第20話 嘘吐き
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「・・・・・・。」
マーガレットさんがマクシミリアン様の顔を覗き込み頭を捻っている。どうしたんだろう。
「マム、国王様は、最近ここに通うようになったの?」
マーガレットさんは、囁くように聞いてくる。
「ええ。でも、かなり昔によく来ていたらしいですよ。」
そう僕が答えるとマーガレットさんの瞳が爛々と輝きだした。なにか不味いことでも言ったかな。
「あなた、マーくんでしょ。」
マーガレットさんが突然、マクシミリアン様に向かってこう言った。昔の知り合いなのか?娼婦のお姉さんが10年以上同じ娼館に留まることは、少ないが楽士は別だ。マーガレットさんも随分昔から居るから知り合いでもおかしくはない。
「ほら、13年くらい前だったか夜のお相手してあげたことが、あったじゃない。貴方は、女性を抱くのが初めてみたいだったし、朝起きたとき、なんか慌ててたじゃない?」
それが本当なのは、マクシミリアン様の目が泳いでいることではっきりわかる。
「・・・し、知らない・・・。人違いだろう。」
嘘をついた。最低・・・・。
「さ・・い・・て・・い・・。」
僕は、思わず我を忘れて地声を出してしまった。
「ひぃぃぃ。」
マクシミリアン様は、情け無い顔をして、僕とマーガレットさんの顔を交互に見ている。
「マクシミリアン様ぁ。ご主人さまに聞けば解かることですよぅ。なんなら、聞いてきましょうか?」
「わ、解かった。ごめん。謝るから許して。ね。」
マクシミリアン様が涙目になって、謝ってくる。でも、許してあげない。
「マーガレットさん、もっと話してなにがあったのか聞きたいなぁ。」
「うんうん。いいのかなぁ。」
マーガレットさんは、そう言いながらも僕の意図を汲み取ったのであろう。悪戯っけたっぷりな目をして続ける。
「マーくんは、ね。酔い潰れていたのよね。ときおり、貴族の悪口で奇声を挙げたりして。でもそんな様子が可愛くて、つい悪い癖で、ペロリと頂いちゃったのよ。」
ああ、悪い病気が出てしまったと・・・。
「私は、子供を産んだばかりで今より胸が大きくて、その胸に吸い付いてきたわ。なんだか、子供に吸われているみたいで幸せだったわ。たとえ、そのあと、全く姿を見せなくなったと言ってもね。」
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!もうその辺にしてくれ!!」
マクシミリアン様は、顔を真っ赤にしながら、平身低頭、頭を下げ続ける。
「ねえねえ。今日は、どう?あなたも女性の扱いには、慣れたよね。お勉強の成果を見せてくれない?」
「マクシミリアン様。許してあげますぅ。その代わり、マーガレットとスッキリしてくれば?」
少しでも、此方に向いている欲望を逸らしたいと思い提案してみる。
「ほ、本気か?」
マクシミリアン様は、涙目で僕のほうに訴えかけるような目を向けてくる。なんでだろう。僕を好きだと言うけど、あと2年近くは手を出せないのだから、スッキリすればいいのに。僕が了承してるんだから。
「うん、まあ。」
なんか、僕が悪い気がして少しぼかして答える。
マクシミリアン様の肩がガクッと落ちたようだ。
そんなショックを受けるようなことか?
「マーガレットさん、ダメみたいだよ。もう、一回酔い潰してみれば?そうだ!マクシミリアン様が好きなお酒入りのジュースがあるんだ。それを持ってきてもらおうよ。あのジュースなら飲めますよね。」
「か、帰る。」
イキナリ立ち上がったマクシミリアン様は、逃げるように母のところに向かった。
・・・・・・・
「泣かしちゃ・・・ダメじゃない。」
その日は、後をマーガレットさんに任せ帰宅した。深夜になって、母が母屋に戻って来た。
「うん、でも・・・。嘘をつくなんて・・・それも、自分の初めての相手に対して・・・。酷いよ。」
「あの日はね。侯爵令嬢が処刑された日だったのよ。」
「ああ、マクシミリアン様が貴族不信になった日か。それは、酔い潰れたいかも知れないな。でも、関係ないじゃないか。嘘をつくこととは。」
「それは、知られたくなかったんじゃないかな。マムに。」
「あんな、バレバレの態度で?まあ、とにかく、セクハラが減りそうだから助かったよ。それよりも、聞いてるの?僕を後宮に入れたいだなんて言っているけど。もちろん、断るよね。」
「さあ、それはどうかしら・・・?」
どうやら、今度は、僕が虐められる番らしい。
「へっ、どういう意味。」
「言葉通りよ。流石に権力やお金を積まれたら考えちゃうな。」
「え・・え、で、でも、母さんも困るだろ!ほら、僕は男の子だし。」
「王家の恥になることをわざわざ言ったりしないものよ。そのまま、後宮に一生監禁されるだけだと思うけど。マクシミリアン様のことだから、そのまま愛してくれるかもよ。」
マクシミリアン様が僕を男の子のままで愛してくれるのも嫌だが、一生監禁されるのも嫌だ。
「嫌だよ。嫌だ嫌だ絶対嫌だ。」
「まあ、それぐらい、マクシミリアン様も知られるのが嫌だったのよ。解かった?解かったならもう寝なさい。時折、マーガレットを緩衝材に使うのは、構わないけど、いつも付けたりしないわよ。多少のセクハラくらい自分でなんとかしなさい。マクシミリアン様は、貴女に逢いにきているんだから、次からはそうするって言ってあるから・・・。」




