第18話 伯爵様の提案
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その後のロビン先生がどうなったかが気になった僕は、次の講義の際に根掘り葉掘り聞いてしまった。
マクシミリアン様は、約束通り、ウォーレス伯爵家を訪ね、直々に声楽家への道を伯爵に進言してくださったという。しかも、伯爵が病に倒れて寝込んでいることを知るとマクシミリアン様直々に光魔法で癒してくださったそうだ。
王家には、普通の光魔法とは違い、大部分の病を治すことができる血統魔法が伝わっていると聞く。どうやらその魔法を使ったようなのだ。
それにより、ウォーレス伯爵家後継の長男の襲爵も先のこととなり、ロビン先生の王妃候補の件は、うやむやになったようだ。
ロビン先生も、演出兼新人声楽家として、来月以降もあの劇団の舞台に立つということだった。
「よかったですね。先生。」
「マムのお陰よ。あの場に国王様を連れてきてくれなければ、代役は代役として終っていたと思うわ。御礼を伝えて欲しいのよ。」
「マムもまた一緒に歌いたいと言ってました。」
「そうね。その約束もあったわ。その内、ロブとして御伺いするから、その時はよろしくね。」
この約束がこのあと全く違う形で果たされるとは、このとき全く思わなかった。
・・・・・・・
学園から帰ってくるとそこに居たのは、マーガレットだった。
「ユーティー君、迷惑を掛けてごめんなさいね。」
「マーガレットさん、戻ってくるの?」
現在、マーガレットさんの代わりの楽士を探している最中で僕はマクシミリアン様がいらっしゃるときに娼館で楽士をして、その他の日は、すべてリリアンが担当しており、リリアンの負担が余りにも大きすぎるため、さらに見習いを募集しようかと母と相談していたところだった。
「そうね。これで3人体制になるわ。」
仕方が無い理由があったことは、解かっているが突然逃げたマーガレットさんには、罰として今年の先月までの専属料を返上して、今後1年間は専属料を支払わない出演回数による日給制にするという。1年後に状況にあわせて再度専属楽士として雇うか判断するらしい。
「えっ、マーガレットさんが戻ってくるなら、もうマムは居なくても大丈夫だよね。」
「そういうわけには、いかないわ。国王様は、貴方を指名してくるんだもの。」
「今度は、マムが失踪したことにすればいいよ。」
「無理よ。貴方、マムは従妹だと言ったそうね。国王様に調べられたら、そんな人間が存在しないことがバレてしまうわ。」
しまった。もっとよく考えて違う設定にすれば、良かったな。あのときは、マムに変身することが精一杯でそこまで頭が回らなかったのだ。
「ユーティー君。どういうこと。もうひとり楽士が居るの?」
マーガレットさんが不思議そうに聞いてくる。突然聞いたこともない名前の楽士が出てきたのだ。驚くのも無理はない。
そこでこれまでの経緯をすべて説明した。
「そうなの。そんなにも、ユーティー君に迷惑を掛けてしまったのね。本当にごめんなさい。」
「ううん。僕は、楽しかったよ。スリルもあったしね。じゃあ、あとは、どうやってフェードアウトしていくかだね。それに悪いのは、マザコンのケイだ。マーガレットさんは、悪くないよ。」
「マーガレット、早速だけど今日からお願いするわね。マム、あなたもよ。今日も指名が入っているわ。」
「国王様?」
「いえ、ウォーレス伯爵が指名してくださったのよ。人気者ね。」
きっと、例の件だな。ロブも一緒に来てくれるのかもしれない。
・・・・・・・
ウォーレス伯爵は、伯爵家の係累や所属騎士団の若手を従え、来館してくださった。娼館の売り上げに貢献してくださるようだ。ロビン先生も一緒だ。
ウォーレス伯爵とロビン先生は、僕の指名料は掛かるが本当の意味で娼館に貢献できないことを気遣ってこのようにしてくれたらしい。大きな声では言えないがどこかのロリ国王とは、えらい違いだ。
僕は幼いころに父親を亡くしているせいか、伯爵くらいの年齢の男性にとても弱い。優しくされると気持ちよくてなんでもしてあげたい気分になる。
ロビン先生とのデュエットを所望されると舞台でいつもの倍。10曲もの歌と踊りを披露してしまった。先生も楽しそうだ。
席に戻りお褒めの言葉に舞い上がっていたところまでは、よかったが伯爵の次の言葉が頂けなかった。
「どうだね。ロビンと同じ劇団に所属してみる気は、無いかね?娼館楽士のままでは、惜しい才能だと思うのだが。」