第35話 将軍配置
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「マクシミリアン様、それは本当ですかぁ?」
娼館にいらっしゃったマクシミリアン様がウォーレス伯爵と同行されたから、なにかと思えば言い訳ばかりなのだ。
エル国の隣国にこの200年で数回、頻繁に理由の付けては侵攻してくる国がある。ここ最近では十数年前に王弟が戦死された戦いがそうである。
元々、エル国はその国と比べると国土が半分程度であり、軍事国家であるその国とは、純粋な兵力で5分の1程度である。純粋に全兵力でごり押しすれば勝負は、目に見えているのだが、その国の国土の大部分が荒野ということもあり、長期の侵攻作戦に耐えられないこともあり、国境付近の小競り合いで済んでいる格好になっている。
その国が再び侵攻する気配があるということで、小規模ながら国境付近に砦を築き、備えているという話は遡ること数ヶ月前に聞いていたのだが。
いよいよ、その気配が濃厚という情報を得て、その砦に将軍を配置するという。そこで白羽の矢が立ったのがウォーリス伯爵だというのだ。
「うむ。決してライバルを減らそうなどと思ったわけでは、ないぞ!」
こんなふうにマクシミリアン様は、言い訳をするのである。そういう気持ちがゼロではなかったからきっと後ろ暗いのだろう。
「ご武運を。」
「うむ。ありがとう。そこで、マムにいくつか頼みがあるんだがのう。聞いてくれるか?」
「はぃぃ。なんでございますでしょうぅ?」
「1つは、砦に赴任するに当たってこの娼館ごと慰問にきてほしいのだよ。」
「それは、主人に言ってもらわないと・・・。」
「ご主人の了解は頂いているよ。マムには、歌と踊りをお願いしたいのだが、受けてもらえないだろうか?」
娼館ごとの慰問は、珍しい話ではない。兵士と言えど男だがある程度は欲望をコントロールできるのだが、それが長期間になるとうまくコントロールできなくなり、士気が落ちるらしい。そこで欲望を処理できるように娼館ごと買い上げして士気を挙げられる。
それが、将軍が赴任するタイミングで行われれば、将軍や国家への忠誠度にも大きく影響する。
しかし、一般的な国家予算では、一夜分といえど往復でかかる休業補償などを賄いきれないのだが、そこは、伯爵家が出すらしい。
だが、即物的な欲望の処理が主な仕事で歌や踊りなどのショーを含む慰問は珍しいのだ。
そういう場合楽士は、小額の手当てを貰い休業するのが普通である。
「ならん。ならぬぞ。」
僕が返事をしようと口を開きかけたら。横からマクシミリアン様が口を挟んだ。
「なぜですかぁ?」
「そんな危険なところにマムを行かせたくは無い。それに。」
「それに?」
「その間、俺はマムに会えないではないか。」
おいおい、親離れできないガキかよ。
「1ヶ月出入り禁止とどっちがいいですかぁ?」
娼婦や娼館側としたら、こんなに実入りの多い話は無いのである。休業している間も補償してもらい国にも貢献できるこんな機会は滅多にない。しかも、聞いた話では本格的な交戦が始まるには、あと数ヶ月はかかるらしい。
マクシミリアン様がなんと言おうと受けるつもりで、勝手に条件を付ける。
「・・・・・・・なら、俺も付いていく。」
マクシミリアン様は、本当に国王なのだろうか。確かにマクシミリアン様が砦に行けば、兵士の士気はあがるだろう。ならば、娼館の皆はいらない。
ベストは、1ヶ月程度間を空けてそれぞれ慰問したほうが、士気を維持するのにうってつけなのに、わざわざ切り札を2枚同時に使おうだなんて・・・。
「わかりました。但し、慰問の費用は、マクシミリアン様のポケットマネーでお願いしますぅ。」
マクシミリアン様個人の感情で伯爵家の負担が増えたのでは、全く意味がない。それならば、マクシミリアン様が負担するのが当然だと思うのだ。
「・・・う・・わかった。俺が負担するから、連れて行ってくれ。」
ごめんなさい。また1話更新です。しかも短いです。




