第26話 当たりも障りもある話
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それからの展開は、もう最悪だった。マムの話を聞きたいと言い出した2人は、その場を離れたい僕の意志に反して、僕を連れてVIPルームに入っていこうとする。
まさか、逃げ出すわけにもいかない。
「マムのプライベートでしたら、話せません。お二方がマムに嫌われてもいいと仰るなら、話しますが・・・。」
「いや、当たり障りの無い話でかまわぬ。のう伯爵。」
マクシミリアン様は、慌てたように付け加えた。これ以上の失点は困るのだろう。
「さあ、私は構いませぬが・・・。」
伯爵はニヤニヤ笑いながら言う。伯爵も意地が悪い。信頼を勝ち取っている伯爵とマクシミリアン様では、同じ出来事でも嫌われる度合いが違う。
「なら、今日この施設で掛かった費用をこちらで持とう。のう伯爵。」
このVIP施設で受ける料金なんて、払えるわけがないのだ。そんなのを払ったら破産してしまう。
「いえ、私は、始めからそのつもりでしたが・・・。お手当てもつけるから、付き合ってくれないかな。」
こういう気遣いができるのか、流石に伯爵だ。ここまで言われたら、娼館『チェリーハウス』の人間としては辞退できそうにない。仕事と思って割り切るか。
「それでしたら・・・。」
・・・・・・・
マムの口調が出ない。確かに気をつけてはいたが、それほど意識しなくても、化粧をしていないと出ないみたいだ。
VIP専用の露天風呂に行き、裸の付き合いをすることになった。僕を間に挟んで、ゆっくりと温泉に入りながら、伯爵からこの施設の説明をうけたり、当たり障りのない娼館でのマムの話をした。
日常風景の1コマだったが、それでも興味深々みたいだ。
「いいなあ。いいなあ。」
マクシミリアン様は、しきりに羨ましがる。
「国王様は、当館を本当の意味で利用しないのですか?」
「あ・相手がマムなら利用するかもしれないが・・・。」
「他のお姉さま方は、気に入りませんか?」
「いや、マムしか目に入らぬのだ。のう伯爵。」
「でも、伯爵様は、若い方々を連れて当館を利用してくださいますが・・・。」
「そうですね。私もマム様に相手して頂くだけで癒されますが、あそこは、娼館ですから、それだけでは、商売の邪魔をしていることになります。ですから、若い者を連れて行くのです。」
その言葉にマクシミリアン様が目を見開く。そして、おずおずと口を開いた。
「出来ぬ。それは、わしには出来ぬ。目の前で連れて行った者とマムがにこやかに喋るのを思い浮かべただけで、嫉妬に目が回りそうだ。」
心狭っ。
伯爵がつれてくる人たちは、少しお喋りをするくらいで娼婦のお姉さまたちと消えていくから、そんな心配をするようなシーンは滅多にないのだが・・・。
そうか。娼館に来たマイルズさんと喋っていると時折、困った顔をされるのは、このせいなのか。今度は、もっとベタベタしてみるか。
まあ、実際には、マクシミリアン様が利用し始めてから、娼婦のお姉さまの稼働率も上がったし、客層も上がったから、そういう意味では、自然と貢献してもらっているのだが・・・。
・・・・・・・
その後、マッサージルームに移った。ここのマッサージ用ベッドは、変わっていた。ベッドに温泉水が循環しているらしく、常に暖かいのだ。
本当は、個室もあったのだが、警備上の問題なのか。3人とも同じルームで施術を受けている。
施術内容は、温泉で暖まった身体にオイルを使い、リンパの流れが滞らないようにマッサージをするそうだ。
「君、お肌きれいだねぇ。」
施術をしてくれている、お姉さんが、感心したように呟く。
それはもう、頑張ってますから・・・。
元々、インドアな僕はマムになる前から肌が綺麗だとよく言われたが、マムになるようになってからは、より一層気を付けているし、お手入れもかかさない。
マッサージは、気持ちよかった。お肌は、つるつるになる。ただ、困ったことに、気持ちよすぎて快感にかわることがあり、ある一部分が困った状態なるのだ。
隣を見ると、やはり、マクシミリアン様のその部分も困った状態になっていた。僕のと比べると随分大きい、あれをマムに・・・絶対、無理だろう。
このあいだ、襲い掛かってきたときは、全く余裕が無かったから、そんなところを気にする余裕もなかったが、元気になっていたのだろう。
しかも母の話では、後宮に入れられたら、バレても一生閉じ込められる。しかも、僕のままで愛してくれるかもとまで、言っている。想像すると眩暈がしそうだ。
「どうした?ユーティー君。」
「いえ、なんでもないです。国王様。」
もう考えるのは、やめよう。




