別の話
一時間前
車に揺られながら流れる景色を眺めていた。なんたって一時間も車の助手席にいる。時間帯的には午後四時。辺りは薄暗く心地の良い眠気を誘ってくれる。遠くで何か聞こえた気がしたがそれは隣からの声でハッとした。
「モルダー !おい! 聞こえてんのか ?」
運転席から伸びた手で俺の頬をぺチペチと叩かれた。
「ああ、悪い。少しボーっとしてた」
俺の頬を軽く叩いたのはランディーという男で幼い頃から一緒に悪さをしたりしていた仲だ。今は同じ仕事場の同僚だ。
「これから大きな山があるのに寝ようとしてたのか ?」
大きな山か・・・。
「大きな山って…。少し忍び込んでちーっこいメモリーを取るだけだろ ?今までのに比べたら簡単じゃないか」
ランディーはウィンカーを出して左折しながらため息をついた。
「何を言ってんだよ。今から俺達が忍び込むのは警備員もバリバリ営業中のこの街一番の大金持ちの会社だぜ ?セキュリティーが頑丈ってもんじゃない。捕まってもし計画なんてバレてみろ、ムショから出れてもボスにミンチにされちまうぞ」
「大丈夫だって…計画通りやれば失敗しないし俺達みたいな下っ端なんて計画の一角しか知らされてないと思うぞ」
確かに俺達が向かってるのは十数年前まで完全に腐りきった街の半分を回復させた大金持ちの会社だ。並の手口では忍び込めない。でも大丈夫だ。ボスの言われた通りにやっていれば。
「よし、着いたぞ。降りろ」
降りてターゲットの建物を見て率直な感想を言ってしまう。
「でけぇな」
「そうだな。周りのオフィスビルもなかなか高いがこのビルは 60階まであるみたいだぞ」
「何階に行くんだっけか」
「・・・60階だ。」