第17話 声楽家としての道
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突然の国王様の来訪にざわつく楽屋を尻目に真っ直ぐと先生のところまで到着した。
「ロビン先生!!素晴らしかったですぅ。ご成功おめでとうございますぅ。」
「マムの先生なのか?」
「はい師の師ですぅ。私の師、ユーティー様の師なのですぅ。」
「ロビンと申します。よろしくお願いします。」
そう、マクシミリアン様に向かって手を差し出す。
「ああ、素晴らしかったよ。この劇団の新人なのかな?たしか、先月までは、エイダという娘が出演していたと思ったが・・・。」
その手にしっかりと答えながらマクシミリアン様が答える。意外にもマクシミリアン様は、オペラ好きなのかもしれない。そんな情報まで知っているとは・・・。
「ええ本当は、演出担当だったのですわ。エイダが病に倒れて全ての歌を歌える新人と呼べる人間が私しか居なかったものですから急遽代役で出演させて頂きました。お耳汚しであいすみません。」
「いやいや、なかなかの物だった。舞台度胸もその透き通った歌声も素晴らしかったよ。なあ、マム?」
「ええ。」
なんとなく、こちらに向けて歌っている仕草は、気になったけど。きっと演出の一部なのだろう。
「これはこれは、国王様、こんな狭苦しいところに来ていただき光栄でございます。私、この劇団の総支配人を勤めさせて頂いておりますアンドリューと申します。よろしくお願いします。」
「うむ。許す。支配人、彼女は、演出担当のようだがこれだけの素晴らしい声楽家。これからも舞台でどう化けていくか楽しみだな。」
「国王様。流石はお眼が高くていらっしゃる。しかしながら、彼女は伯爵令嬢でして、今回は特別に出演して頂きましたが、本来伯爵家の意向に沿った形でないと難しいようで・・・。ま・ま、国王様がそう仰られることを先方に伝えれば大丈夫かと・・・。」
「ほう。伯爵家か。どこの伯爵家だ?」
「ウォーレス伯爵家でございます。」
「そなたがウォーレス伯爵家の末娘か?まさか、ここでその名を聞くことになるとは・・・。」
まずかっただろうか?もしかして、既に王妃候補として名前が挙がっているのだろうか?
「先の戦いでは、ウォーレス将軍には、大変世話になった。戦場で良く聞かされたお嬢さんが声楽家になっているとは・・・。よくあの将軍が許したものだ。まあ、あの溺愛状態なら頷くか。」
「お恥ずかしいかぎりでございます。」
どうやら、支配人も彼女がマクシミリアン様の王妃候補であることは、知らないようだ。
「よし、わかった。俺のほうから、将軍、いやウォーレス伯爵には、伝えておこう。ぜひとも、声楽家としての道を究めていただきたいものだ。」
「ありがとうございます。」
「では、先生お邪魔しました。後半も頑張ってくださいぃ。」
「マム様、国王様、今日は来て頂きありがとうございました。この後もお楽しみください。」
よかった。これで少しでも、先生の声楽家としての道が開けていくならば、これに越したことはないだろう。
・・・・・・・
僕たちが貴賓室に戻るとそこには、この劇場の幻のメニューのホットケーキと紅茶が用意してあった。このホットケーキは、この劇場の幕間でしか食べられず、数量も限定であることが、幻と言われる所以だ。
国王様が少女連れであること聞きつけたスタッフが用意してくれたものだと言う。他の人たちには悪いが、こういう権力の使い方ならば、大歓迎だ。
「わあぁ。ホットケーキぃ。」
嬉しくて思わず僕が言葉を零すとマクシミリアン様が微笑んだ。ホットケーキには、柔らかいバターが乗せられており、傍にはシロップが添えられている。僕は4等分に切り分けたホットケーキの上にそのシロップをたーっぷりとかける。そして・・・。
「はい。マクシミリアン様・・・あーーーん?」
僕が切り分けたホットケーキをマクシミリアン様の口元まで近づけると躊躇なく、頬張ってくれる。とても嬉しそうだ。
「あとは、マムが食べなさい。」
マクシミリアン様がそう言ってくださったので、残りはペロリと僕のお腹に納まった。滅茶苦茶美味しかった。あとで母に自慢してやろうっと、母は、甘いものに目が無く、さらに限定と聞くと買わずには居られない性格なのだ。きっと、悔しがるに違いない。
「ごちそうさまでした。」
・・・・・・・
「ブラボー!!」
オペラの演奏が全て鳴り止んだ瞬間に待ちかねたように拍手が鳴り響く。隣ではマクシミリアン様が声を張り上げて叫んでいる。こんなに声を上げている姿をみるのは、初めてかもしれない。『ブラボー』と叫ぶのにも勇気が必要だ。客席の共感を得られなければ、さくらとみなされるからだ。
その点、かぎりなくさくらに見られない国王様ならそのインパクトも強く、釣られて叫んでいる御仁も多いみたいだ。
旧宝塚大劇場のホットケーキを思い出しつつ書き上げました。
新しい宝塚大劇場には、あるのでしょうか?