第22話 ファーストキス
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「なんのことですかぁ?」
僕は即座に切り返せた。
「またまたぁ、別に師匠を取ったりしないですから安心でてくださいぃ。」
とっさのことで、うまく切り返せたと思ったが先生は節穴じゃなかった。マクシミリアン様から贈られた短めのスカートの衣装に似たスカートを着てきたのが仇になった。僕ににじり寄るなり、スカートをたくしあげ、パンツの中に手を突っ込まれたのである。
相手が男性なら十分注意していただろうが、相手が女性だという安心感から、隙が出来ていたのだろう。そこまでの行動が予想できなかった僕が悪いのかもしれない。
「先生、もうそれ以上は・・・。」
ロビン先生は、ソレを引っ張り出そうとしてきたのである。その途端、ロビン先生は、自分のした行動を思いおこしたのか、真っ赤になって俯いてしまった。そこは、僕が、恥ずかしがるとこです。置いていかないでください。
しばらく様子をみていると少し赤みが引いた顔をあげ、なにやら、手をあけたり閉じたりして反芻しているみたいだ。
「な、なぜなの?」
ようやく心が静まったらしい先生が聞いてきた。僕は、観念してこれまでの経緯を包み隠さず、口調はマムのままですべて話した。他に誰が聞いているか解からないので小さい声で、誰がとか主語をなるべく減らした形で・・・。
「そうなのね。それじゃあ、しかたがないわ。」
ロビン先生は、意外とあっさり解かってくれた。
「黙っていてくださいますぅ?」
「そうね。条件次第では、黙っていてあげるわ。」
「条件って言うと・・・。」
「私達の結婚のことよ。口約束でかまわないわ。約束してくれるわね。」
僕にはYESと答えるしか道は残されていないようだ。それに、ロビン先生のことも大好きだし、ロブのことも大好きだ。それに伯爵も大好きなのだ。問題は、マクシミリアン様だけなのだ。
「はいぃ。もちろん、よろこんで!」
「では、約束のキスをしてちょうだい。」
先生が僕に抱きつくとキスを迫ってきた。それから、糸をひくような濃厚なキスをされて、数分後ようやく、解放された。そのとき、かすかに舞台後方のほうで物音がしたので振り返ってみたが誰もいなかった。気のせいだろう。
・・・・・・・
翌日の本番では、多くの得意様や娼館の周年だったからか、一般の男性のお客さまも多かった。昼過ぎから休憩を挟み、2回の公演を行い、成功裡に終った。
「その衣装のまま、迎賓館でもお願いできないだろうか?」
僕は、お酒でいい気分のマクシミリアン様にそう頼まれ、マクシミリアン様と側近の貴族たちが居る迎賓館まで移動し、歌と踊りを披露した。ちなみに、僕だけでいいらしく。母と娼婦のお姉さまたちは、今夜の周年パーティーの準備のために、戻っていった。
迎賓館の舞台の上で、マクシミリアン様たちの前で披露が終ると、王宮楽団も側近の方々も席を離れ、迎賓館の賓客を持て成すための個室でいつもの通り、少しの間2人っきりでお相手することになった。
そのころには、マクシミリアン様は、酷く酔っ払われているようで、凄く上機嫌だった。
「今日は、凄く酔ってますぅ?そんなに楽しかったですぅ?」
だが、周りに誰もいなくなると、途端に怖い顔をする。
「楽しくないどころか、苦しくてね。」
「私の顔を見てもですか?」
「ええ、余計に苦しいですね。」
「なにか私がマクシミリアン様に不愉快なことでも致しましたか・・・。」
「ええ、貴女がほかの男に抱かれたり、キスをされたりすると思うと、酷く苦しいのですよ。」
マクシミリアン様がいつもやろうとしていることでは、ないだろうか。そんなことをする男は、他に知らない。と、思ったけど、昨日のリハーサルでの件を思い浮かべた。まさか、あのときマクシミリアン様がどこかで見ていたのか?もしかして、昨日聞いた物音が・・・。
「そんなぁ、私がマクシミリアン様の苦しみの元凶だなんて、なりたくないですけど、ほかの男性とキスしたことは、ありません。」
キスしたのは、ロビン先生だ。歴とした女性だ。
「では、昨日のリハーサル後の舞台で見たものは、なんだったのかな?」
やはり、アレをみられていたのか。しかも、相手が男性だと思っている。最悪だ。しかも、ロビン先生だと言おうものなら、理由を聞かれるだろう。本当のことなど、二重の意味で言えないじゃないか・・・。
「君にとってあの場は、楽士にとって神聖な場ではないのか?それならば、俺にも考えがある。」
突然、マクシミリアン様が抱きついてきた。凄い早業でキスを奪いにくる。ファーストキスでなくてよかった・・・。なんて思っている場合じゃない・・・。とっさに自分の衣装のたもとの布を自分の顔にかぶせる。それでも、マクシミリアン様の唇の感触が伝わってくる。ゲーだ。
離れたくて本気でマクシミリアン様を押し返そうとするのだが、力では叶わない。無理矢理、手を自分の唇とマクシミリアン様の唇の間に滑り込ませる。それで、ようやく離れた。
「な、なんで、こんなことを・・・。」
僕の目から涙が、滴り落ちて止まらない。
「諦めなさい。貴女は、俺の女になるのですよ。」
マクシミリアン様の女?お・・お・・ん・・な・・・僕がマクシミリアン様の・・・どう考えても無理じゃん。
「嫌・・嫌だ。」
僕は、直ぐに駆け出すが迎賓館の中は、誰も居ないし広い・・・あっというまに、捕まってしまった。しかも、またキスをされそうになる。こんどこそと完全に掌で覆う。今度は、衣装の首もとを持ち、引き摺り落とそうとしてくる。その薄手の布は、簡単に破れる。この時のために、こんな薄い布の衣装を選んだのだろうか・・・。
唇を奪い損ねたマクシミリアン様は、僕の胸に唇を落とそうとしているようだ。どうやっても、抵抗できない。唇を守るので手一杯なのだ。
僕の胸なんかをキスをして、なにが楽しいのだろうか?マーガレットさんに聞いた話では、大きい胸が好きだと言っていたのだが・・・。なにかが、もぞもぞと這い回っているような感触だけで、ちっとも気持ちよくない。
そして、今度は、僕のパンツに手を掛けた。と、その時だった。
「陛下、お止めください。」
その声は、側近のマイルズさんだった。
「マイルズ、俺の恋愛に口を出すつもりか?散々、好きでも無い女ばかり、寄越したくせに、こんな大事なときに邪魔をするつもりか?」
「出します。陛下は、未成年に手を出さないと勅令をお出しになられました。あのときの陛下は、立派でございました。今、マム様に手を出して、後悔されるのは、陛下です。」
「お前がそれを言うのか?」
「マム様、早くお逃げください。貴女の姿が陛下の目に入らないところへ、早く!」




