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第23話 行きたくない

お読み頂きましてありがとうございます。

 とにかく、走った。走って走って、マクシミリアン様が付いてこないのを見て、控え室に戻り、普通の女の子の姿に戻った。破れた衣装を持ち帰っても仕方が無いので、置いていく。荷物は、少しの手荷物以外無かったので、さっさと化粧だけ落として、逃げるように母屋に戻った。


 母も、娼館の準備で忙しいようで誰もいない。そこでお風呂に入り、気分を落ち着けたあと自分の部屋に戻り、メイクをやり直した。ほら、これならば、誰もわからない。


 そこから、娼館に行き、今日の準備に取り掛かる。


「お疲れさま。先ほど、王宮から使いがあって、今日、国王様は、来られないそうよ。」


 きっと、マイルズさんが手配してくれたのだろう。しかし、マクシミリアン様の名前が出た途端、心臓が跳ね上がった。


 結局、その日の周年パーティーは、いつものように歌と踊りを3回行い、お得意様も今日の公演で初めて知って来られた方も沢山みえて成功裡に終ったようだ。


・・・・・・・


「国王様、今日はいらっしゃるそうよ。」


 それから、数日、音沙汰なかったがマクシミリアン様がいらっしゃるという、いったいどのツラ下げて、逢いにくるのだろうか・・・。なにを言ってやろうかと構えていたのが悪かったのか、暫く経つと突然、気持ちが悪くなってきた。


 次に目を覚ましたときには、近くに母が居た。どうやら、娼館が終る時間まで寝てしまったようだ。


「マクシミリアン様は?」


「なにを言っているの。この子は。貴方が嘔吐物まみれで倒れているのを見つけた母の身にもなってよ。気分が悪いなら悪いって言わなければダメじゃない。」


「ごめんなさい。」


「国王様には、体調を崩していると言っておいたわ。ごめんね。このところ、忙しかったものね。暫くは国王様もウォーレス伯爵様の指名も断っておくわ。」


「断れるんだね。」


「もちろんよ。今は、マーガレットも居るんだし、安心して休みなさい。完全に体調が戻るまでは、娼館に出さないから・・・。」


「うん、わかったよ。暫くは、学園のほうも休んで、ゆっくりすることにするよ。」


・・・・・・・


 翌日、丸1日休んだら、体調が戻ったので、翌々日から王立学園のほうは、顔を出した。


 放課後、偶々、歩いていたロビン先生に捕まり、研究室に連れ込まれた。


「心配したのよ。」


 昨日は、個人授業の日であり、これまで休んだことが無かったし、リハーサルのキスのことがあったので気が気でなかったのだという。


「ごめんなさい。」


「ダメね。私、貴方なしでは、いられないみたい。あんな脅すような形で無理矢理婚約したことで、嫌われたのだと・・・ずっと、悶々としていたわ。この間、言ったことは、忘れてくれない?もちろん、あの件はずっと黙っているつもりよ。」


「もう、嫌になりましたか?」


「そうでは、無いわ。そんなことない。」


「秘密の婚約で申し訳ないですが、暫くこのままで居させてください。」


 僕は、そう言うとロビン先生に抱きついてキスをした。


「う・・んっ・・。」


 どれだけ、抱きついて居ただろう。もしかすると、鐘半分くらいは、経っていたかもしれない。ようやく、僕が身体を離すとロビン先生は、首を傾げてくる。


 なぜ、そんなに長い時間抱きついていたのか、聞きたいのだろう?しかし、聞いていいのか迷っているようだ。伯爵と同じで、こうやって気遣いのできる先生だから、愛しているのだ。


 愛している・・・そう、愛しているんだ。


 ようやく、自分の気持ちに気づくことができた。


「ごめんなさい。しばらく、待っていただけますか?」


 それでも、マクシミリアン様のことを、この人に言うことは、できない。もう少し、もう少しだけ、気持ちの整理が付いたなら、言うから待っててください。僕は、そう視線を投げかける。


「うん。いつか、話してね。」


・・・・・・・


「そうね。もう大丈夫そうね。ちょうど、今日、ウォーレス伯爵様の指名が入ったわ。まずは、リハビリがてら出てみるといいわ。」


 母は、どうやら伯爵の気持ちのいい性格が僕の癒しになっていることが解かっているようで、そんなセッティングをしてくれたらしい。


 その日は、調子が良く、今まで娼館に出られなかったことを鬱憤晴らしするかのように会話が弾んだ。そして、伯爵がお帰りになるということで、玄関までお送りした。


「マムちゃん、国王様が来られたのだけど、出られる?」


 僕が、席の片付けをして、後をマーガレットさんにお任せして帰る算段をしていると、母が近づいてきて、そう言った。


 マクシミリアン様のことだと認識したら、突然、額から玉の汗が滴り落ちだした。


「行かなきゃ!」


 僕が、一歩踏み出したとき、世界が反転した。どうやら、そのまま、気を失ってしまったようである。


・・・・・・・


 僕は、バカだ。そんなことをすれば、いやおうにも、この間の件が明るみに出てしまうことが解かっていなかったらしい。


 僕が、母屋で目を覚ましたときには、すべてが母に伝わったらしい。母は、マイルズさんにそのときのことを聞いたらしく。マクシミリアン様をしばらく、出入り禁止にしたらしい。そんなことができるんだな。


 実際には、マイルズさんが知っていることだけらしく、マクシミリアン様に襲われたが未遂だったとだけ伝わったらしい。


 数日後、今度は、マイルズさん1人がやってきた。


「陛下が倒られました。」


「・・・・・・。」


「どうしても、この国には、貴女が必要なんです。」


 卑怯だ。この言い方は・・・。そんな言われ方をしたら、逢わざるを得ないではないか。で、僕にどうしろと言うのだ。マクシミリアン様の慰み者になればいいのか。昔、母が言ったみたいに後宮に一生監禁されれば、いいのだろうか・・・。


「・・・・・・。」


「どうしても、逢ってもらえませんか?しかたありませんね。」


 その日から、毎日、マイルズさんが来ては、今日の気持ちを聞いてくる。それが、数日間続き、根負けした僕は、条件付きで逢う事を了承した。


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