第39話 戦いの女神
お読み頂きましてありがとうございます。
本日4話目です。
「俺の活躍を見てくれた?」
一個中隊200名とマクシミリアン様直属の部隊80名の合計280名と相対する敵軍300名。
マクシミリアン様は直属の部隊に囲まれた状態で主に戦闘を行うのは、直属の部隊の半分と将軍が指揮する一個中隊。
それぞれ、前衛と後衛に分かれ、前衛がある程度消耗すると前衛が後衛の後ろに引き、マクシミリアン様が『広域回復』重傷者のみ、他の治癒魔法の使い手が個別に治療する。それの繰り返しだった。
敵も同様に怪我を負えば、後ろに引いているようなのだが治癒魔法の使い手の数は同じくらいであっという間にMPが枯渇してしまったようだ。
さらに敵が砦に背を向けた時を狙い、砦内の生き残りの兵士たちが打って出たことであっという間に敗走して行った。
だが、それだけでは終らなかった。マクシミリアン様が意気揚々と兵士を纏めて、砦に入ろうとしたときを狙ったかのように、山岳地帯から土煙があがったのだ。
おそらく、マクシミリアン様の視察の帰り道を後ろから襲う作戦だったのだろう。一個大隊約600名ほどは、居ると思われる敵が現れた。
自軍は300名を少し超えるくらいで、今度は逆の立場になったマクシミリアン様だったが、将軍が粘り強い戦いをしたせいで両軍とも一歩も引かない展開になり、日が暮れようとしたそのとき、またもや、山岳地帯から土煙がもうもうと・・・。
さすがにこれはヤバイと思ったが、その先頭に棚引いている旗は、ルム国の旗だったのだ。アマーリエ様の要請を即座に応じた友好国軍と挟み撃ちにしたため、均衡が崩れたのだ。
敵軍は殲滅され、敵軍の将は捕虜となったようだ。
・・・・・・・
マクシミリアン様は、どうしても自分で剣を振るってなかったせいで、ひたすら地味に見える影の立役者と言った立ち位置。
「お疲れさまでしたぁ。」
そういって。マクシミリアン様に抱きつく、今更ながらに身体が震えてきたのだ。
「マムもよく頑張った。えらいぞ。」
「きゃっ。」
もう、すぐに付け上がってくるんだから・・・。マクシミリアン様の手が動きだしたので慌てて引き剥がした。
「アマーリエ様にもお礼言ってあげて。彼女が居なければ、死んでいたかもしれないのぉ。」
「マムと自軍を救って頂いて、なんとお礼を言っていいかわからぬ。ありがとう。この恩は、なんらかの形で返させて頂く。」
「なんのなんの。友人と友好国の危機は、見逃してはおけぬ事態じゃったからの。まあ、そう言うなら、いつか取り立てにくるが覚悟しておいてくだされ。」
いい形でマクシミリアン様に恩を売れたアマーリエ様だ。この分だと将来の王妃になる可能性が高くなったのかもしれない。
・・・・・・・
物見櫓でマクシミリアン様と談笑していると、いつのまにか周囲に兵士たちが集まってきた。なぜか、マクシミリアン様に対する歓声に混じって、僕に対する歓声が上がっている。それも、マムの名前の前には、『戦いの女神』などという大層な形容詞が付いているのには、驚く。
「ほら、マム、歓声に歌声で応えてやればいいぞ。マムの歌う国歌を間近で聞きたい。歌ってくれ!」
やはり、リクエストするのは、マクシミリアン様だった。その後、風魔法で砦内全てに届く範囲で国歌を歌う。やはり、この歌を歌うと身が引き締まるな。
さっきまでの必死だったものとは、全く違うものになった。
3番まで歌い上げると歓声が唸り声のように砦中に鳴り響く。そしてアンコールが延々と続いたのだった。
大盛り上がりで深夜まで宴会が続いているようだったが、後は娼婦のお姉さまがたに任せて先に休もうとマクシミリアン様に小屋の前まで来て、ふと思い出す。そういえば、暗殺者から聞き出した情報だ。我が国の貴族の中に内通者が居たという話だ。
言うべきか、少し迷ったがそのまま、マクシミリアン様に伝えた。
「そうか。怖い思いをさせてすまなかった。もうマムには手を出させない。」
きっと、マクシミリアン様のことだから、一族郎党全て処罰してしまうのだろうが、流石に今回は止められそうにない。まかり間違えば、僕のみならずマクシミリアン様まで殺されていたのだ。
「これからも娼館に通ってもよいか?」
僕が無言になったのを不安に思ったのか、気弱なことを言ってくる。確かにマクシミリアン様が通わなくなれば、もうこんなことは、無いのだろうが・・・。
しかし、ここでマクシミリアン様を手放してしまうと娼館の未来は暗いに違いない。
「はいぃ。よろしくお願い致しますぅ。」
・・・・・・・
翌日、捕虜にした敵軍の将たちを護送しながら、マクシミリアン様と直属の兵士たちと砦を後にした。将軍は、後片付けが済み次第、王都に帰還する予定だと聞かされている。
昨日の内に敵軍の兵士たちの死体から装備を剥ぎ取り、半分を当座の褒章としてルム国の兵士たちに持ち帰ってもらっている。あとは、死体を焼却、埋葬するのだ。
これだけの血が流れたのだ。近くに居る魔獣が嗅ぎつけるとやっかいなのだ。そのままにしておけないらしい。
今週はこれで最後です。
来週をお楽しみに。




