第13話 衣装
お読み頂きましてありがとうございます。
番外編っぽくなってしまいました。
「な・・なんだ、その格好は!」
マクシミリアン様は、僕を見るなり、そう叫び真っ赤になって俯いてしまった。
・・・・・・・
「ねえ、フローラさん。マクシミリアン様からまた衣装を頂いてしまいました。」
「いいじゃないの。殿方は、そういったものを好きな女性に送って安心するものよ。遠慮なく受け取っておきなさい。」
僕は、女性じゃないんだけどな。
「でも、これなんかどうすればいいと思う?」
僕は、そう言って母の目の前に差し出してみせる。衣装の布越しに母の眉が引き攣っているのが見えた。そうシースルーになっているのだ。
これを着ろというのだろうか?どう考えても下着が丸見えだ。僕は上の下着はつけないから、上半身裸同然なのだ。
「・・・・・。そうねえ、国王様は今日早くにお着きになるそうだから、着て見せて差し上げれば?」
「もうそろそろ、夢から醒めてもいい時期だよね。これを見れば男だって一発でバレるよね。」
・・・・・・・
これで冒頭のマクシミリアン様の叫びに戻るわけだ。
「え、頂いた衣装ですぅ。ほら、よくご覧になってくださいぃ。」
「知らん。」
「・・・・。まさか・・・マクシミリアン様が、贈って頂いたものですよぉ?」
「すまん。まさか、そんなものを贈っているとは、思わなかったのだ。任せた俺がバカだった。」
「・・・・えっとぉ、だれかにお任せしたと、いうわけですかぁ?」
「わかりました。すぐに着替えますから、少しだけ見てあげてくださいぃ。衣装に罪は無いのですから。」
僕は、よく見えるようにしゃがみ込んでいるマクシミリアン様の前に進んだ。
「・・・ああ、綺麗だ。」
え、この姿を見て、男ってわからないんだ。もしかして・・やばい・・・。
「マムっ・・・。」
マクシミリアン様は、理性の箍が外れたのか飛び掛ってきた。咄嗟に第一次防衛ラインである唇を掌で死守する。助けを呼ぼうと周囲を見渡すと母が駆けつけてきた。なにっ?その手に持っているものは・・・・。
パシッーーン。
そこには、母がマクシミリアン様の頭をハリセンで殴りつける姿があった。・・・いくらなんでも、不味いんじゃないか・・・きっと、同行されている。騎士の方が飛んで・・・。あれっ・・・。いつまで、待ってもこない。その内に2発目、3発目と、ハリセンが飛んでくる。
3発目がマクシミリアン様の耳を掠めた。アレ痛そう・・・。
「痛い!誰だ。・・・・・・・。」
マクシミリアン様がハリセンが飛んできた方を向いて黙り込む。・・・お手打ちには、ならない?さらにハリセンを構えた母にマクシミリアン様の悲痛な叫びが響いた。
「や、やめる・・・から・・・。」
・・・・・・・
母の話を聞いてみると事前に襲い掛かったら、止めてくれと頼まれていたらしい。マクシミリアン様って、そんなに自分の理性の紐が切れやすい自覚があるんだ。きっと、伸びきったパンツの紐のようなのなんだろう。
僕は、これ以上刺激しないように控え室に戻ると予め用意していた替えの衣装に手を通して戻って来たのだ。
「ほら、これでどうです。」
「マムっ・・・。」
パシッ。
またもや、抱きつこうとしたマクシミリアン様にハリセンで突っ込みを入れる母の姿があった。
「国王様、反省!」
居住まいを正したマクシミリアン様が正座をする。まるで躾けられている犬のようである。いったい、この2人の関係は、なんなんだろう。まあ、怖くて聞けないが・・・。
「はいっ!マム、すまんかった。娼館に通い慣れている騎士に頼んだのが間違いだったようだ。」
そうか、だから、ランクの低い娼館の女性達が着る衣装のようだったのか。
「では、今度一緒にショップに行って選んで頂けますぅ?」
「いいのか。デートのようだぞ。わかった、何枚でも買ってやろう。」
・・・・・・・
衣装屋に布を選びに行く日にマクシミリアン様とその隣には、ハリセンを持つ母の姿があった。
「・・・・なんだ・・2人っきりでは、ないのか。」
「なにかおっしゃられて?」
「いや・・・なんでもない・・・。」
え、ここで衣装を作るんですか?ここって、貴族ご用達のお店ですよね。ほら、店主やデザイナーの方達の顔が引き攣ってますよ。それなんか・・・派手ですね。スパンコールだらけ・・・え、本物の宝石が縫い付けてある・・・のですか?
これも似合う、あれも似合うとマクシミリアン様が次々と衣装を決めていく。最後に、デザイナーの方に全身を採寸された。いったい、総額いくらだ?平民が生涯にわたって稼げる金額を軽く越えていったところまでは、覚えているのだけど・・・。
「この辺でいいだろう。成長して小さくなったら、また買いにこような。マム。」
楽しそうなマクシミリアン様の顔を見たら、もういらないなんて言い出せなかった。
途中、流行のケーキ屋で1個で平民の1ヶ月分の給与が飛んでいくケーキをたべて、今度は、アクセサリーショップに向かうという。
そこは、本物の宝飾屋だった。どんどんでてくるわでてくるわ。どう考えても裕福な伯爵家でも購入を躊躇するような品々が・・・。ある1品なんか、ある国の王妃の首元を飾ったネックレスとか・・・一介の楽士には、いらないでしょう。
それは、なんとか固辞した。それでも、娼館の年間売り上げに匹敵する金額の、ルビーのネックレスになった。もちろん、マクシミリアン様が来たとき以外は、怖くて着けられなさそう。
間違いなく金庫のこやしに決定だ。娼館には、多額のお金を扱うこともあって、備え付けの金庫が設置されているのだ。