奏だが、これなら折り返し地点に差し掛かったマムちゃんでも弾けるだろう?」


「・・・・・・・しかし・・・。」


「マムちゃん。すまんがもうしばらく、付き合ってくれないか?今日は、娼館もお休みだろう?」


「ですが・・・。」


 譜を見たが一応一通り習った演奏方法で弾けそうなのだが、二胡の合奏など初めての経験なのだ。少し練習しただけでできるとは、思えない。


「リバー、どうした母さんの新曲だぞ。やってみたくは、ないのか?」


「・・・・やりましょう。マム君、お願いだ。付き合ってくれないか?」


 そこで初めてリバー先輩が頭を下げた。僕も楽士だ。そこまでされて、引き下がるわけにはいかない。即座に了解する。


 そこからが大変だった。たった3分の曲なのだが、何度も何度も繰り返し練習する。リバー先輩がハイパー鬼教師に変身するのかと思っていたのだが、そんなこともなく、どちらかと言えば今までよりも口調は優しくてミスをしても、何度も何度も頭に叩き込まれるまで付き合ってくれる。


「君は、小さいときに合唱をしたことがあるでしょう?あれと同じだよ。」


 だが、合奏が初めての僕は、どうしても隣で弾くリバー先輩の音に引きずられてしまう。だが、リバー先輩のこの一言で、リバー先輩の音からリズム以外を締め出すことに成功したのだ。


 それからは、トントン拍子で最後まで行きつけた。そして、家元とリバー先輩のお母さまらしき人物の前で、弾きおえることができたのだった。


 本番は、練習の時と違い、リバー先輩の音からリズム以外を締め出せなかったが、一度覚えこんだリズムは崩れることなく、最後まで弾くことができたのだ。


「うむ。いい演奏だった。マムちゃんも上達したな。」


「いえいえ。まだまだですぅ。今回は、リバー先生に引っ張って頂いたお陰ですぅ。」


「ありがとうございます。」


 晴れやかな笑顔で答えるリバー先輩は、いつになくご機嫌な笑顔だった。


「マムちゃん?リバーの音は、どうだい?」


「はいぃ。大好きですぅ。もう、ゾクゾクしますぅ。」


 僕の音が混ざってしまったとはいえ、何度か聞かせてもらった家元の重厚な音とは、違うが光輝く音だった。


「さて、次回は、私も時間が取れるから、マムちゃんがどれだけ上達したか、みてみよう。」


「えっ。」


 そこで不満そうに声を上げたのは、リバー先輩だった。思わず僕が顔を向けるとみるみるうちに顔が真っ赤になっていく。


「なんだ?気に入ったのか。では、しかたがない。次回は傍で聞くだけにしておこうかな。それとも居るだけでお邪魔かな?」


 家元もからかっているのだろうが、リバー先輩は、ますます、真っ赤になり、口もパクパクとして、何も言えない状態だった。しばらく、深呼吸をして、ようやく一言だけ口にだした。


「もちろん、邪魔です。」


今週はこれで終わりです。

来週をお楽しみに。

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