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第43話 楽士としてのプライド

お読み頂きましてありがとうございます。


今週は2話更新です。1話目。

「どうしたの?そんなに落ち込んで。」


「あ、フローラさん。お客さまに二胡が下手だって言われたのぉ。」


 二胡というのは、弦楽器の一種なのだが娼婦が勤めが終わり、泊まりの客に寝物語替りに聞かせる音楽だ。


 今日のお客さまは、伯爵だったのだがその友人と言う方から所望されたため、弾いたのだ。


「それは、仕方が無いわ。マムは習ってないんだから。」


 二胡の流派が決っており、さらに王都で娼婦が習う流派は1つと決っている。一応、王立学園でも教えてくれるのだが流派が違うので覚えても娼婦たちに教えられないため、初級しか習っていなかったのだ。


 伯爵の手前、そんなに貶すわけには、いかなかったのだろう。遠まわしな言い方だったが・・・。


「習いたい。習ってもいい?」


「マム、大丈夫なの。月に5回とはいえ、昼間の休憩時間が無くなってしまうのよ。」


 そうなのだ。二胡を習いだせば学園から戻ってきて娼館に出るまでの休息時間が奪われてしまうのだ。それでなくても、最近は、マクシミリアン様と伯爵だけでなく、様々な方から指名を頂くため、連日大忙しなのだ。


 しかし、楽士のプライドに掛けて、下手なんて2度と言われたくはない。しかも、王都の娼館ならば、楽士だろうと娼婦だろうと必ず習うものなのだ。習っていないなんて言い訳できるはずもない。


「大丈夫ですぅ。なんとか、やりくりしますぅ。だから、習わせてください。」


「そうねえ。あの流派は、女性しか受け付けないものね。習うなら今しかないわね。いっそのこと、免許皆伝すれば、経費も浮くかしら。」


「それは、ちょっと・・・。いつまで、マムをやれるかわからないし・・・。」


「そ・・そうだったわね。」


 おいおい。忘れてたのかよ。


「まあいいわ。あの流派の手ほどきができるくらいで十分だから、頑張っておいで。」


「ありがとうございますぅ。」


・・・・・・・


 数日後、カメリアさんと言う娼婦のお姉さんに連れられ、ウィロー流の門を潜った。


「ドウガ流で少しですか、譜は、見れますか。そうですね。これを1曲、やってもらえませんかね。」


 ここの家元が、連れてきてくれたお姉さんの常連ということもあって、あっさりと直接、家元に面談を受けた。


 この曲は、学園でもやったことがあった。どうやら、ドウガ流でもウィロー流でも初心者は、必ず習う曲のようである。


「ほうほう。姿勢もできてるし、譜もすぐ暗記できるし、初級じゃなく中級だな。普段は、私が教えて、忙しいときは、息子にやらせてみよう。」


 家元が直々に教えてくれるらしい。


「よろしくお願い致しますぅ。」


 それから、3回ほど習ったが流石に家元だけあって、教え方が上手い。娼館で下手だと言われた3点押さえもスルスルとできるようになった。


「よろしい。流石にマムちゃんだ。こんなに吸収力の高い生徒は、初めてだよ。」


 こんなふうに家元は、褒めて伸ばすタイプのようだ。


「ありがとうございますぅ。先生のお陰ですぅ。」


「あの歌と踊りのセンスを見れば、頷けるよ。」


 どうやら、お客さまとして来て頂いたときに家元に歌と踊りを見て頂いたみたいである。


「いやですぅ。娼館で見て頂いたんですかぁ?」


「もちろんだよ。カメリアに勧められてね。今まで、碌に娼館でステージを見た事がなかったのだけど。目からウロコな気分だったよ。まさか、あそこまでのものが娼館で見られるとは、思わなかったよ。」


「本当ですかぁ?ありがとうございますぅ。」


「本当だとも。思わず笑顔になる歌だ。それに君の歌を聞いていると風景が浮かぶのだよ。よほど強く心に描いていないと伝わってこないのだがな・・・。」


 この言葉は、本当にうれしい。いつもその歌の背景を心に描き、伝えよう伝えようとしているのだ。その作詞家がどこの出身でどういった時代背景で・・・といったことを学園の図書館で綿密に調べ、想像し、深く掘り下げ、心に描き、歌に乗せる。


 これを何回も延々と繰り返して、ようやく他人に伝わる歌になるらしい。


 だが、目標はもっと先にある。家元のように音楽に素養がある人間だけでなく。普通の人たちにも伝わるようだ歌にしたいのだ。


 街角で歌えば、周りの人たちが自然と目を瞑り、風景を追いかけてくれるような歌にできたらいいなと思っている。


「うれしいぃですぅ。ありがとうございますぅ。」


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