第33話 悲しいできごと
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「じゃあ、ほかの女性を全て切れば、付き合ってくれる?」
「そんなことできるんか?わしの知っている女性だけでも、20人はくだらないぞ。」
できるわけないじゃん。この王都だけも僕の知っているだけでも、留学前に30人は居たはずなんだから。さらに20人追加かよ。どれだけ、下半身の権化なんだこいつは。
「い・・いったい何人いるのよ!」
「そうだな・・・70人くらいかな。」
70人かよ。意外と正直だな。僕の知っている数より多いとは。
「とにかく、王都に住んでいる40人には、断ってくるよ。それで、1回でいいからデートしてよ。」
「切れたなら、いいよ。1回だけならねぇ。でも、健全デートだからね。」
「うん、うれしいな。」
もう、出来る気で居るよ。こいつ、本気なのか。
「あれっ、ケイ様は、どうなされたのですかぁ?」
そういえば、来ると言っていたはずなのに、席に居ない。
「邪魔だから、追っ払った。昔から邪魔ばかりする奴だったからな。」
「そうかな。いいやつじゃったがな。」
ケイが兄になにかしたのだろうか。逆にケイが虐められているシーンや僕を庇ってくれているシーンしか覚えていないんだけど。
「ところで、例の件は、ユーティーに聞いておるかの?」
ようやく、本題に入れる。知らないというと、アーマリエ様が詳しい話をしてくれる。
「いやいや、それは、ダメだろ。後宮に入れるなんて、もってのほかだ。そんな奴、俺が撃退してやる。君も嫌だろう、そんなの。」
おいおい、将来仕える相手だろ。こいつ、頭は大丈夫か?
兄は、留学が終了して帰ってくると王宮に勤めることが決定している。夜や休みの日は、娼館で働くつもりらしいけど。
僕が女性だったら、兄よりは、マクシミリアン様のほうがいいかな。あんなに一途に思われるなんて・・・。この兄には、想像できないだろう。
「トニー様よりは・・・。でも、王妃なんてもってのほかです。後宮にも入りません。約束できます。」
「そうか、約束してくれるか。強引に後宮に入れられそうだったら、うちの国に逃げてくればいいのじゃ。さすがにあの国王といえど、うちの国と構えてまで無理強いは、せんはずじゃ。」
「はい、そのときは、ご厄介になります。」
・・・・・・・
その後、兄は、顔に手形を付けてくる毎日を送っている。どうやら、本気で切っているらしい。1日にいくつも手形をつけてくるところをみると、どうしても滞在中にすべて切るつもりだとわかった。
僕も、そのあまりの痛々しさに、治癒を買って出るほどなのだ。
その日は、着替えて食卓に現れるとめずらしく兄が食卓で待っていた。
「すべて、切ってきたよ。これでデートしてくれる?」
「ええっ、もう・・・。40人も切ってきたの?あれっ、今日は手形付いていないね。」
「ああ、今日の相手は年配の女性だったから、説明したら逆に祝福されちゃった。」
そんな女性にも手を出していたのかよ。
マムの姿でも、手形を付けて帰ってくる姿を見ているし、言い逃れはできそうにない。
「わかったわよ。次のお休みの日に1回だけね。」
「やったー。」
そこには、いままで見たことがない。無邪気に喜んでいる兄の姿があった。
なんで、こんなに誠実なのに僕には酷い態度を示すんだろ。
「ねえ、トニー様は、なんで師匠には、冷たいの?」
僕がこう言った途端、兄は、ぴたっと止まってしまった。そんなにも僕のことが嫌いなのだろうか。
「マム?ユーティーには、内緒だよ。あれはね。好きだから、虐めてしまうんだ。」
え。トニーが僕のことを好き?まさか?
「え、そ、そんなぁ。師匠は、いつも悲しそうな顔をしてますぅ。トニー様のことを話すときは。」
「うん、はじめは、虐めたときに泣く姿が可愛くて、ついつい虐めてしまったんだけど。どうもやりすぎたみたいなんだ。どんどん、離れていってしまってね。さらにあのケイだろ。もう手が届かない存在になってしまったのさ。」
うそ・・・。そんな・・・。
「なんで、マムが泣くの?」
「そんなの悲しすぎますぅ。」
「でも、内緒にしてて、いつかきっと、いつかきっと伝えてみせるから。」




