第40話 凱旋
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王都には、出発したとき以上の人々が集っていた。門の外まで人が溢れ返っている。馬車の外は、人、人、人ばかりだ。北門から王都に入ると街頭だけでなく道の両側に立つ建物からも人が手を振っているのがみえる。
これまでの200年で一番の大勝利だということで沿道に詰め掛けた人々の顔は、随分明るい。
だが、僕の気分は、落ち込んでいた。敵は大きな犠牲を払ったが味方も少なくない犠牲が出てしまった。十数年前の王弟を失った戦に近い数だ。それもこれも僕が慰問団を引きうけたからなのだ。
もし、慰問団を引きうけなければ、国境線の小競り合いで済んでいた可能性が高いのだ。僕がのこのこと戦場に顔を出さなければ、敵に情報は流れなかっただろうし、暗殺者は現れなかっただろう。
・・・・・・・
「ユーティー大丈夫だった。怪我なんかしていないよね。」
ロビン先生の研究室に行くと先生が心配そうな顔で聞いてくる。よっぽど暗い顔をしているんだろうな。
「先生・・・。」
僕は、ロビン先生に慰問団であったことを洗いざらい話した。
「そう、そんなことが・・・。大変だったわね。でも、よくやったわよ。砦の皆を守りきったのでしょう。偉いわ。」
「でも僕があんなところに行かなければ・・・。」
「逆に考えてごらんなさいよ。ユーティーが行かなければ王女も行かなかったわけでしょ。王女が行かなければ、援軍は現れなかった。そうしたら、おそらく父は死んでいたでしょうね。」
そうか、暗殺者が扇動しアレだけの大軍が攻めてきたら、でも将軍ならもっとうまくやったかもしれない。
「でもでもでもでも・・・。」
僕の頭の中で砦で死んでいった兵士たちの顔がぐるぐる回っている。僕がマムに成らなければこんなことには・・・。
・・・・・・・
気が付くと僕は自宅のベッドの中でロビン先生の胸に抱かれていた。どうやら、あのまま気を失って運び込まれたようだ。傍には、心配そうに見つめる母の姿もあった。
「よかった。気が付いたのね。気分はどう?」
「あれから、どれくらい経ったの?」
窓の外は、真っ暗だ。
「鐘6つは過ぎているわ。」
そんなにも寝ていたのか。まあ、そうだろうな。王都に戻ってから殆ど眠れなかったのだ。
「え、そんなに!母さん、娼館の準備は?マムの準備もしなきゃ。」
王都から帰り着くと娼館は、戦の話を聞きたがる客たちでいっぱいになった。娼婦のお姉さまたちも娼婦としての仕事よりも聞きたがったお客さまたちへの接客で大忙しだった。
マムもさらに輪を掛けて忙しかった。娼婦のお姉さまたちが口をそろえて、僕の活躍を語ってくれたからだ。歌を歌っているとき以外は、あちこちから指名が入り、大わらわだったのだ。
連日、夜中までそんな日々が続いていた。僕にとっては、ベッドに入り、死んだ兵士たちの顔がぐるぐる回って眠れないよりは、深夜までおきていて疲れて眠ってしまうほうが好都合だったのだ。
さすがにそれが祟って先生の隣で寝てしまったようだ。
「マムは、今日はお休みしなさい。先生、お任せできますか?」
「はい。」
僕は、そのまま寝てしまった。朝おきると、まだ隣に先生が居た。それも裸だ。そして僕も・・・。
「ユーティー起きたの?じゃあしましょうか。」
ロビン先生は、そういいながら圧し掛かってくる。
それから3日3晩、時折母が食事を持ってくるだけでシテは寝てヤっては寝てを繰り返した。
3日目の夕方になり、ようやく、頭がスッキリするようになった。




