撮影者
あの日は、特に暑い夏の夜だった。
まとわりつくような、不快な生温い風が時折吹く。
月も無く、重い澱の闇。
そんな事さえ、お誂え向きだとはしゃいでいた。
若者たちは、深夜の廃病院へ忍び込んだ。
光源は、それぞれが手にしたスマホのライト。
一人は、ムービーを撮りながら進んでいく。
画面に写るのは、闇ばかり。
現在、建物内に侵入したのは、三人。
全員が、酔っ払っていた。
敷地まで来たのは、五人。
今、外の車の運転席に収まって、中に入った三人を待っているのが、一人。
奴は、飲んでいない。
素面で、此処まで運転して、酔っ払いを運んできた。
いざ、建物内へ入る段になり、車に残ると言い出した。
その顔は、既に真っ青で。
先に降りていた面子は、バカにしながら建物に向かって行った。
「おーい。おっ化けさん?」
ケラケラと笑いながら、木下が言う。
「なんだよ。そりゃ。バカ。」
ケラケラ。
そう言ったのは、山中。
「呑んだら、ノマレましょ〜。
ノマレるなら、呑みましょう〜」この意味不明な歌を歌っているのが、佐々木。
「ナニカ映った?」
スマホの画面を覗き込みながら、山中が問う。
「イマイチ、映りわりぃな。」
画面を見ながら、眉間にシワを寄せる。
病院内は、割れたガラスや蛍光灯の破片が散らばって、歩く度にガシャリと音を立てた。
小さな病院だ。入院できるような部屋は、せいぜい六人部屋が二つと、個部屋が三つしか無かった。
どの部屋も、カーテンが見る影もなくボロボロに破れ、放置されたベッドが壊されているだけで、別段面白味はなかった。
処置室は、流石にちよっと不気味だったが、器具が散乱しているぐらいで此れと言って特に怖いことは無かった。
「なんだよ。怖くも何ともねーな。」
「マジ、期待ハズレ?」
腹いせに、その辺を蹴りまくる。
「帰るべー。」
そう、誰かが言い出した時。
ヴゥーヴゥーヴゥー
ピピッピピッピピッ
チャラチャラララ
それぞれのスマホが着信を告げた。
「ん?ムービー?」
ムービーが送られてきたらしい。
それぞれが、添付のムービーを確認する。
「な・・何だよ。コレ・・」
三人は、顔を見合わせてから、また、画面を見る。
その顔は、誰もが強張っていた。
映っているのは、つい先程の自分たち。
ゴクリ・・・。
誰かの喉が鳴った。
着信でそれぞれがスマホを確認する映像。
そして・・・・。
驚愕に見開く自分のアップが映しだされた。
誰もが、口を閉ざしてムービーに釘付けになっている。
そして・・・。
驚愕の自分から、カメラの向きが変えられた。
驚愕の視線の先・・・。
あ・・ああぁぁぁああ――・・
三つの悲鳴が重なった。
悲鳴は、絡み合いながら闇に消えた。
静かな暗闇が再び世界を支配する。
カタン・・・。
落ちたスマホの画面には、それぞれの死に顔がアップで映し出されていた。
翌日、車の中で震えている若者が発見された。
彼は、ブツブツと小声で呟いていた。
「一人、多かった・・。」
ガタガタ・・・体の震えは、止まらない。
「あれは・・誰だ?
最後に・・・四人目に入って行ったのは・・・誰?」