第36話 メンバー
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今週は4話更新となります。お楽しみください。
「わかったのじゃ。その話受けたのじゃ。」
マクシミリアン様が同行することになり、常時いろいろと気の抜けない状況を維持するのは難しいのでアマーリエ様に今回の慰問に同行してもらうようにお願いしたのだ。
表向きの理由はアーマリエ様とマクシミリアン様との仲を取り持つためだ。
他所の国の王女を戦場に連れて行くのは、難しいと思っていたがあっさりと承諾してくれた。もちろん、護衛の方達も同行してくれる。
「僕も行きたい!」
「やめてください。」
ヨハン王子は、名乗りをあげるが護衛に拒否される。
「無理無理!止めとくのじゃ。護衛たちの邪魔をするでない。」
たしかに護衛対象が複数になれば、やりにくいに違いない。聞いた話では本国から護衛を交代要員を含め複数連れてきているようで2名をヨハンの護衛として残し、他の護衛を同行させるようなのだ。
友好国といえど大勢の兵士たちの中に入っていくのだから、それくらい必要なのだという。
「えーそんなぁ。」
・・・・・・・
そして、伯爵もとい将軍の出立の日を迎えた。将軍の赴任と言っていたが、もちろん、将軍だけではない。一個中隊、およそ200名を数える大きな部隊だ。さらに王直属の部隊80名が同行する。
マクシミリアン様が付いてくるとごねたばかりに、いったいどれだけの無駄遣いをさせてしまったのだろう。それを考えると空恐ろしくなってきたので意識の外に追いやる。まあ、帰り道の護衛が不要なので心強いことは確かだ。
王都北部の駐屯地からの出発だというのに、多くの人々が出立を見送りにきていた。
数十を数える馬車には、マクシミリアン様を筆頭にウォーリス将軍や高級士官がそして末席に僕たち娼館の仲間とアーマリエ様たちの馬車が並ぶ。
ここから砦まで1日半、向こうで3泊して王都に帰ってくる予定だ。
砦には、およそ150名の兵士たちが3交代で国境付近を監視しているという。
国境は山岳地帯にあるため、砦から国境付近まで片道半日かかり、昼間の数時間を国境付近を過ごすらしい。
1日目に踊りと歌のショーを行い、2日目に将軍とマクシミリアン様が国境の状況を確認のため出発。3日目夜に帰って来たマクシミリアン様と翌日王都に戻る予定である。
・・・・・・・
砦までそれなりに村もあるのだが、この大きな部隊を泊めるスペースは無いため、当然野宿だ。といっても、テントなどの装備は持ってきているので、夕暮れになると中隊を止め、近くの村寄りにテントを建て始める。
僕たち娼館のテントも兵士たちに任せきりだ。嫌な顔もせず建ててくれる。むしろ、喜んでいる顔だ。男ばかりの兵たちだけの移動が多い中で、滅多に無い女性と触れ合えるだからなのだろう。
娼館のお姉さまたちも楽しそうに兵士たちから野宿の仕方を教えて貰っている。まあ、魔道コンロなど自前の道具も持ち込んでいるから、兵士たちみたいに携帯食料のみの味気ない夕食にはなりえないのだが・・・。
「どうだ。不自由ないか?マム。」
「これはマクシミリアン様。ウォーリス将軍。」
「いつも通り、伯爵でかまわんよ。マム様。」
不自由だらけですとは言えない。一番の不自由は、一日中マムの格好をし続けることなのだが・・・。
「大丈夫ですよぉ。皆さん優しくして頂いていますぅ。」
「今夜は、此処で過ごそうと思うのだが・・・。問題・・・ありそうだな。」
マクシミリアン様が辺りを見回したときにアマーリエ様を見つけたのだろう。そんなふうに言う。いっそのことアマーリエ様と一晩を過ごしたという既成事実でもできれば、アマーリエ様との婚姻がとんとん拍子で進むだろうに・・・。
実は、この慰問の間にマクシミリアン様を罠に掛けようと画策するつもりだ。僕が王女の髪色に似たカツラをかぶり、王女にマムの髪色に似たカツラをかぶって寝てもらうのだ。
万が一、マクシミリアン様がマムにちょっかい出したら、それを盾に婚約を迫る仕掛けだ。
マクシミリアン様は、夕食を此処で摂るとさっさと帰っていった。まあ、慰問に支障がでるような行為は慎むつもりのようだ。問題となりそうなのは、3日目の夜か、帰り道だろうと見当をつけている。
もちろん、アマーリエ様も面白がってこの作戦を支持してくれた。面白がっているところが、イマイチ不安に残るところなのだが・・・。
・・・・・・・
砦の兵士たちは娼館に皆を大歓迎してくれた。1日目のショーも無事に終った。
ショーは、砦の門付近に作られた物見櫓を使用した。螺旋状にある階段を舞台に見せ、踊りそして歌を披露したのだ。
さらに歌は、風魔法に乗せて砦じゅうに響き渡らせ、音響効果を発揮させた。この魔法は、先日魔術師レベル上げたことでできるようになったのだ。
しかし、夜になってもテントにマクシミリアン様は姿を見せなかった。やはり、3日目か帰り道が狙い目なのだろう。
もちろん、娼婦のお姉さま方は大忙しだ。10人ほどのお姉さまだけで150名の兵士たちの相手をするのだから当然である。しかも、高級士官の中には、一晩貸切る人間も居るから全然足らない。
そこは、兵士たちも人間だ。王都に愛する人を残してきている人間も居り、全員が全員、この機会を利用するわけでもないらしい。
娼婦のお姉さまたちは、この3日間昼夜反対の生活を余儀なくされそうだ。
2日目にマクシミリアン様たちが出発し、おそらく国境付近に到着されたと思われるその日の夜にそれは現れた。




