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エキップテクノロジー   作者: RED
第一章 代わり
15/20

非日常は日常

「どうした!急げ、奴らが上ってくるぞ!」

目の前にはシャッターが閉まっていた。

先頭の研究員はシャッターを殴りながら叫んだ。

「くそ!下の煙を感知して防火シャッターが閉まったんだ!」


このビルはあらゆる薬品等があるため火災感知は素早く行うようになっていて今回それが仇となったということである。


「と、父さん…僕はもう大丈夫です…降ろしてください」

おっおう、と思い出したように父は僕を降ろした。

「もう大丈夫なのか?」

多分大丈夫なんて事はないだろうが心配はさせたくなかった。

「はい。多分想定外の量の薬なんて打ってなかったんですよ。爆破の衝撃で気が動転していただけだと思います」

間違いなく僕の身体の中には薬が流れている。量を間違え、毒と化した薬が。

だけど不思議と何も感じなかった。なぜだろうか。



「父さん!ここで待っていても何の解決にもならないしエレベーターが使えない今奴らはここまでこの階段を使ってくることでしょう!」

戸惑った様子の父はこれでもこの街のシンボル的存在だ。何かしらの指示をくれることだろう。


「そ、そうだな……警備員に連絡を取れ!」


研究員の一人に指示をした。その研究員はトランシーバーで連絡をする動作をした。

「こちら科学技術部の者だ!屋上まであと十階ぐらいあるのだがシャッターが閉まっていて上れない状況だ。救援を要求する。それに社長も御一緒だ。どうぞ」

ガガッと電子音がなった。相手が話す準備をしたということだ。

「うぐっ……。ハァハァ……こちら警備員……」

トランシーバーの向こう側からは銃声や怒号が聞こえる。

「どうした!?いまどこにいる?!」

再び電子音。

「今五十階のフロアにいる…」

五十階と言う言葉に父が反応をした。そして研究員からトランシーバーを荒々しく取り上げボタンを押す。

「スウィフトだ!どんな状況だ!!」

電子音が鳴り響くと先程の警備員の涙声混じりの弱々しい声が聞こえた。

「ここのフロアにあったジャパニーズアニメで見るようなロボットスーツを第3地区のエデンを名乗る過激派の連中が着て暴れまわってます……」


ジャパニーズアニメ?僕は聞いたことない言葉に困惑する。ロボットスーツってなんだ?父の顔をただただ見るしかできなかった。

「もう戦わなくていい!仲間をつれて上へ上れ!!」

しばらくの沈黙が続いた。今の僕たちには数分に感じるほど長い時間。実際は何秒くらいだろうか。


男の声は涙声に変わり、鼻水をジュルジュルと啜る音まで聞こえてきた。



「俺は……俺は…戦っていません…。腰のホルスターから銃を抜けぬまま……仲間が死んで逝くのを…」

電子音がなり会話が途切れる…。


空気が一瞬凍る。


ガガー。この電子音に皆が反応を示す。

「隠れて見ていること…ヒック、じが……ヒック、出来まぜんでじだ…!!!」


大の大人が泣いているのを聞いてただ皆が皆お互いの顔を見合って困惑を隠しきれないようだった。

父はトランシーバーのボタンを押した。

「も、もういいから…!はやく上に避難しなさい!!」


ガッガガー。この電子音は彼の生命が存在していると分かる唯一の綱でもあった。向こうは何やら静けさが伺える。


「自分ば……脚が動ぎまぜん…攻撃が止びまじだ…もうそろそろダメみたいでず…」

今だにヒクヒクと泣いてることがわかる。


するとダッダッダッと何やら激しい足音の様なものがトランシーバーを通して聞こえた。

「どうした?!大丈夫か?!」

すると泣き声が止んだ様に静かな声が聞こえた。


ズズズーっと鼻水を啜る音がしたあと彼の声がした。


「社長…先程のスウィフト婦人が階段をかけ上がるのを見ました…。どうか…スウィフト婦人をお迎え下さい…。この階段だけは死守する所存です…。きっとこの爆音、衝撃で恐怖していることでしょう…」


ここで張った糸を切ったようにトランシーバーからの声は聞こえなくなった。


人は覚悟を決めるとここまで変わってしまうのだろうか……。


皆が黙りこんでしまった。無理もない。こんなこと普段起こり得ない非日常なのだから。


「父さん。僕はお母さんを迎えに行ってきます」

父は焦った様な顔で大声になって僕を叱った。

「駄目だ!!ジョン…お前に何か合ったら私はどうすればいい…?!」


「僕はお母さんに何かあったら貴方を許せません」

僕は父を睨みつけてしまったことにハッとする。

「す、すいません…」


父は驚いた様子でなにも返してこなかった。

「大丈夫です。争い事なんて慣れっこです」


僕は慣れない笑顔をぎこちなく作り階段を飛ばし飛ばし降りていった。

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