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第25話 久しぶりの休暇

お読み頂きましてありがとうございます。

 あいかわらず、マクシミリアン様は、諦める様子が無い。しかも、逢う機会を減らされていたからか、今まで以上に頻繁に通ってくる。伯爵もいれると、もう2週間も休み無く娼館に出ている計算だ。


 確かにマーガレットさんが復帰したから、マクシミリアン様や伯爵のお相手をする時間だけになっているが、流石に疲れが溜まって来たので、母に言ってこの休日は出勤しないことにした。1日中、お休みなんて久しぶりだ。


「そうね。国王様は断っておくから、ゆっくりと休んでちょうだい。そういえば、お客さまに温泉施設の招待チケットを貰ったんだったわ。なにもすることが無ければ、これに行って来ればいいわ。」


「へぇー、それって、どこにあるの?」


「乗り合い馬車で鐘半分くらいのところだって、ゆっくり温泉に入って、美味しいものを食べて、マッサージでも受けてくれば?いっぱい稼いでいるんだから、それくらい贅沢しなさい。」


 僕は小遣いのほかにマムとして娼館で働いている分は、娼館で働いている人々と同様の給料を貰っている。まあ、ほとんどは、母に貯金しておいてと渡すのだが、それでも、同年代の子供達の何十倍ものお金を持っているのだ。


・・・・・・・


 娼館のすぐ近くから出ている専用の乗り合い馬車は、以前乗った王家の馬車に比べれば乗り心地は悪かったが、一般的な乗り合い馬車に比べると随分良い乗り心地だ。この分なら到着するまでにお尻が痛くなることもなさそうだ。


「坊やも温泉かい?」


 馬車には、僕のほかに1組の夫婦が乗り合わせていた。


「ええ、そうです。」


 坊やは、無いだろうと思いながらもそこは接客業、笑顔を絶やさないように答える。


「伯爵様もいいものを作られた。伯爵様の使用人たちは、これを格安で使用できるというから、うらやましいものだ。」


 え。もしかして・・・。


「この施設は、貴族様のものなんですか?」


「知らなかったのかい?ウォーレス伯爵様がお作りになられたのさ。」


 やはり、うちの娼館に通っている伯爵といえば、あの方だろう。他も居るには、居るらしいが・・・。まあ、施設を経営していると言っても、直接、現場で指揮されているわけでも、あるまい。ありがたく使わせて頂こう。


・・・・・・・


 馬車が目的地に到着すると、その希望も最悪の形で打ち砕かれることになった。大理石で覆われたロビーに入っていくと、そこには、お客さまを案内する伯爵様の姿があった。


 そのお客さまは、マクシミリアン様だった。これで休暇もおじゃんかよ。そう思いながらも伯爵とユーティーは、直接顔を合わせたことが無いことに気づき、その場の誰もがしているように膝をつき頭を垂れたまま、彼らが行き過ぎるのを待ってから、素知らぬ顔でロビーにある受付に向かった。


 ロビーで招待状を見せると何かの金属で出来たブレスレットを渡された。これを見せれば、この施設のどこでも、出入りできるらしい。


「但し、今日は、このVIPと書かれた枠内は、特別なお客さまがいらっしゃっているので、近づかないでいただきたい。」


 よかった。マクシミリアン様と使う施設が違うらしい。


「おい!新入り、それ!それ!」


 優しく説明をしてくれた人の隣に居た男性が、僕の渡した招待状をみて声を掛けてくる。


「えっ・・・。ああ、そうですね。失礼致しました。」


 突然、説明してくれた人の態度が急変し、バカ丁寧な口調に変わる。


「俺、伝えてくるから・・・。」


 そう、隣の男性が言うとどこかに行ってしまった。


「申し訳ありません。少々、お待ち頂けませんでしょうか?」


「なにか。間違いでも?」


「いえいえ、お客さま、こちらの手違いでして、まもなく、ご案内させて頂きますので。はい。すみませんが、先ほどのブレスレットをこちらのものと交換して頂けないでしょうか。」


 そう言って、取り出してみせたものは、明らかに先ほどの金属よりも高価な金属・・・おそらく、金の合金・・・で出来たものだった。


 いやな予感がしつつも素直にブレスレットを取り替えた。


 そのとき、先ほどの男性が戻ってきた。滅茶苦茶、汗をかいている。


「お客さま、こちらの係員がご案内しますので、同行して頂けませんでしょうか?」


・・・・・・・


 その後、連れられてきたのが、ウォーレス伯爵とマクシミリアン様の前だった。


「ユーティー君?」


 マクシミリアン様から、声が掛かる。伯爵の顔には、疑問符がいっぱい浮かんでいるようだ。


「お知り合いですか?」


「ああ、『チェリーハウス』の子息で、マムの師匠だ。そうだったな。」


「はい。フローラの子、ユーティーでございます。今回は、ご招待頂きましてありがとうございます。」


 僕は、膝をつき頭を垂れながら、はっきりと返事をする。


「ほう君が、マムの・・・。膝はつかなくていい。立って話を聞かせてくれないか。国王様、よろしいでしょうか?」


「ああ、構わぬ。」


 そっちが構わなくても、こっちが構うよ。と叫びたい衝動を抑え、ゆっくりと立ち上がる。それでも、自然と視線が宙を彷徨う。この2人とは、絶対、目を合わせたくない。


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