表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/59

第2話 歌と踊りのおさらい

 メイクルームを出て、母の待つステージに向かう。


「フローラさん、歌と踊りのおさらいをお願いしますぅ。」


 フローラというのが、母の名前だ。普通の娼館では、ご主人さまと呼ばれるらしいが、母はそれを嫌がり、名前呼びをさせているのだ。


 僕がさらに近づいていくと、母は、目を見開いたまま、微動だにしない。


「母さん、どうしたの?」


 僕は、心配になり声を元に戻し問いかける。


「貴女は・・・ユーティー?本当に?」


「はいぃ。『チェリーハウス』の見習い楽士のマムです。よろしくお願いしますぅ。」


 この娼館の娼婦達は、皆、母の名前に、ちなんで花の名前の源氏名を持っている。僕も同じように、付けてみたのだ。


「マム、そうね。いい名前だわ。結構どこにでもある名前だから1日娼館で見ただけの楽士なら、うまく忘れてくれるに違いないわ。きっと。」


・・・・・・・


 母の演奏が始まり、僕が歌と踊りを披露していると辺りから、溜息の付く音が聞こえてくる。そんなにも下手だろうか。特に母からは指摘はないのだけれど・・・。


「お粗末さまでした。お姉さま?いったいどの辺が、ダメでした?遠慮なく仰ってください。お願いしますぅ。」


 僕がそう言ってお姉さま達に微笑みかけると、また、溜息を付かれてしまった。そんなに酷い出来だったのだろうか。


「大丈夫よ。自信を持ちなさい。皆もそんなに蕩けた顔で見ないの!」


 母がOKを出してくれた。お姉さま達は僕に見とれていただけらしい。


「すごいわ。こんなの見たことがない。お得意さまが連れて行ってくれた音楽ホールでみたプロの歌や踊りよりも何倍もすてきだったわ。これなら、お客さまも喜ぶわよ。ねえみんな!」


 お姉さま達は、口々に褒めてくれた。学園で学んだことやマーガレットさんから伝授されたものが実を結んだのだ。ようやく、僕は息を付いた。その途端、僕のお腹がぐぅーと鳴った。


「クスクス。さあ、夕食にしましょう。マムは、その大きな前掛けを付けてね。できるだけ、口紅を落とさないように食べるのよ。」


 母やお姉さま達が少しお腹を抑えている。そんなに笑うことじゃないだろ。少し安心しただけなのに・・・。しかも赤ちゃんじゃあるまいし。と思うような前掛けだ。仕舞いには、噴出すお姉さままで現れた。思わず、頬をふくらませると、今度は、声を出して笑い出したのだ。


 どうやら、この格好でリアクションすると逆効果のようだ。とりあえず、母の言われた通りに静かに食べた。娼館の夕食は、軽めのものだ。お腹がいっぱいでは、仕事に支障が出る。本当の夕食は、仕事が終ってからだという。


 娼婦のお得意さまが持ってくるお菓子や果物もあるらしいのだ。そんなときは、食べない。夜中に食べると太るからということらしい。


 僕も今日の昼食は、学園の食堂でお腹一杯に食べたから、大丈夫だと思う。


いつもお読み頂きましてありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ