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第19話 ロリコン国王の思惑

お読み頂きましてありがとうございます。

 マムとして聞けば自分の頑張り次第で声楽家としての道が開けるかもしれない提案なのだが、自分が男だとバレる機会が増えるし、ユーティーとしての時間も減ってしまうどころか、王立学園を辞めなくてはいけなくなる提案では、どうやっても頷けない言葉だ。


 いったい。どうやって断ろうかと頭を悩ませていると、意外なところから援軍がやってきた。


「それは、困るな。伯爵。」


「こ・これは、陛下。」


 そう、いつかのときと同様に、頭の上から言葉が降ってきた。マクシミリアン様がいらっしゃったようだ。


 マクシミリアン様は、僕と伯爵の間に身体を滑り込ませた。


「陛下は、これだけの才能を市井に埋もれさすのが惜しいとは思われぬのですか?」


「そちの言う通り、マムをここで埋もれさすのは、惜しいがこれ以上、マムに魅了される人間が増えるのも困るのだ。」


「陛下は、もしかして・・・。」


「ああ、2年後には、正式に後宮に入ってもらえるように準備を進めている最中だ。」


 話がマクシミリアン様と伯爵に移ったので、僕はテーブルの上の飲み物を口に含んだ際に思いがけない言葉を耳にして、噴き出してしまった。あっ、しまった。マクシミリアン様の顔に・・・。


「けほぉっ、けほっ・・・ご、ごめんなさい。」


 むせて気管に入ってしまった水を無理矢理追い出して、すぐさま謝る。


「よいよい。」


 マクシミリアン様は、顔に飲み物が掛かったまま、僕の背中を擦ってくれた。


「けほ。ありがとうございますぅ。けほ。」


 ようやく、普通に喋れる状態になっても、僕の背中に回ったマクシミリアン様の大きな手を動いたままだ。嫌がるわけにもいかないので放っておく。別に背中くらい減るもんじゃないし、どうでもいい。そんなことで満足してくれるなら、願ったり叶ったりだ。


「陛下は、この娘を本当に後宮に迎えることが可能だと仰るのでしょうか?」


 伯爵は、先ほどの続きらしい。まさか、こんなことを本気で考えていたなんて・・・。


「うむ。マムがこのままでは、不可能なのは解かっておる。しかし、どこかの有力貴族の養女として迎えて貰えれば、できないことは無いと思うが・・・。」


「はあ、それならば・・・。しかし、王妃は、難しいかと・・。」


「名目は、なんでもいいのだ。必要なら名目上の王妃を置いても良いと思っている。」


 目の前でとんでも無い状況が勝手に進行している。これは、黙っているわけにはいかない。


「ちょっ・・・ちょっと待ってくださいぃ。私の意志はどうなるんですかぁ?」


「もしかして、嫌なのか?」


「私は・・・この娼館の主人、フローラ様にいろんな意味で助けて頂いているのですぅ。その恩に報いるために一生この娼館に捧げる覚悟を決めておりますぅ。」


「なに。金の問題か?それとも、この娼館のことか?金銭的なことであれば、どれだけでもあながうことができるだろう。そなたを養女に迎えた貴族から間接的にバックアップすることも可能だし、王妃を輩出したとなれば、この娼館は永久不変で特ランクだろう。」


「とにかく、フローラ様の命令で無いかぎり、どちら様のご要望にもお答えできません。」


 この場は、母が断ることを念頭にそう返してしまった。だが、本当に断ることができるのか。


「フローラか・・・おそらく・・・大丈夫・・・だろう。」


 母の名前が出たとたん、気弱になるマクシミリアン様だった。いったい、どんな弱みを握っているんだろう。とにかく、僕はそれに頼るしかないようだ。


・・・・・・・


 伯爵とロビン先生はお帰りになった。


 今日の2回目以降の歌と踊りからが、マーガレットさんの出番だ。初めの1曲を歌ったところで、呼び出しが掛かる。


 今日は、歌と踊りを任せてマクシミリアン様に付きっ切りのつもりだったのだけど・・・マクシミリアン様にことわりをいれ席を離れる。


 楽屋から舞台に回りこんだところ、舞台の袖に居たマーガレットさんに捕まった。


「なによ。この雰囲気。」


「どうかされました?」


「いつもなら、こんなに皆舞台に注目しないわ。どうなっているの?どこかの貸切パーティーのようだわ。」


「とにかく、ステージを終らせましょう。僕もいっしょに歌うので、デュエット曲に変更してもらいましょう。できますよね。これくらい、マーガレットさんはプロですもんね。」


「だ・大丈夫よ。すこし久しぶりで緊張しているだけ・・・ふぅーーーー。いいわ。」


・・・・・・・


 2回目の公演が終わり、マーガレットさんといっしょにマクシミリアン様のところへ戻った。


「当館の正楽士のマーガレットですぅ。マクシミリアン様、どうでした?」


「うむ、なかなかよかったよ。マムとの息もぴったりだった。」


「ありがとうございます。よろしくお願いします。」「ありがとうございますぅ。」


 マクシミリアン様が褒めてくださったことでマーガレットさんは、すこしリラックスできたようだ。


「マム、国王様だよね。国王様に贔屓にして頂いてるの?すごいわ。なんか違う意味で緊張してきたわ。」


 マーガレットさんは、僕とマクシミリアン様の顔を見比べて、こう囁いてきた。


「大丈夫ですぅ。マクシミリアン様は、優しい方ですから取って喰ったりしませんよぅ。ですよねぇ。マクシミリアン様ぁ。」


 僕は、良く取って喰われそうになっているけど・・・と心の中だけで付け加える。


「ま、まあな。はははは。」


 マクシミリアン様は、身に覚えがあるのだろう。笑い方がぎこちない。


「年増は、お嫌い?」


 マーガレットさんは、マクシミリアン様の隣に座りなおして、しなだれ掛かってる。めずらしい光景だ。娼婦のお姉さまがたは、だれもマクシミリアン様を落とそうなどとしないのだ。


 マーガレットさんよりも随分年下のマクシミリアン様ならマーガレットさんの好みなのかもしれない。このまま、マーガレットさんとくっついてくれたら、簡単に引退できるのだけど・・・。


「俺は、マムのほうが・・・。」


 マクシミリアン様がしどろもどろになりながら答える。やはり、引退は無理そうだ。



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